真実
「ついに成功しましたね!」
「あぁ!転生神0号だ!!」
声が聞こえる。聞き覚えの無い声。さっきまで気持ちよく眠っていたのに突然起こされた気分だ。しかし目が開かない。それどころか体が思うように動かない。
「よーしいい子だ!このまま私が引き取ろう!」
突然巨大な手で私は抱き抱えられた。抵抗することも出来ない。せめて声だけでもと声を上げた。
「あぅぅう……。(離して!)」
えっ?上手く声が出ない。というかこんな声では赤ちゃんみたいに舐められてしまう…。
「(……ん?赤ちゃんみたいに…?)」
「私は子育てなんてした事ないんだが大丈夫だろうか?」
「大丈夫ですよ。そのうちすぐに慣れますから。」
その言葉を聞いた瞬間私は理解した。
「(私赤ちゃんになってる!?!?)」
それからと言うもの2度目の人生は強くてニューゲームと言わぬばかりに15年で私は急激に成長していき、いくつかわかった事がある。
今の私は神族と呼ばれ、いわゆる神様だった。神様は人間達に救いの手を差し伸べ平和をもたらすものであり、私を育ててくれたアベル、イーニャという人もまた神族であった。
神族は人間の味方をし野蛮な魔族を倒すことが世界平和であり、絶対的な力を持ってして人間達に加護を与えていた。
また、神族は天界と呼ばれる世界に住みその下には地上界がある。地上界には下劣な魔物が住んでいてそれを駆除する人間の手伝い以外は地上に降りては行けないと言われている。
そして今日は私を育ててくれたアベルの誕生日であった。
「アベルさんの部屋にドッキリで手作りケーキでも置いちゃおっと♪」
そう思い私は普段入るなと言われているアベルの自室に入りケーキを置こうとしたその時、誰かが部屋に入ってきた。慌てて机の下に隠れ様子を見るとアベルと他の男の人達の声が聞こえてきた。
「さて、今日もやるとするか」
「アベル今日誕生日だっけな?じゃあ特別に俺らはいつもの2倍だしてやるよ。」
「ははっ、ありがとよ。」
「とりあえず始めるぞ?」
そう言って男の人はなにやら作業を始めた。魔力を感知した私はすぐに魔法を使っている事に気がついた。
「今日は人間の王国一般兵100人と1匹の野良魔族。さぁ、どっちだ?」
「そうだなぁ、俺は一般兵かねぇ。たかが魔族に何が出来るっつーの。」
「じゃあお前は一般兵な?アベルはどうすんだ?」
「じゃあ俺は下等生物に賭けちゃおっかな。」
普段のアベルとは違う。人を、魔族を下に見るような発言をしたアベルはどうやら賭け事をやっているようであった。
「うげぇ!まじか?!あんな奴に賭けるのかよ。」
「クズなりの踏ん張りってのを見せてもらいたくてな!ハッハッハ!!」
室内に笑い声が響く。人を蔑み、笑い、弄ぶ。神様は慈悲の心、慈愛に満ちたものだと思っていたがそうでは無かったのだ。
「こんな俺達神族全員の玩具になって戦争してる人間といい、魔族といい、本当に滑稽だなぁ。」
「奴隷やら虐殺やらで楽しむ奴らもいれば俺らみたいに賭け事してる奴もいるもんな!ハッハッハ!!」
神が世界平和を望んで人間の手助けをしていたなんてことは無かった。実際彼らにとって地上の生き物は玩具にしかすぎないのだろう。ふつふつと煮えたぎる感情が私のそこから溢れそうだった。そしてさらにまた1つ私の心を動かす発言をアベルがした。
「っていうかお前んとこの小娘転生神なんだろ?他の1、2、3、4号もそうだが別の世界のこんな哀れなヤツから生まれたとかどうかしてるぜ。」
「いいじゃないか。唯一堕天してないんだしさ。それに成長したらお前らどうせペットにさせろとか言うんだろ?」
「やべ?バレた?じゃあ俺予約で6000万出すぜ。」
「じゃあ俺200ー。」
その瞬間私の中で何かが壊れる音がした。今まで信じてきた家族のような存在。育ててくれた人が私を物としか見ていなかったのだ。私は神族の学校で習った転移魔法を使い家の外に出た。そして走った。走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走った。
気がつくと日はすっかり落ちて天界の最も聖なる場所と呼ばれる石碑の前にいた。
「アベルもイーニャもみんなみんな私を騙していた……。」
思い返せば学校では影てクスクスと笑われていた事があり、街中では人が私を避けていた。
「何が世界平和だ!!何が救いの手だ!!あんなクズ野郎私が一片残らず消し飛ばしてやる!!」
炎のような気持ちが私を包んだ。戦争なんて遊びでするんじゃない。命を賭けて戦っているんだ。それを玩具のように使いやがってふざけるな!!と言う叫びが当たりに響く。すると不思議な事に石碑から闇色の霧が吹き出し私を包んだ。
「な、なによこれ!?」
聖なる地とは真反対の霧。しかし、それは暖かく優しいものであった。神族に絶望した私を、神族を憎んだ私を救ってくれるかのように優しく包み込んだのであった。
するとどうだろう。私に力が溢れてくる。アイツらを許さないその気持ちが私を強くしてくれるかのように霧は私の味方をしてくれているのだ。
「聖奈!!遅くまで探したん……!?」
アベルだ。おそらく私がいない事に気が付き、走って追いかけてきたのだ。だが私が纏って霧を目にすると目つきが変わり、睨みつけるかのようにこっちを見つめた。
「……聖奈。さぁ一緒帰ろう。」
鋭い表情で手をこちらに差しのべるアベル。恐らく今まで通りの生活には戻る事は出来ないだろうという事が表情から読み取れた。
「嫌よ、私は神族と一緒に居たくはない。」
キッパリとお断りだ。こんなクズと話したくもない。
「そうか……。お前ら、殺せ。」
アベルの後ろからぞろぞろと神族が現れる。皆武器を持っており私に降りかかるが華麗に避けて反撃の蹴りをいれていった。身軽にこんな事が出来るのは霧のおかげだろう。
「くっ……神王の加護など受けおって。堕天する前に息の根を止めるのだ!」
「それは無理かな。」
私の声でもアベルの声でも、ましてや武器を持ち、襲いかかるアベルの部下の声でもない。
6枚の黒い翼を持つ少年だった。