コンヴィニエンスストア
ふと思いついて、この住所に生徒が住んでいるはずだと思って玄関に向かった。木製のドアにノックをすると、覗きから女性の顔が現れた。その女性は、わたしの顔を見ると「ああ、こないだはお世話になりました」という。
わたしは彼女の顔に見覚えがあるが、どこであったか思い出せない。ここに住んでいるはずの生徒の保護者ではない。広告会社の営業の人だろうか、飲食店の店員だろうか、歯科医の受付だろうか。そのどれでもないことはわかった。
朝で、何人かの住人が玄関を出入りしていた。集合住宅のようだった。昔ながらの下宿というかアパートというか。ふと上を見ると、階段の上が穴があいていて、それを隠すように布で覆っているが、隠しきれていない。これが普通の住宅なら隠すこともしないのだろうなと思った。
やがて、奥から出てきた女性がわたしに声をかけて、それは確かに生徒の保護者だった。
「お世話になっております」
「いえいえこちらこそ」
「わざわざありがとうございます」
「いいえ、たまたま近くまで来たもので」
この近くに友人の家があって、そこに泊まったのだった。そういえば、先ほどの女性は、その友人の従姉妹だかなんかだったような気がした。保護者には連絡のプリントを渡して、自転車にかけてあった上着を羽織って出立しようとすると、最初の女性が声をかけてきた。
「今夜は泊まっていかないのですか」
「うん、もう帰らなくちゃ」
「朝食は」
「コンビニで買ったよ」
わたしは自転車で家に帰り、部屋に帰ってコーヒーを沸かした。そしてコンビニエンスストアのビニール袋を開けると、中から出てきたのは、フライドチキンやメンチカツなどはまだいいとして、メガおにぎりやサンドウィッチが多数。昨夜酔っ払って買ったのだった。わたしは糖質制限をしていて、炭水化物食品は普段食べない。こんなに買ったのは欲望があるからだろうか。そしてそれをいま夢に見ているということは、無意識の願望なのだろうか。
いや、そうとは思えない。何か違う理由があるはずだが、夢の感触はもう遠のいて、覚醒してしまった今ではなんのことやらわからない。