5話
祈夜と煉の関係が生徒会公認(?)になった翌日、祈夜は風邪で休んでいた会長の奥村桃子(モモコ)と初めて顔を合わせた。
「奥村さん、彼女がこの間から満井(ミツイ)君の代理で手伝いに来てもらってる花蘭さんだよ」
「花蘭です。よろしくお願いします」
煉の紹介を受けて、祈夜がぺこりと頭を下げる。
桃子は顔にかかった前髪を耳にかけながら、口角を上げてニコリとした。
「奥村桃子です。こちらこそよろしく」
上級生だからだろうか、自分にはない大人な雰囲気にドキリとしてしまう。
七禾程ではないが、彼女の声や仕草は同性から見てもどことなく色香を感じさせるものだった。
(1歳しか違わないのに、この差はなんだろう…)
3回目の生徒会ボランティアは、桃子の雰囲気に圧倒されてスタートした。
「会長~カゼ大丈夫ですかー?」
「うん。もう平気。ありがとう」
マナが今日も何かを食べながら、病み上がりの桃子に親しげに話しかける。
見たところ、恐らくチーズが挟まったビスケット菓子だ。
「会長がいなくて寂しかったですよ。ねっ、先輩?」
突然話を振られた煉は、クリアファイルから取り出した何枚かの書類に目を通しながら、振り返らずに答える。
「そうだね、満井君が入院してからは初めてだからね」
同意を求められていたのをさり気なく受け流した(ように祈夜は聞こえた)後、彼は顔を上げて2人の姿を視界に入れた。
「奥村さん、復帰早々で悪いけど、昨日美術部から文化祭のポスター案をいくつかもらったんだ。その話し合いをしたいんだけど、いい?」
「わかった。ごめんね煉君、お休みの間任せちゃって」
「いいよ、まだそんなにやることもなかったしね」
「さっすが煉先輩!デキる男はフォローも上手いね~」
「竹内さん、煽てても何も出ないよ」
祈夜は顔には出さないものの、少なからず3人の会話に驚いていた。
昨日とは打って変わって騒がしいマナの態度もそうだが、何よりも煉の呼び方だ。
桃子は「煉君」、マナは「煉先輩」。
他のメンバー(まどか、悠星、晴菜)は副会長と呼んでいたが、どうやらこの2人は煉の事を名前で呼んでいるらしい。
煉と学年の違う祈夜は、彼が昔馴染みの人以外に「煉」と呼ばれているのを初めて聞いた(実際には昨日マナが一度言っていたのだが)と思い、驚くと同時に耳慣れない、不思議な心地がした。
「じゃあ俺らも仕事をしますか~」
彼女らの会話を特に気にした様子もなく、先程までケータイを操作していた悠星が伸びをしながら椅子から立ち上がる。
それに続いて、まどか、晴菜も立ち上がった。
教室から出ようとする悠星達に、煉が声をかける。
「篠﨑達は今日何をする予定?」
「今日は倉庫の片づけやろうと思ってます。去年のそのまんま突っ込んだんで、何が使えるかわかんなくて」
「そう。篠﨑もこっちの話し合いに加わってもらいたいと思ったんだけど、女子3人だと手が足りないかな?」
「んーどうでしょうね、それは見てみないと…」
何とも言えない、と答えようとした悠星の言葉を、まどかが遮る。
「いえ、私達だけで大丈夫です」
「…本当かよ? 店の看板とか、ベニヤだけど結構重いぞ?」
「どうしても動かせなかったら、篠﨑君や副会長に声をかけるよ」
まどかの言葉に反論できず、悠星は一瞬言葉を詰まらせる。
彼の代わりに返事をしたのは煉だった。
「わかった。困ったことがあったら必ず声をかけに来て。無理して怪我をしたら大変だからね」
「はい」
「篠﨑、予定を狂わせて悪いけどこっちに来てもらえる?」
「…了解です」
ふぅ、と息を吐いて、悠星は頷く。その様子はしぶしぶ、といったような感じで、乗り気でないことは誰の目にもわかった。
