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仕事中の私と、プライベートの私とではまるで正反対だなと思う今日この頃。

仕事中の野暮ったいお局な私にはみんな一定の距離を保ち頭を下げて堅苦しい形式の挨拶をしてくれる。



でもプライベートは真逆。



メガネを外し、化粧も変え、髪型も変え、パトリシア様の手によって華々しくなった自分には皆一様に顔を上げ、気軽に声をかけてくれる。

もともとそれらの姿を知っているパトリシア様や陛下はどちらの私も褒めてくださる。




しかしどちらも私なのだと気づいてくれる人はいない。




時折それが寂しく思う時もある。

パトリシア様は「その違いを楽しめ」とおっしゃるけれど、私にはどうにも活かしきれないでいる事実。

私だけでなく、パトリシア様の指導で変わった女官などを私以外にも何人か見て来たが、暗い印象だった子たちは暗かった頃の姿には戻ることなく華々しい自分を楽しみ、中には早々に結婚の決まった者もいた。


嬉しそうな彼女達を見ていると思う。パトリシア様はまるで絵本に出てくる魔法使いのようだ。新たな世界に飛び立っていく女の子達を聖母のような微笑みで楽しそうに嬉しそうに見ておられる。

そう思うと以前からの自分を捨てず、特に羽ばたきもしない自分が申し訳ない…。















「パトリシア様…ですので、本日で終わりにさせていただこうかと思います。」


「む!?なぜだ!!」



パタパタと私の顔に粉をはたいているパトリシア様は納得いかないという顔をしている。

仕事終わりにこうしてメイクを施されるのを終わりにしたい、そう申し出たためだ。






「…パトリシア様の講義を受けたがる者はたくさんいます。私も長くこのようにご指導いただきましたが、活かし方もわからない私ではなくもっと他の者たちに指導してやってほしいのです。」


「…なるほど…」



うーん、と考え込むパトリシア様。

はたいていた手を止め、白粉を引っ込める。

パトリシアとて指導を受けたい侍女や令嬢たちがたくさんいることは知っていた。

恐らく彼女は納得してくれるだろう。





「ひとつだけ、約束してくれないか?」



考えた末、彼女はある条件を出した。



「これからは夜会に参加しろ。城で行うものだけでかまわん。」

「パトリシア様、しかし私には仕事が…」

「陛下には護衛の者が常についている。夜会でそなたが仕事着で控えている必要はない。」

「…う…承知、致しました。」

「夜会に眼鏡はもちろんなしだぞ!そなたの全力が私は見たいのだから!」



パトリシア様は新しいおもちゃを貰った子供のようにキラキラした目で私を見つめ、両の手で私の手をがしりと掴む。今の彼女には人に否と言わせぬ迫力があった。気がつけば「はい」と返事をした後で、私はちゃっかり完成されたメイクでパトリシア様の部屋を後にした。
















「し、しまった…!私はなんて面倒な約束を!!」




しばらくして我に返る。

夜会!夜会ですって?!

静かな日々に戻ろうと思ったのに、むしろ華々しい世界への門を叩いてしまった。

そんなの今まで一度として出たことはないのに!いや、仕事着で陛下の後ろに控えるのが仕事だったわけで!!だってお客様を陛下がど忘れした時のために名前と顔を覚えて隣でささやくという仕事なのに…。

幸いなのかどうなのか、陛下の記憶力はいい。

今までお名前をお忘れになったことは、陛下がそれこそ陛下になってすぐの頃くらいで今はそんなヘマはなさらない…。


けれど、私が夜会?!

一応ダンスのステップは知っているが、実践経験は皆無だ。不安しかない…パトリシア様は私に何をお望みなのだろう…。


私はとぼとぼとどこへ寄るでもなく宿舎に帰った。




















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