怪獣たち
私たちが泊まっていたのは、普通の住宅に継ぎ足されたプレハブのような横に長い建物だった。そこは、いくつかの和室に区切られ、私と私のいとこの一家は奥の八畳間に泊まっていた。夕食の時間が近づいたので、私はいとこの息子である小学校高学年の男の子と一緒に出かけることにした。出入り口は、今民宿の家主である元の住宅にあったので、私たちはそこまで向かい、玄関で自分たちの靴を履こうとしていた。しかしそのとき、ガラス戸に大きな影が映ったのだった。怪獣だった。ガメラのような巨大怪獣と、ゴジラのような巨大怪獣が相戦っているのだった。私が振り向くと、そこには科学特捜隊の面々がいて、道路を封鎖していた。甥の姿は見当たらなかった。
「○○ちゃんは」と、私が尋ねたら隊員が「部屋に帰った」と答えてくれたのでほっとした。しかし私は退路を失ったようだった。
それでもなんとか、怪獣たちの戦いはこの場所から遠のいて、最終的には空中決戦になったようだった。私は無事に元の八畳間に戻った。
私たちは鍋の材料を買いに行こうとしていた。しかし、もはやお腹がすいていた。出来合いのものを買ってこようかと私が提案したら、甥が「もう行きたくない」と言い出した。
「そうだ。お土産の長崎ちゃんぽんを食べようよ。ぼく作れるよ」
それを聞いたいとこが「これ」と叱った。それでは私の面目がなくなるからだった。
けれど私は笑顔で「じゃあ自分の分だけ買ってくるから、みんなはちゃんぽん食べてなよ」
野菜はあるはずだった。私は麺類が嫌いで食べたくなかった。それで私はひとりで出かけることにした。
玄関で革靴をはこうとすると、紐がほどけていた。私は急いでいたので、適当な結び方をして外に出た。戦闘のあしあとはあちこちに見えたが、もう緊急事態は遠ざかっていた。少し歩くと、大きなショッピングモールがあった。めんどうだから食べて帰ろうかと思った。中に入ると食堂街は上の方の階だった。エレベータに乗るよりほかはないのだが、人々が集まってボタンを押しているのをよく見ると、ドリンクの自動販売機だった。エレベータはどうしても見つからないので、取って返すと、食料品売り場だった。ここで総菜を買っていけばいいだろう。
焼き魚や天ぷらを売っている店があった。平台にいくつもの種類の魚が置かれていた。別の客の注文で、穴子が売れた。店員の一人である若い男が、手で穴子を持ち上げて、包に入れようとしている。
「すみません」と声をかけると「待って」と言われた。
「穴子だけで精一杯」
もうひとり、店主のような男もいたのだが、その男は、穴子を取り上げたあとの魚たちを、一旦別の台に取り分けて、それから再びもとの平台に並べていくのだった。
「ハモと、ぶりの塩焼きをくだサイ」
男はそれらを包んでくれながら「あしたはまだいるのかい」
そうあしたは予告された怪獣決戦の日だったのだ。「いるつもりです」
「おれたちは店を開けないよ」
「そうですか」
いとこ達はどうするのだろう。帰ると言い出すのだろうか。私もなんだか帰ってもいいような気がしてきた。
外に出ると、高速道路の上を怪獣一家が行進していた。影のような薄ぼやけた数十メートののかいじゅうたちが、歩きながら歌っていた。それは自分たちを紹介する歌だった。パンダや子猫など、かわいい動物シリーズをモチーフにしていたキモ可愛い連中だった。
私はそれらを尻目に、民宿へ帰るのだった。