文化祭のポスターを決める重要な話し合いよりも片づけをしたいだなんて、よっぽど綺麗好きなんだなと祈夜は思ったが、他の2人はそうは思わなかったらしい。
「篠﨑君、不機嫌そうでしたね」
「それはそうだよ。あの中に入るんだもん、私も避けたい」
並んで前を歩くまどかと晴菜が、苦笑混じりにそんなことを話している。
腑に落ちない何かを感じながらも、祈夜は黙ってその後ろをついていった。
今日の祈夜の仕事は、まどか、晴菜と一緒に、倉庫に仕舞われている過去の文化祭で使用した資材の整理整頓だった。
倉庫には使えるものもあったが、壊れてしまった屋台の骨組みや看板、再利用できなさそうな垂れ幕や布等も沢山あった。
3人は生徒会室から持ってきた使い捨てのマスクをし、両手には軍手をはめて、まどかの指示で作業に取りかかる。
悠星が心配していた通り重いものもあったが、3人で協力すればなんとかなりそうだった。
「そういえば聞きそびれたんですけど、どうして篠﨑先輩はまどか先輩を呼び捨てにしてるんですか?」
片付けの要領を掴んできたところで、晴菜の口からそんな質問が飛び出す。
あの時の篠﨑の反応は祈夜も気になっていたので、手を止めてまどかを見つめた。
2人の視線を受けたまどかは、まるで何でもないことのように、
「彼、元カレなの」
と、さらりと爆弾を投下した。
ええっ?!と晴菜が驚きの声を上げる。
「付き合ってたんですか?!」
「うん。今年の春休みくらいまでかな」
「つい最近じゃないですか!」
「そう。篠﨑君とは中学からの同級生なんだ。それまで話したことはあったけど、高校で生徒会に入ってから結構話すようになって、それで」
頬を赤らめる晴菜とは対照的に、まどかは淡々としていた。
「きっかけは何だったんですか?」
「うーん、それがよくわからなくて。今思えば吊り橋効果だったんだと思う。初めて生徒会に入って、わからないことばっかりで大変だったから。お互いに励まし合ってるうちに、いつの間にか…って感じ」
「そうなんですか…。でも、別れたんですよね? 気まずかったりしないんですか…?」
「全然? 円満解消したと思ってるから、私は気まずいとかそういう気持ちはないかな。あっちはどうか知らないけど」
言いながら、まどかが棚から畳まれた厚めの布を持ち上げて、脚立の下にいる祈夜に届くところまで降ろす。
祈夜は両手でそれを受け止めると、処分するものを纏める場所まで運んで行く。
晴菜はまだ放心しているのか、小さな段ボール箱を抱えながらしばらく2人の動きを眺めて、徐に呟いた。
「まどか先輩、すごいです…」
「すごい?何が?」
また同じような布を棚から持ち上げながら、まどかが聞き返す。
「だって、もし私だったら、たぶん気まずくて生徒会辞めちゃうと思うし…」
流れ作業で、まどかが降ろした荷物を戻って来た祈夜が受け取る。
「何もすごいことなんてないよ。私は生徒会の仕事がしたくてここにいるんだし。篠﨑君がいようといまいと、関係ないもの。晴菜ちゃんだってそうでしょ?」
「そう…ですね。まだ入ったばかりですけど、生徒会は辞めたくないです」
後輩の答えに、彼女は嬉しそうに笑った。
「私も同じ気持ち!だから、後で気まずくならないように徹底的に話し合ったの。きっと晴菜ちゃんもそうすると思うよ」
「そう、ですね。その時は、先輩みたいにできるといいな」
お互いを思いやる和やかな雰囲気に、祈夜も自然と頬が緩む。
自分は一時的なお手伝いだけれど、短い間でも生徒会の一員になることができてよかったと思う。
代理に任命されなければきっと、この2人が交わす温かい会話を知らなかっただろうから。
