第2話 通りすがりの変な人
あさみとたかし、2人が付き合い始めてから数日が経過した。
今のところ、何の問題も無いようだ。
「頼むから、何事も無く付き合っててほしいなー。」
さつきは、ラブラブな2人を見ながら、そう呟いた。
「それは、本心?」
また横から声が聞こえて、びっくりして見てみると、あの日、2人が付き合い始めたことをさつきに報告してきた日にいた、彼がそこにいた。
「また、あんた?」
「うん。覚えててくれたんだ。」
「うん。通りすがりの変な人。」
「えー、それは覚えてなくていいよー。ところで、前回もだけど、俺の質問に答えてくれてないよね。」
さつきは少し、首を捻った。
そういえば、あの時は、彼が急に来て急に去ったことに驚いて忘れていたけれど、何か質問されていた気がする。
「あ、忘れているでしょ。じゃあ、もう一回言ってあげる。
1、もう嫌、と言ったのは、あの2人に対して?それとも自分に対して?
2、何事も無く付き合い続けていてほしいって呟いたのは、本心?」
「ああ、そうだったわね。
1、嫌になったのは、自分自身。2、それは本心です。これでいい?」
「ふうん。それって、本音なの?」
「何が言いたいの?」
さつきは、少しむっとした。
彼は、少し困ったような笑みを顔に浮かべた。
「あ、いや、変な意味じゃないんだ。ただ、はた目から見ていて、俺はあの2人にイラっとしたし、君はまだ、たかしくん?のことを好きなように見えたから。」
『君はまだ、たかしくん?のことを好きなように見えた』
この言葉が、さつきの胸に突き刺さる。核心を突かれたような、そんな気分。
私はまだ、たかしが好きなのだろう。あさみが付き合っている、今ですら。
さつきは、そう思いながら、少し下を向いた。
「ああ、気に病まないで。気持ちはそんなに簡単に割り切れるものじゃない。そうでしょ?
まあ、君も色々と不平不満が溜まっているはずだし、気が向いたら俺にでも愚痴ってよ。じゃあね。」
そう言うと、彼は去って行った。
「相変わらず、変な人。」
さつきは、幸せそうな2人を眺めながら、さっきの言葉を思い返していた。
「私、まだたかしのこと、諦められていないのかな。」
さつきは、そう呟き、下を向いた。
2人のことを応援したいのも本心で、たかしが好きなのも本心で。
今、私はどうするべきなんだろう、と考えていた。
「さっちん!ねえねえ、どうしたの?体調悪い?」
ふいに、あさみが心配そうにさつきの顔を覗く。
さつきは、ふと我に帰り、さっと笑顔を作った。
「ううん、何でもないの。気にしないで。」
「そう?ならいいんだけど…。」
あさみが首を傾げながら、さつきを見ている。
「ねえ、じゃあさ、今度の土曜日に遊びに行かない?息抜きにでもさ!ね!きーまり!」
あさみはそう言うと、駆け出して行ってしまった。
「え?ちょっと、もー。」
さつきは、その強引さに呆れつつ、少し笑っていた。しかし、同時に嫌な予感がしていた。
「ま、まあ気のせいよ。ね。」
そう自分に言い聞かせつつ、さつきは家路についた。
・・・・・・・・
その土曜日。
さつきは、あさみと約束した遊園地に来ていた。
「おっそいなー、あさみ。」
ちらっと腕時計を見る。12時半の約束のはずが、もう1時前である。
そわそわしながら待っているさつきの目の前に、やっと、見慣れた人影が見えてきた。しかし、人影は…2つ。
「え?」
「ごっめーん、さっちん!!遅れちゃった!!」
「ごめんごめん!わりーな、寝坊しちまって!」
そこにいたのは、あさみと…たかしだった。
「え、ちょ、なんでたかしまでいんの?」
「え!?何でって…そりゃ幼馴染が具合悪そうにしてたって聞いたから、ストレス発散に付き合ってやろうと思って。2人より3人の方が盛り上がるだろ?」
「ごめんねー、急に行くって言ったから、教えてあげられなかったの!めんご!」
さつきは、全身の力がふっと抜けた。
遊んでストレス発散どころか、これじゃ逆に疲れる…なんて思いつつも、笑顔を保っていた。
「そ、そうだね。ありがとう。」
「おうよ!じゃ、最初は何乗る?」
「私メリーゴーランド乗りたーい!」
「よっしゃ、それじゃあ、行くか!!」
ノリノリの2人の後ろから、そっとついて行くさつき。顔にはすでに疲労の色が出ている。
メリーゴーランド、ジェットコースター、コーヒーカップ、の順に回り、適当にアイスやポップコーンなんかもつまみつつ、回っていた。
