多くの商品はお客様の為にあります 第百九話
俺は、コンビニ夜勤バイト勝木の9月のイベント体験会(?)に
つき合わされ、ヘトヘトになっていたが、眠気はさほどなかった。
もう、日が暮れ、周囲には闇の帳が降りている。
そろそろ帰りたい。
「まだ、終わらんのか?」
「次で最後だ」
そう言って勝木が連れてきた場所は
「お前の家?」
「そうだ。
最後はお月見だ!!」
「月見?
月なんて見てどうするんだ?」
「いいから」
そう言って、勝木は庭に俺を引っ張っていった。
そこには、既にテーブル・椅子、そして月見用の団子が用意されていた。
俺はそこに用意されていた椅子に座らされた。
「たまには、ボッーと月を見るのも楽しいぜ」
勝木は家の外灯を消しに行った。
今日は晴天で、雲一つない。
周りには住宅は少なく、田畑ばかりである。
空に余計な光はなく、漆黒の闇である。
家の外灯もなくなり、本当の闇が訪れる。
小さな星たち、その中心で大きな月が輝いている。
「大和」
勝木が俺に団子を渡してきた。
「あっ、ありがとう」
俺は団子を手に、再度、月を見上げる。
漆黒の闇に映える月……
椅子の背もたれにもたれかかると、背が伸びて気持ちいい。
この脱力感……
1日、勝木に振り回されて、大変だったけど、この解放感が
何か色々な嫌なことを忘れさせてくれる感じがする。
俺たちは、ただただ、月を眺めるだけだった。