多くの商品はお客様の為にあります 第百話
深夜のコンビニは、寂しい。
繁華街や駅前などのコンビニは深夜でもそこそこのお客は来るのだろうが、
こんな田舎では、夜間帯に来る客はほぼいない
まぁ、土曜日なので、そこそこ、お客は来ている。
「ありがとうございました」
このお客を送り出すと、店内は誰もいなくなる。
「ふぅ~」
「かぁさん、休憩に入りますか」
「そうだな」
俺たちには、15分休憩が与えられている。
とはいっても、店長がいないので、少し多めにとったりする。
毎週土曜日は、山本とのバイト。
いつもはくだらない話なのだが……
「牛丼といったら、松吉屋ですよね?」
山本が突然こんなことを言い出した。
「なにっ!?」
俺は、山本をにらみつける。
「えっ、何ですか?」
明らかに、山本がおびえている。
ちょっと楽しい。
もっと睨みつけてやれ。
「かぁさん、怖い……」
「お前が、変なことを言うからだ!!」
「ひぃ」
「牛丼と言ったら、吉屋だ!!」
俺も、松吉屋派だけど。
ここは、面白いから、吉屋派のふりをしよう。
「きらい屋、神部灯篭亭とかがあるじゃないですか……」
「吉屋は、牛丼の先駆けだ!!
創業は19世紀だぞ!!」
「そうなんですか?」
「1899年創業だ」
「創業は19世紀でも、味噌汁が別料金って……」
「お前は安ければいいのか!!
安かろう悪かろうを選ぶのか、お前は!!」
「あっああっ……」
「あっ、熱くなってしまった。
失礼。
確かに、他の牛丼チェーンもうまいが、やはり老舗の味は真似できんよ」
「うぅ……」
「分かったか!!
牛丼といったら吉屋だ!!」
「はいっ……」
山本が姿勢を正す。
面白かったぞ。
そろそろ、締めに入ろう。
「そしたら、もう吉屋以外の牛丼は食べちゃいけないぞ」
「ええっ……」
「いいか!!」
「はいっ」
「分かればよろしい。
ということで、夜食にしよう」
「かぁさん……」
「何だ?」
「それっ……」
「牛丼……」
「かぁさんは、吉屋の牛丼愛にあふれているんじゃないですか?」
「……まぁ、俺は、松吉屋派だからな」
「えっ、さっきのは何だったんですか……?」
「俺の退屈しのぎ
かくして、牛丼論争は幕を閉じたのだった。