表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/30

ふたりの老婆

広い敷地のうちのすぐ外に、小さな海岸があって、そこでテレビのロケ中継をしていた。元役者の革新的政治家が、必勝祈願のために四角い提灯のようなものを空中に飛ばしている。ここはそういった神事を行う聖地でもあった。しかし、それは思うようようには飛ばず、途中まで上がって降りてくるのだった。

「うーん、なかなかうまくいかないなあ」政治家も苦笑していた。

 ほかの多くの者たちが飛ばした透明の物体は、どんどん空に舞い上がって、はるかかなたまで上昇しているのだった。私たちは岩場に座って、それらを眺めていた。

「怖いよね、まるで空に落ちていくようだ」

 私が空に落ちないで済んでいるのは、地球という巨大な物体に押し付けられているからだった。引力はその質量に比例する。

「私は地球の引力が大好きだ」

 家に帰ると、隣の部屋で何人かが集まってテレビを見ながら酒を飲んでいる。私たちが入っていくと、座っていた先輩が「チャンネルを変えてくれ」と言うのだった。リモコンが、壁にかけられていて、ちょうどそこに私が立っていたからだ。

「リモコンなんだから、手元に持っておけよ」と、私は言って、そのリモコンをテーブルの上に置いてやった。

 私は自室に戻って、ステレオセットの電源を入れた。ラジヲをチューンして聴きたい番組を探した。「それの録音があるよ」と誰かが言った。

 私はそれをどこにあるのかと、カセットテープの山を崩すが見当たらない。

 私は再び外に出て、岩場の影から少しだけ見える海をみやっていたら、車の中から老婆が降りてきて、毛布のようなものをはたき始めた。すると、砂埃が舞って、それが私の方にもやってきた。

「おいおい、かかったじゃないか」

 すると老婆はすまなそうにして、私の後から私の屋敷に入ってきた。車の中から、もうひとり小柄な老婆が降りてきて、いっしょに中に入ってくる。私は来るなといったのだけれど、聞きはしない。先輩たちももう帰宅していて、うちにいるのは私と彼女だけだった。

 出て行けと言っているのに、ベッドの下に隠れたり、天井のシャンデリアの上によじ登ったりしている。彼女はそんなふたりの老婆を面白そうに見ている。歓迎するかのようにお茶を出したりもしている。

 私は警察に電話をしようとするが、ダイヤル式の電話機の零と一の穴に上手く指が入らないので百十番がなかなかできない。今度こそうまくいったかなという瞬間に、受話器を取ると、向こうから話し声が聞こえた。さっきまでうちで飲んでいた近所の人で、元警察官というひとだった。

「なんだか様子がおかしいので、警察に連絡したよ。もうすぐ突入するはずだ」

 その通り、制服を着た数人の警察官がドアから入ってきて、ひとりの老婆を取り押さえた。小柄な方の老婆は、裏庭の方に逃げて、彼女に「出口はいくつあるか」などと聞いている。しかし流石に諦めて、ふたりの老婆は警察官たちと一緒に出て行った。

 そのあと私は彼女と話しあった。

「あのふたりは、昔ここに住んでいたのかもしれないね。私たちが手を入れる前に、廃屋となったここに、ジャングルの猿のように住んでいたのかもしれない」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