少年たち
「早く用意をしなさい」と言ってくるのは、母だろうか姉だろうか。「まだなの?」早く学校へいけと言っているのだ。ぼくは、リュックの中を改め、ちゃんとテキストや筆記用具が入ってくることを確かめると、パジャマを脱いで、スーツに着替えた。寒そうなので、マフラーをしてコートを着た。手袋をはめながら、時計を見たら、電車に間に合いそうにないことがわかった。
今日は日曜日で、日曜日は学校はあるけれど、電車のダイヤが少なかった。平日なら七時四十分の電車に乗れば間に合うが、日曜は三十分の次は五十分しかなく、それだと間に合わない。もう二十五分を過ぎていて、駅まで五分で行くのは難しい。ぼくは諦め始めていた。建物を出る前に、ある少年の姿を見つけたので、かれと遊ぼうと思った。少年とは夏休みの終わりごろに知り合った。八月の最後の一週間ほど、ぼくたちは泳いだり抱き合ったりした。甘い記憶。
出かけようとする少年の後を追いかけて、声をかけた。するとはにかんだような笑みを浮かべて「久しぶり」と言った。
「きょうはこれから空いてるの」と聞くと、残念そうに首を振った。「きょうは、撮影なんだ」
どこでと聞くと、近くのブティックの名前を言った。「ぼくも行って待ってるよ」
「うーん。それはどうかな」迷惑そうではないが、期待もされていない感じだった。
「じゃああとで合流するよ」
「うん」
そういえば、とぼくは考えた。ぼくはかれに高価な指輪をプレゼントしていた。高価といってもたかだか五万円くらいのものだが、ぼくにしては散財である。ローンの引き落としに収入が追いつくかどうか危ういところだ。かれのきょうの撮影のギャラはいくらくらいなのだろう。二十万くらいだと以前言ってたように思う。ぼくが指輪を買ったころは、かれはまだ収入がなかった。いまはぼくよりも稼いでいる。
学校ではなく、会社に行くことにした。厳密に言うと、会社が借りているホテルの一室だった。そこが、従業員たちの休憩所になっていた。ちょうど夜勤の男が二人、帰ってきて、ベッドに倒れ込んでタバコを吸っていた。この部屋で、ぼくは少年と抱き合った。かれの記憶が鮮明に蘇る。部屋の隅にある鏡台の前に座って、ぼくはぼんやりと時間が過ぎるのを待つのだった。




