食堂
プラスティックトレイの上に、プラスティックの箸と、漆器のお椀と瀬戸物の皿を載せ、カフェテリアの前を歩いていく。食べ物が大皿に盛られていて、そこから割烹着を着た従業員が装ってくれる方式だった。
お椀の中にご飯が片側に寄せて装われた。その残りの半分くらいのところにおかずが盛られていった。金平牛蒡とか切干大根とかのあと、白和えのようなものが盛られたが、なんだか量が少ない気がしたので文句を言った。そうするとその料理の係りの、昔は美人だったという感じのおばさんが激昂した。
「だから、あんた、どうして文句を言うのさ! 前に文句を言われて、それから苦情を言われたらすぐに馘首になるって決まったのにさ! どうして!」
彼女は叫びながら、黒子のような者たちに引き連れられていった。わたしは仕方なく自分でそれを追加した。席について食べてみると、それは山芋の摩ったものに木の実が混ぜられているものだった。なんだか一つのお椀にこんな盛り方はどうだかなあと思いながら食べていた。
皿の方には、笹型オムレツや長方形をした豚肉のピカタやハッシュドポテトなどのチープな感じの洋食が盛られた。それらも食べ終わって、ひと心地ついていると、隣の席にいた従兄弟が、お茶を容れてやると言うのだった。
私は断った。
「だってこぼすだろ」
「大丈夫だってば」
そう言って従兄弟は、半ば強引に、私の皿の上に乗せられたお猪口の中に、急須からお茶を注いできた。案の定それは溢れかえって、皿の上に広がった。
「こぼすなっていっただろう」
いとこは「へっ」というような表情を作って席を立ち、向かい合ったカウンタ席の端に空いた席を見つけて座り、隣の席の男に、私の悪口を言い始めるのだった。
「あんなつまらない事で怒らなくっていいじゃないか。兄貴はもともと偏屈なんだから」
わたしはその脇に行って「いらんことを言うな」と言って、その頭を思い切り殴った。それでも従兄弟はやめないで、延々と悪口を述べ、呪詛を吐き続けた。まるでアニメーションのように。
私は自分の席に戻って、空いた皿とお椀とを持って、入口のほうに向かった。お椀は汚れていたので洗い場に返そうと思った。お皿の方はまだ綺麗だったので、別のお数を盛ろうと思っていた。しかしカフェテリアの近くに食器の返却口らしきが見当たらなかった。入口の近くで、料理をしている従業員たちがいたので、彼らに向かって、返却口はどこかと聞いた。
「あっちだよ」
「あっちって声で言われてもわからない。指差してくれないかな」
端にいた白衣姿の従業員が左手で指し示したのは隣の建物へと向かう通路だった。その脇には二階に上がる階段があった。
「二階なのか」と私が聞いたら、そうでもないと言う。
「直感的に分かるように設計されてるって聞いたけど」とその従業員が苦笑しながら言った。
「あそこから少し覗けるよ」と、別の従業員に案内されて行ったところでは、階上の水槽が覗けて、奇麗な水の中で食器が泳いでいるのが見えた、
「どこからあそこに入れればいいのか?」
帰り道を行けばいいのだという。わたしはまだ食事を続けたい。一部だけの食器を返すことは無理のようだった。理不尽さばかりが募った。