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十四







おかしいな。

私は昨日散々飲んで、ちゃんと帰って、何故かジュドがいて、なんやかんやで帰って行って私も顔を洗って寝たはず…。




そう、



そうなんだけど…




(飲みの後半からの会話が思い出せない…)




シャァァアと昨日入らなかったシャワーを浴びながら私は考え込んでいた。

そもそもジュドはなんでいたんだっけ…?

迎えに来てもらった?

そんなわけないよね、入り口までは確かニールが送ってくれたんだもの。

じゃあ何故?

いやいやいや、それよりも問題はアレだ。





そう、朝目覚めた私が目にしたもの。






それは長く使っていなかった花瓶に生けられた一輪の白い花。







「え、誰からもらったやつ…?」






そう、私は全くその相手が思い出せないでいた。

昨日会ったといえばニールかジュドぐらいのものだけれど、どっちだっけ…。

うーん、ジュドの花といえば例年通りなら隊の宿舎に飾って終わりだけれど、今年は隊の宿舎じゃないからなぁ…女性たちに迫られる前に私に押し付けたということも考えられる。



昨今ではギリ花や友花なども流行っていて恋人や好きな人がいなかったりする人たちもとりあえずは自分の花を誰かに渡したいということが多い。

配布される花は一人一輪。

ギリでも友人でも異性に渡すのだからハードルは高いけどね…。年々感謝祭から離れているのは間違いない。





そんな中もらった一輪の花。

うーん、ジュドもニールも仲は良いと思うし、どちらに花を渡しても良いんだろうけれど…。




シャワー室から出た私は出勤の準備をし、迷った末に花を持っていくことにした。














執務室に行くとすでにジュドがいた。

今日はどうやら剣の手入れや鎧の手入れをするらしく、床に広げられた布の上には様々なものが乗っていた。



「おはよう。」

「ああ」


愛想のない返事はいつものことだ。

寝起きは悪いくせに普段から朝は早いものだから本人も早朝の起床は習慣になってしまっているらしい。

私はカバンからアレを取り出した。





「はい、あげる。感謝祭おめでとう。」




鎧などと同じく布を敷いた床に座り込んでいるジュドに赤い花を差し出す。

手元に集中していた視線がこちらに向けられる。



(お、驚いてる驚いてる)



ん?驚いてる?

そう、ジュドはいつもの端整な顔とは違い目を丸くしてぽかんとこちらを見ている。

私から言わせれば間抜けな顔だが、恐らくファンの子からすれば堪らなく可愛いんだろうな。

いや、それよりも驚いてるとは…てことは、私の家にあった花は…。



(勘違いだったか…)



未だに受け取ってもらえない花を差し出している自分が急に恥ずかしくなった。

顔が熱くなってしまい引っ込みがつかない。



「あ、いや、いらなければいいの!よく考えたらジュドは毎年たくさん貰ってるものね!いらないか、ハハ…やっぱりこれは他の人にあげ」

「もらう」


るわ、と続く言葉を発する前に引っ込めようとした花をひったくるかのごとく奪われた。

私は慌てる。だって勘違いだったのだもの。

てっきり争奪戦になる前にジュドが私に白い花を託したのだと結論づけたがどうやら私の勘違いだのだもの。

いろんな意味で恥ずかしさが襲ってくる、ヤバい。顔の赤みがひかない。




「い、いい!アンタはいっぱい貰っててただでさえ困ってるの忘れてたのよ、それは他の人にあげるから返して。」


まじまじと花を見つめていたジュドがこちらを見る。なんて嫌そうな顔を…いや、なんで嫌そうな顔?

ジュドは直接は貰わないように毎年隊の演習場に特設の箱があるのをすっかり失念していた。まぁ近衛兵はジュドに限らず誰かしら人気があるためそういう特設の場所があるのだけれどほぼジュドのためと言っていいと思う。


その花もジュドは毎年確認もせずに孤児院などの施設に寄付してしまうから貰っていないような錯覚をしてしまったのだ。

恒例といえば恒例だったのに…何故忘れていたのか…!




「他のやつって誰に渡すつもりだ。」


嫌そうな顔のままのジュドが言う。

そんなの陛下にはパトリシア様がいるし、私が渡せる人など一人しかいない。



「まぁ、ニールしかいないでしょうね…」


「お前花を贈り合うのがどういう意味を持つかわかって言ってんのか。」


「え、」



え?あ、花を贈り合う?ってことそりゃ両想いってことをさすのは知ってるわよ。でも、ジュドと私の間柄なら長年こんなだし、家族愛くらいはお互い思っていても、別にそんなのじゃないってわかるだろうからこそあげようと思ったのに。

そう、意味くらい…知ってるけれど、てことはまさか…やっぱり家にあった花はニールからってこと?というか、なんで私が花を貰ったことをジュドが知ってるのよ…しかもニールからってことも知ってるの。

ぽかんとする私にジュドが訝しむ。



「お前、まさか……いや、いい。とにかくこれは俺が貰ったものだから返さない、諦めろ。」




花を自分の胸ポケットにおさめ手入れを再開する。頭が軽く混乱してどうなっているのかわからない。



「まぁ、いいか。」



私は考えることを放棄した。仕事しよ。

あ、そうだ、ニールには何か別のお礼をしよう…。うん、それに忘れてごめんの意味を込めて渡そう。

ニールのことだから渡す相手いないからあげるくらいのものだろう。いわゆる友花ってやつだわ。



「それより、今日飲みに行くぞ。」


「いいけど、見つからないでよ?囲まれたら怖いから。」



そう、普段からこそこそ居酒屋には行っているけれどそれは女性たちにがよりつかないような大衆酒場だ。

良いとこのお嬢様たちはまず来ない。

平民の女の子たちでも女の子だけでは近寄りがたいような酒場。

そんな所でも勇者というものは現れるものだ。酒場で働いたりするのはまだよくて、本当に女の子だけで来てしまう子たちにはこちらが肝を冷やす羽目になる。



まぁ、酒場には他の兵士たちもプライベートで来ているし安全っちゃ安全だけどね。嫁入り前の女の子がわざわざ来て良い所ではないよね。うん。


それでもね、ほら、感謝祭中じゃない?

死ぬ気で突撃してくる女の子がいないとも限らない。なのに変装してでも飲みに行きたいというこのおバカさん。なんやかんやでジュドはお祭りが好きなのだ。

村じゃこんな屋台やらなんやらは見られないものね。私もお祭りは大好きだから気持ちはわかる。



「心配するな、今年の変装は自信がある。」



うん、いや、純粋にこれ見たさっていうのもあるかもしれない。

ジュドの変装は年々レベルアップしていて面白いのだ。最悪の場合の手段もなくはないしね。





早く夜にならないかな、と思う私であった。






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