『堕天使』
6枚の翼を持った少年は石碑の近くにあった大樹の枝に座っていた。
「2号。何故ここにいる……。お前は堕天したはずだろ!!」
「その古臭い2号って呼び方使ってるのは博士だけだよ。」
「いいから私の質問に答えろ『堕天使』!!」
2号……『堕天使』。おそらく彼の呼び名だろう。そして、気になる言葉は堕天。さっきもアベルが言っていたが堕天とは一体何なのだろうか。
「はいはい、普通に地上から飛んできただけですよーっと。」
大樹から飛び降りて私の目の前に現れる少年。後ろから見たその黒い翼は悲しくもどこか美しかった。
「なっ!?天界から地上までの距離を一体どうやっ──
質問を続けるアベルの声を遮り、少年は爆弾発言をする。
「それじゃあ僕はこの子貰っていくんで。」
「……ふぇ?」
貰っていく?この子…って私?!えっ?貰われちゃうの!?わ、私まだ花嫁修業もしてないし!!そんな急に貰うだなんて…!
次第に頬が熱くなっていくのを感じ、顔が赤くなっている事を理解した私は顔を手で覆った。
「おい!ふざけるな!!我々の最後の転生神だけは何が何でも渡さんぞ!!お前ら『堕天使』を殺せ!!」
すっかり豹変しきったアベルはそれまで私を襲っていた部下達に少年を殺せと命令し、部下達は少年に襲いかかっていった。が、
「醜い。」
少年はそう一言つぶやくと腰に付けていた二刀を引き抜きそして、それを仕舞う
。
一瞬の出来事だった。それまで機敏に動いていた10人を超える神族がパタパタと倒れていったのだ。それを見て諦めがついたのかアベルは口を開いた。
「ちっ……何が目的なんだ『堕天使』!!」
「僕達は最後の1人を迎えに来たんだよ。」
そう言い放つと『堕天使』は一瞬にしてアベルの背後を取った。
「くっ……そいつが最後の1人って事を知ってたんだな。」
「知ってたも何も加護を受けて襲われてるんだから彼女しかないだろ。それにあんたのファイルを見る限りは残りは1人って事も知ってたしな。」
「バカな!!0号の事はどこのファイルにも描いていないはずだ!!」
「なっ…0号だと!?」
「えっ……はっ!しまった!!」
今までさっきの爆弾発言でボケーっとしていたが何となく状況が掴めた。まず、あの少年は私と同じで転生神。しかもあの少年は2号で私は0号。
そして昼頃にアベル達が賭けをしていた時に1、2、3、4号の話しが出ていて少年は残り1人と言っていたから0号である私の存在はシークレットで少年は1、3、4号のうち2人と会っているのだろう。
しかしアベルも同等に残り1人と言っていて、さらに他は全て堕天したという事も言っていた。つまり私以外の1、2、3、4号は全て堕天してアベルの元を去っていき、残るは私1人と言うことなのだ。
にしてもこんなにキツキツで考察する私も私だがこれは私のせいではなく、こういう風に詰めた読みづらいのがいいって天からの声がした気がするためであってして私は断じて──
「しっかりつかまっててね。いくよ!」
「ふぁい!!?」
深く考えすぎてまたボケーっとしてしまっていた……!気がつくと私は彼に抱き抱えられていたのだ!!
さっきの言葉に動揺してるからかな…。返事も「ふぁい!!?」っておかしすぎじゃん!恥ずかしい…。
とか思っていたら少年が私の事を抱き抱えたまま凄まじい速度で空を飛んだ事によって冷静さを取り戻す。
そして遠くからアベルが何か指示しているのを見て私は彼に
「もしかしたら、先回りされてるかも知れない。」
と伝えたら、彼に
「君を助ける事に失敗すると思う?」
と逆に問い詰められてしまった。
地上から天界まで飛んでくるくらいの力があるのだからそのようなもの屁でもないのだろう。
しばらくすると街の真ん中に穴が空いておりその中には黒い雲がかかっていた。
穴の真上に着くと彼は
「天界雲に入るよ。」
と優しく声を掛けてくれた。
天界雲って確か天界と地上を繋ぐ巨大な柱みたいな雲ってイーニャから教わったけれども実際には道路のような存在だったのね。中は稲光とか見えてて凄く物騒な道だけれども。
そうこうしているうちに私達は天界雲の中に入っていった。
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「やはり天界雲に向かっていたか…。よし、それじゃあ第1部隊は天界雲の中で待ち伏せだ。第2部隊はそのまま追跡を続けてくれ。」
「はっ!」
石碑の前で『映写』の魔法を使って部下と会話するアベルは不敵に笑っていた。
「今に見ていろよ『堕天使』。0号は私のものだ。」
アベルは『映写』の魔法を切るとそのまま暗い街の中へ消えていった。
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