祈夜が一人胸を熱くしていると、今度は頭の上からからかうような声がした。
「晴菜ちゃんはいないの? 好きな人」
「えっ!」
「その反応は、いるってことかな~?」
「クラスに1人、いるんですけど…。でも恋愛の好きかどうかわからなくて」
「わかる!恋なのか憧れなのか、わからなくなるんだよね」
「そうなんです。自分にないものを持ってるから、気になるだけかなって。でも、話したらドキドキしちゃうから、恋なのかな?とも思って…」
晴菜は照れくさいのを誤魔化すように、片づけを再開する。
せかせかと動き出す彼女の様子が微笑ましかったのか、まどかはふふ、と笑い声を洩らして最後の布を降ろす。
祈夜がその布を抱えて歩き始めるのを見送ると、脚立の上から全体を見渡す。
粗方片付いたのを見て、「よし」と満足げに頷いた。
「大体整理できたし、今日はこんなところかな。処分するものは、後で先生に見て判断してもらおう」
「了解です。意外と早く終わりましたね」
「そうだね、あんまり時間経ってないように思うけど…あれ、もう5時だ」
軍手をはずしたまどかが腕時計を見て驚く。
倉庫へやって来たのは3時半過ぎだったから、少なくとも1時間はぶっ続けで作業していたようだ。
それがわかると、どっと疲労感に襲われた。
「片付けてたときは感じなかったですけど、結構疲れましたね」
まどかがドアに鍵をかけるのを後ろで見守りながら、晴菜がはぁと溜め息を吐く。
そうね、と苦笑するまどかの顔にも疲労の色が滲んでいた。
「会長達はまだ話し合いをしてるんですかね?」
「たぶんそうだと思う。様子を見に来なかったし、まだ話してるんじゃないかな」
行く時と同様、まどかと晴菜が並んで話をして、その後ろから祈夜がついていく。
だが生徒会室に戻る途中で、ふと何かに気付いたようにまどかが振り返った。
「花蘭さん…大丈夫?」
「?」
「そういえばさっきから声聞いてないなと思って。ごめんね、蚊帳の外にしちゃって…」
思いもよらない謝罪に、祈夜は驚いた。
「そんなことないです。私が話さなかっただけだし…」
「でも、話に入りづらかったでしょ? 2人だけで盛り上がっちゃって、ごめんなさい」
「いえ…本当に、気にしないで。聞いているだけで楽しかったから」
「そうだ、花蘭さんにまだ聞いてなかった。花蘭さんは誰か気になってる人、いる?」
まどかに聞かれて、目を丸くする。
まさか自分も質問されるとは思っていなかった。完全に不意打ちだ。
とは言っても、祈夜が答えられることは1つしかなかった。
「そういう人はいない…ですね」
「え?! 1人も??」
「あまり異性にそういう感情を持ったことがなくて…」
困惑しながら答える祈夜に、まどかと晴菜は顔を見合わせる。
「きっと副会長で慣れちゃったんですね」
「うん、私もそう思う」
「…そんなに私と煉って恋人みたいに見えますか?」
祈夜が不服そうに問いかけると、2人はタイミングを合わせたように揃って首を縦に振った。
「見える見える! だって私、彼氏以外の男子に頭撫でられたことないもの」
「あ、てことは篠﨑先輩には撫でられたことあるんですね…?」
「へっ?! ま、まぁ…あるけど。それは別にいいでしょ!」
さっきまで淡々と話していたのに、打って変わって狼狽える先輩を見て、晴菜は目を細めて呟いた。
「まどか先輩…可愛いですね」
同じく祈夜も微笑ましく思って、くすりと笑う。
途端に恥ずかしくなったのか、まどかの頬に朱が差した。
「と、とにかく! 同性ならともかく、男友達とはそういうことしないよ。親戚のお兄ちゃんにならあるけど、兄弟でもこの年になったら撫でられることなんてないし…」
