多くの商品はお客様の為にあります 第四話
夜勤の朝方は眠い。
品出しや洗浄などがあるが、慣れてしまうと、レジ業務以外なくなってしまう。
掃除しても、時間が有り余ってしまう。
来客が多ければ、レジ業務で時間がつぶれるが、夜間帯はそんなに来客は多くない。
それでも起きていなければいけないからつらいんだ。
30分の休憩もあるが、眠気をとるには不十分だ。
背伸びしたり、指を曲げたりするが、眠気は取れない。
朝方、瞼は言うことを聞いてくれない。
そんな体を起こしてくれるのは、実はお客様だったりする。
「おはよう、眠そうだな。
ご苦労様」
そう言ってきたのは、この常連のサンドさんだ。
強面だったので初めは緊張したのだが、意外と話すると乗ってくる。
「おはようございます。
いつもありがとうございます」
「きょうはあんちゃんなんだな」
サンドさんは、各店員をニックネームで読んでいる。
山本君はやまちゃん、相良さんはイケメン君だ。
俺はあんちゃんと呼ばれている。
「今日はよぉ、浜松まで行くんだよ」
「結構遠いですね」
「急いで帰ってきても、夕方だな」
「お気をつけて」
「あぁ、また明日もここにいたいからな。
安全運転で行くよ」
冗談で言ったつもりなのかと思ったが、サンドさんの表情は真剣だった。
「俺も、お前くらいの子供がいるけどなぁ。
バイトなんてしていないよ」
「そうなんですか?」
「いい年して、バイトもしたことないなんて。
それで就職できるか心配だよ。
あぁ、愚痴言ってもしょうがないな。
またな」
そう言ってサンドさんは出て行こうとしたのだが、
「あっ、ちょっと、お釣り、忘れてますよ」
「ありがとう、またな」
「またのご来店お待ちしています」
サンドさんは、笑顔を浮かべながらコンビニを後にした。