もちろん、あさみとたかしはずっとラブラブで、2人で座るアトラクションは2人で座っていた。
アイスやポップコーンを買いに行く時も、なんだかんだでさつきが買いに行っていた。
「よーし、じゃあ次はあれ行こうぜ!」
「えーお化け屋敷ぃ!?こわーい!」
次はお化け屋敷か…。そう思いつつ、さつきもお化け屋敷に向かう。
「このアトラクションは、2人ずつでの入場となります。」
スタッフさんに告げられ、表上は困った顔をするあさみとたかし。
いや、本当に困っているのかもしれない。私も性格悪くなったもんだなあ。と思いつつ、にっこりと微笑んで見せた。
「いいよ、2人で行っておいで。私は1人で行くから。」
「ええー、いいの!?」
「いいから。ね。」
「ごめんねー、ありがとー。」
2人はお化け屋敷へと入っていった。それを見て、さつきはスタッフさんに声をかけた。
「すみません、これって、1人でも入れますか?」
「ええ、それは構いませんよ。」
スタッフさんはにっこりと微笑んだ。
まあ、1人でのんびり見られるんだから、そう悪くもないか、なんて考えているうちに順番が回ってきて、さつきは1人で中へと入った。
「へー、よくできてんじゃん。」
はりぼてで作られた置物なんかをしげしげと眺めつつ、のんびりと回っていた。
「怖いのは案外平気なんだね。」
突然声をかけられ、さつきはその声に驚いた。
「あれ、変な人。なんでこんなところに?」
「変な人って、愛称みたいになってるし。まあ、ここに俺がいてもそんなに変じゃないでしょ?ただの客だよ。のんびりしすぎてまだここにいるだけ。」
「そ、そう…。」
変なやつと思いつつ、さつきは変な人の方に向き直った。
「ところで、なんでこんなところに3人で来てるの?疲れない?」
いきなり図星を突かれて、思わずため息をつく。
「疲れるわよ。実はね…」
さつきは、事の次第をさらっと説明した。変な人は、ふんふんと頷きながら聞いている。
「うっわ、よくそこでキレて帰らなかったね。俺なら帰るよ。」
「まあ、2人とも善意だし、悪いかなって。」
「悪くないよ。実際疲れてるんだし、キレるべきだと思うよ。」
「だって、2人は友達だから…」
そう言うと変な人は、はあとため息をついた。
「見返りも無く人に尽くして楽しい?」
さつきはびっくりして、思わず黙ってしまった。
「え、いや、2人が笑顔になってくれたら、私も嬉しいし、っていうか、見返り無くするのが友達じゃないの?」
「向こうは紺野さんが疲れ切っているのにそれにも気が付いていないっていうのに?
そんな友情、大切にする必要あるんデスカ?」
「な、何よ!!何も知らないくせに!!」
さつきは半泣きになってしまった。
「ああ、ごめん。今までやってきたことを急に否定されたら嫌だよね。でもまあ、客観的な分、紺野さんよりもあの2人の性格を分かっているような気がするよ。
まあ、言い過ぎたね。今日はこれで。愚痴りたい時はまた愚痴ってよ。俺もまた色々言うと思うけど。じゃあね。」
そう言うと、変な人はさっさと先へ進んでしまった。
なんなのよあいつ!!と、さつきはムカムカしながら進んだ。
しかし、少し愚痴ったことで少しすっきりしている自分にも気が付いていた。
「あーもー!さらにイラつく!!」
お化け屋敷を出ると、2人が待っていた。
「おかえり、さっちん!お、涙の後?やっぱりさっちんもお化け怖いんだね!!」
「え、ええ、まあ、でも楽しかったよ。」
「泣いた割にはやけに顔色いいな。お化け屋敷ナイスチョイスだな!さすが俺!」
「全部のアトラクション回っているだけでしょ。」
「あ、ばれた?あはは。」
笑いながら、歩き出す3人。ふと、さつきは気になって聞いてみた。
「ねえ、お化け屋敷の出口で、私の前に男子が1人出てこなかった?」
「ふえ?男子?さっちんの前は誰も出てこなかったよ?」
「え?…そう。あ、ううん、なんでもないから気にしないでね!」
「へ?う、うん。」
途中ですれ違ったりもしなかったし、どこかまた寄り道でもしてたのかな?と思いつつ、また3人で遊園地を回り始めた。
最初よりもスッキリした顔のさつきは、前半よりも楽しめていた。
「はー、もう全部回ったし、閉館時間だー!」
「お疲れ!楽しかったな!また学校で!」
「うん、私も楽しかった!じゃあね!」
さあ、また明日も学校だ。…そう言えば、変な人って何組の生徒なんだろう?