「言われてみれば、そうですね」
2人の意見を聞いて、祈夜は(そういうものなのか…)と目から鱗が落ちた気分だった。
頭を撫でられない日はないんじゃないかというくらい、煉に撫でられ慣れてしまった祈夜には新たな発見だった。
「わかりました。気を付けるようにします」
折角誤解が解けたのに、また誤解されるようなことをしてしまっては意味がない。
昨日は丸く収まってほっとしたが、正直自分の"普通"の感覚が周りの"普通"ではないのだと思い知らされた。
(煉は過保護すぎると思っていたし、これを機に少し控えめにしてもらおう。そうしたらきっと、煉もその分好きなことができるだろうし…)
祈夜は、煉が自分を気にかける所為で彼自身の行動が制限されてしまっているのではないかと不安に思っていた。
その1つが七禾のことだ。煉は七禾が来てからほとんど毎日夕飯を食べて帰るようになったが、祈夜がいるせいでどうしても2人の会話が盛り上がらない。
恐らく煉は七禾ともっと親密な交流がしたいに違いないが、祈夜を(この場合ほのかのことも)気遣って、そういう雰囲気にならないように我慢しているように見えた。
七禾は鬼の女だが、彼女を好きだという煉の気持ちは尊重したい。
もちろん、彼女が煉に危害を加えるようなそぶりを見せた時には、全力で止める覚悟もしている。
――例え命を落としても、煉だけは絶対に死なせない。
密かに闘志を燃やす祈夜の耳に、晴菜の声が届く。
「いいんですよ、花蘭先輩はそのままで」
その言葉は、一瞬にして祈夜の意識を現実へ引き戻した。
「どうして…?」
驚きを隠せず、思わず聞き返してしまう。
マナのように「その方がいいよ」と言われると思っていたし、そうした方がいいと自分でも思っていただけに、晴菜の言葉は意外すぎた。
瞠目する祈夜を見て、彼女は可笑しそうに笑う。
「だって、昨日のやり取りを見たら、そう思います。花蘭さんと副会長は、そのままの方が自然でいいなって思えたんです」
「私も晴菜ちゃんと同じ意見」
まどかも賛同して、晴菜を見つめる。2人は頷き合って、祈夜に微笑いかけた。
「誰に何を言われたかはわからないけど、そのままでいいと思う。友達でも恋人でも兄妹でもない特別な関係って、素敵だもの」
「そうかな…」
「そうだよ。昨日、お互いに信頼し合ってる感じが伝わってきて、素敵だなーって思った」
心からそう思っているのだろう、嘘偽りと感じられない、清らかな声だった。
表裏のないまどかに言われると、お世辞だと撥ねつけそうになる言葉も素直に受け入れられる。
無意識に感じていた壁が壊された心地がして、祈夜はようやく2人に抱いていた緊張が解けた気がした。
「そのままの方が私も楽だから…そう言ってもらえると、嬉しい。ありがとう」
祈夜が微笑み返すと、2人は何故か驚いた顔をして目を合わせて、そして照れ臭そうに笑った。
(副会長が過保護になる気持ち、わかった気がする…)
普段笑わない女の子が笑うと、こんなにも破壊力があるものなのか。
ふわりと大輪が花開いたような笑顔を前にして、まどかと晴菜は同じことを感じていた。
3人は再び生徒会室に向かって歩き出す。祈夜はもう2人の後ろではなく、隣を歩いていた。
「あ…でも会長の前では少しだけ、気をつけた方がいいかも知れない」
あと少しで生徒会室のある2階に着くというところで、ふと思い出したようにまどかが言った。
そうですね、と晴菜も階段を登りながら頷く。
「たぶん副会長もわかってると思いますけど…」
「? 何かあるんですか?」
「きっと一緒にいるうちにわかってくるとは思うけど。会長ね、副会長のこと好きみたいなの」
