思い出す
選手たちがみな整列をしている。新しいコーチもその中にいる。私は阿るように、かれのところに歩み寄って、その手にしたボールについて尋ねた。
「C球ですか」
「いや、公式だ」
コーチはボールの焼印を見せてくれた。確かにそこには、野球連盟と甲子園のロゴマークが記されていた。
私は一人離れて素振りをしている。このところずっと一人で厳しい練習を続けている。しかし、試合には出してもらえそうになかった。私はずっと孤立している。過去にあった何かのできごとのせいで、私は選手たちから疎外されていた。
私たちは船に乗って、合宿所に向かっていた。着替えるときに、私は自分の胸筋が随分発達していることに気づいた。腹筋も線が入っているし、力こぶもできるようになった。一方で、近くにいたかつてのスラッガーは、ぶよぶよの体を見せていた。
「着いたら、まだ用意のされていない畳の間に行くんだよ」
キャプテンが言った。
「こないだいったところだから分かっているよ」
誰かが笑った。
船はだんだんと島に近づいていった。用具係の人がもやいロープの用意をしていた。あまり見覚えのない人物だった。こないだとは違う人だ。私は以前の人とよく話をしたものだった。
その後私は大学生になった。私は芸術家といってもサブカルチャー系の卵たちが集まるたまり場にいた。その中にいる、若い女の子が、巻き舌で何かをまくし立てていた。それは激しくはあったがうるさくはなく、才気を感じさせるものだった。やがて彼女は出かけて行き、駅前での路上ライブのような大道芸のようなことをしに出て行った。
「彼女は天才だよ」
私たちは囁き合った。
そのあと私も出かけて、大きな集合住宅の中に入っていった。レコードショップのようなオフィスのような部屋に入っていくと、宣伝用のミニマガジンの新しい号が出ていたので、手に取ると、いま注目の四人組のような特集で、そのなかに私が追いかけているロックバンドものっていた。
私はそれをパラパラとめくりながら、廊下に出て、また別の部屋に入った。そこは、当のロックバンドの事務所で、毛足の短いカーペットの上に家具が置かれていて、そこでふたりのメンバーがくつろいでいた。
「これ見ましたか」
私は手にしたパンフレットのような雑誌をかざしてみせた。
「まだ見てないよ。後で見せてよ」
私はテーブルセットの脇に座って、それを読み始めた。しばらくしてから、メンバーのひとりが私に注意した。
「いや、いつもはいいんだよ。たくさんのファンたちもいるし。でもきょうは、なにもないんだから。そんなに馴染まれると。これでも、袖口とか気を使っているわけだし」
彼の着ているものを見ると、素材の良さそうな、色合いのシックなシャツだった。それにひきかえ私はおんぼろの安物をまとっていた。
「分かりました。もうすぐ出ていきますから」
かれはにっこり笑ってくれた。
私が外に出ていくと、たくさんの学生たちが階段を上がってくるところだった。私はエレベータで降りようと思って、そのドアのところまで来たが、エレベータ室を透き通るようにたくさんに人々が上がってくるのだった。
ここは二十階だった。私は手持ち無沙汰のまま、箱の到着を待った。




