多くの商品はお客様の為にあります 第百十七話
コンビニのバックヤードでは、様々なドラマが繰り広げられている。
社員とバイトの論争、夫婦喧嘩、店員同士の恋愛……
色々話したいことはあるんだが、そうすると、登場人物が増えてしまう。
俺には、これ以上、登場人物を増やす余裕がない。
余裕ができたら、お話ししよう。
ということで、今日は土曜日。
山本劇場の始まりです。
バックヤードの休憩室……
とはいっても、通路にパイプ椅子を置くだけだ。
休憩中にそこに2人座るだけだ。
俺は、弁当と食べ終え、財布の中身の整理を始めた。
交代で弁当を食べ始めた山本が話し始めた。
「この前ですね……」
俺は山本を睨んで、こう言った。
「どこに行ったんだ?」
「えっ、も、最寄りのShahiruですけど……」
「そうだ。
大手カラオケチェーンと言ったら、Shahiruだ」
俺は、右手を突き上げて叫んだ。
あっ、右手に財布があったから、中身がでちゃった。
俺は、それを拾いながら、山本を見ると、俺を睨んでいる。
そして、彼は口を開いた。
「かぁさん、どうせ、歌海派とかじゃないんですか~」
「バカ言え!!
この物語の時代設定は、1990年代後半だ」
「えっ、そうなんですか?」
「そうだ。
それを証拠に、コンビニにポイントカードないだろ」
俺は、財布の中身にあったCDレンタルショップのポイントカードを出して見せた。
「そう言えば……」
「この作品の時代設定の頃は、チェーン店のカラオケ店よりも、
個人経営のカラオケ店が隆盛の時代だ」
「確かに、この時代は、カラオケと言ったら、電車の貨物のような
コンテナの中にカラオケBOXがあるか、閉店したスーパーを改装した
カラオケ店が多かったですよね」
「そうだ。
俺の地元は、バッティングセンターに併設されていたぞ」
「そうそう。
あそこですね。
未だに、カラオケの案内がコンテナに貼ってありますよね」
「この辺で、最寄りのカラオケチェーンといったら、
Shahiruだけだからな」
俺は、財布に、床に落としたレシートや戻していたのだが……
「あれっ……」
「どうしたんですか」
「いやっ、何でもない」
「かぁさん」
「やめろ、山本」
山本が俺のレシートに向かってツッコんできた。
俺は、レシートを離してしまい、山本の目の前に落ちた。
それを山本が拾い、俺を見つめてきた。
そんなに見つめられると、俺、恥ずかしいぞ。
「かぁさん……」
「何だ?」
「これっ……」
山本がレシートを俺に見せつけてきた。
そのレシートは……
『歌海 ●●店』
「かぁさん……」
「まぁ、そんなこともあるさ」
俺は休憩を終え、レジの方向に逃げる……いや、仕事に戻る。
「かぁさん、逃げるんですか!?
説明してくださいよ」
山本が追いかけてくるが、俺は必死に逃げる。
「ねぇ、かぁさん……」
もう、しつこいぞ。
「かぁさん」
この話終われないじゃないか!!
ということで、次回に、この話、続きます。