先程のように顔には出さなかったが、祈夜は内心ひどく驚いて、一瞬足が止まってしまった。
「そう、なんですか」
「うん。副会長にその気はなさそうだけど、会長はきっと花蘭さんにやきもち焼くと思う。だからって意地悪したりはしないだろうけど…」
「女の嫉妬って怖いですから。気をつけて下さい」
「わかりました…」
今日一番の爆弾に、祈夜は片づけが終わった時よりもずっと疲れて、まどかが開けた生徒会室のドアをのろのろと閉めた。
その日の夕食後、お風呂から上がると、珍しく煉がリビングのソファーで寛いでいた。
「まだいたの?」と聞くと、返事の代わりに「祈夜も食べる?」とアイスが乗ったスプーンを差し出される。
祈夜はそれを雛鳥のようにぱくりと食べた。煉のお気に入りの抹茶アイスだ。
「今日、疲れた顔してたからさ。手伝えなかったし、何かあったのかと思って」
どうやら他の2人と比べて(煉には明らかに)疲れた顔をして戻って来た祈夜が気になっていたらしい。
祈夜は答えずに、自然に煉の隣に腰を降ろす。するとまたスプーンが差しだされたので、素直に口を開けた。
舌の上で溶けていく、冷たくてほろ苦いアイスを味わいながら、今日のことをどう伝えようか頭の中で整理する。
「特に何もなかったけど、煉に話したいことがあって」
「なに?」
「昨日のこと、だけど。皆いつも通りでいいって言ってくれたけど、やっぱり少し気をつけない?」
「…祈夜がそうしたいならそうするけど。何か言われたの?」
「ううん、そうじゃなくて。工藤さんと安部さんは昨日のことがあるからもうわかってくれるけど、そうじゃない人も他にいるだろうから…」
ちらり、と煉の反応を伺うと、彼はスプーンを咥えながら天井を見つめて、何か考え事をしているようだった。
だがすぐに祈夜の視線に気付いてにこりと笑うと、カップに残っているアイスを掬った。
「――そうだね。例えば、奥村さんとかね」
はい、とまたアイスを餌付けされたが、味わう前にびっくりして飲み込んでしまった。
「! 気づいてたの?」
「あれだけ分かりやすくされたらね…さすがに気づくよ。祈夜も気づいたの?」
「ううん。2人に教えてもらったの」
「そっか。仲良くなれたんだね」
にこにこ笑いながら、煉もアイスを食べる。
祈夜は徐にソファーの上で両足を抱えると、その膝の上に顎を乗せた。
「煉のおかげだよ」
「どうして? 僕は何もしてないよ。さっそく打ち解けられたみたいで、よかった」
「…嬉しそうだね」
「もちろん。祈夜に友達が増えるのは嬉しいよ」
そう言われると、祈夜も自然と顔がほころぶ。煉に視線を送ると、また抹茶味の塊が一口分近づいてきた。
今度は良い気分で、大事に味わう。
「そうだな…奥村さんのこともあるし、祈夜が手伝いに来ている間はできるだけ2人だけで話さないようにしようか。誰かと一緒ならそこまで気にならないだろうし。帰りはこれまで通り一緒に帰ろう」
「いいよ、帰りも一人で…」
「ダメだ」
一昨日言いだせなかった本音を言おうとすると、その先を読んだ煉が即座に却下した。
こんな風に強い語調で言葉をぶつけられたのは久しぶりで、反射的に口をつぐんでしまう。
「一人で帰るのは許さないよ。七禾さんとも約束したし、この間の事件のこともあるから」
「でも、」
「でもじゃない」
ピシャリと言われてしまい、祈夜は今度こそ黙ろうと決めて両膝を抱え直した。
「少なくとも犯人が捕まるまでは、絶対に一人で帰るなよ。
…約束できるね?」
まっすぐに見つめてくる瞳の強さに逆らえるはずもなく、素直に頷く。
口内に残った抹茶の後味はひどく苦く感じるのに、触れてくる煉の手のひらは飴のように甘く感じた。