抱き枕
事務所の中で、近所の中学生がパソコンで何やらやっている。私に声をかけてきて「教えてくれませんか」という。パソコンの使い方は得意なので教えてやろうとして、キーボードに向かうが、そのキーボードが見たことのないもので、数字やアルファベットのキーはあるものの、バックスペースやタブなどの操作のためのキーがない。いろいろ触っているうちに、電源ボタンを押してしまった。
「あ」
電源を落としたけれど、また起動させればいいやと思っていたら、近くにいた彼女が「それなら昔使っていたな」という。古いパソコンで「使えればいいだろう」ということで、当の中学生の親が与えたものらしい。そこには「〇〇市青果市場事務室」と書いてあった。いま、私が住んでいる町の名前だった。でも、ここはそこから電車で三十分ほどの隣の県の町だった。
「そういえば、電車の中で、どこそこの社長さんに会って困ってるって言ってたね」
「そうなんです」と中学生が言う。
「いいじゃない」
それから、私は移動して戸外の倉庫にやって来る。ガレージのシャッターを開けたようなところで、そこが作業場になる予定だった。
「もう完成だね」
「ふみふみクッションもあるし」
「ああ、あれダンボール箱の中にあったから、気持ち悪かったから、出せって言っといたよ」
「うん。だからもう出したって」
その横に、小さな子供用の枕があった。花柄が刺繍されたカバーに、この近くに住んでいる子供の名前が書いてあったが、その横に別の名前が書いてある。その名前を私は知らない。「小倉甫笑」と書いてある。下の名前は「ポエム」と読ませるのだろうか。そしてその横に、私の苗字が「〇〇さんと」と書いてあった。つまり、大昔私はその人物と遊んだということだろうか。
でも、この小さな枕は私が大学生の頃に抱き枕にしていたもので、カバーが取れても、その中身だけ持っていたものだ。それを、彼女と一緒に暮らし始めたときに、彼女が勝手に捨てたものだった。だから、これはこの世には存在しないものなのだ。
目が覚めてから「小倉甫笑」の名前をインターネットで検索したが、ヒットしなかった。




