難破船
木製の難破船が船着場に設置されていて、その中に部屋があった。わたしたちはそこに何日間か泊まったのだったか、いよいよ帰り支度をしていた。広い図書室のような部屋の中央に、やはり古びた木製のテーブルがあり、その上に骨董品や古書のたぐいが並べられていた。わたしはその中の古書の塊を見て、そこに自分の欲しいものがあるかどうか物色していた。いつものように、ミステリか哲学か文学の全集の、部分的なものがそこにはあって、リストがあり、そのリストの中には涎がでるようなものがあるのだったが、そこに残存しているのは、それに近しいけれどそれほどでもないものたちであって、わたしはそれを買って帰るかどうか逡巡しているのだった。
「もうデータに打ち込んだから大丈夫なんだ」と、横で弟が言った。
「え、そうなの」
弟は更に、わたしにはよくわからない専門用語を並べては、にやにや笑っていて、私には腹立たしかった。
「これで卒業論文がかける。教授にも見せられる」などと言いながら船を降りていった。
船を降りたところは高台で、ここから街までは、ずうっと下っていかなければならない。岩場を少し歩いて、降り口がないか探したら、右手の方にロッククライミングができそうな急な山道があって、そこからかとも思ったが、ふと左手を見ると、そこには滑り台があった。わたしたち三人の一行は、その滑り台を選択した。
「オレは最後に行くから。絶対誰かの前なんて嫌だから」とわたしは言い募ったが、ほかの二人も同様の事を言うのだった。
協議の結果、十分な間隔を取って出立してゆっくりと降りていくことに決まった。それでもわたしは殿を譲らなかった。ところが蓋を開けてみると、ほかの連中はわたしに輪をかけてへっぴりごしで、ものすごくトロ臭く降りていくので、時間がかかって仕方なかった。それでもわたしは十分に待ってから、腕などでブレーキをかけながら、ゆっくりと滑っていった。
出口付近には保育士さんたちが待っていてくれて、ラストの空中浮遊を手伝ってくれていた。私は彼女たちに話しかけた。
「幼少期の記憶が、高所恐怖症を生むのですよね。だとしたら精神分析でそれを取り除くこともできますよね」
「できますよ。でもめんどくさいから」と、答えてくれた。
わたしが部屋に落ち着くと、高校時代の彼女がやってきて、MLBのデータを打ち込んでくれとかいうのだった。ところが昨夜から雪が降って、砂浜が水浸しになっていた。例祭があったはずなので、その通路が残っていればいいのになと思って、ベランダから眺めてみた。
「ああ、撤去されている。これでは無理だ」
けれど彼女は浅瀬づたいに出て行って、必要最小限な資料だけ拾ってくるのだった。
パソコンに電源を入れて、フラッシュメモリをケーブルの途中に差していた。
「データはそのメモリに入ってるんじゃないの」
「わからない。確かめてみないと。だって食料がわからないから」
そして画面を見せてこいういった。
「これと同じデータを、残り29チーム分作って欲しいの」
わたしは先発メンバーのリストさえ作ればいいと思っていたので、非常にめんどくさくなった。
「だいたいなんでこのフォームに打ち込まなければならないんだよ。シートに平打して、呼び出すようにすれば簡単なのに」
「こんどからそうするわ」
いやわたしがそう式を入れて作り変えてやろうと思うのだった。