エレベータ
ぼくたちは模擬テスト会場へと向かっていた。町中のアスファルト舗装された、一方通行よりはやや広い道の左側を歩いていた。百メートルほど先に大通りとの交差点が見えた。ふと右を見ると、そこは地元の遊園地が経営しているプールで、そのコンクリートのプールサイドのリクライニングシートに数人の知り合いがこちらに頭を向けて寝転がっているのが見えた。ぼくは、そちらに寄って行って、手前にいたCくんの裸の方をトントンと叩いた。
「なんだ藤林くんか。どこに行くの」
「模擬テストを受けに行くんだ」
「どこの模擬テスト」
「進研模試」
「ああ、そうなんだ」
そのまま別れを告げて、横断歩道に向かった。歩行者用信号の青が点滅していたので、ぼくは慌てて渡った。そのまま行くと商業施設と市民ホールが一体化した、真新しい大規模な建物で、その中で模擬テストが受けられるのだと思っていた。ぼくは一足先にそこに到着した。ただしなんだか眠気に誘われて、テストまでまだ時間があるのならコーヒーが飲みたいと思った。コンビニの百円のコーヒーでいいから。
あとの連中も合流して、ぼくがそのことを言おうとすると、会場がここではないのではないかと言い出した。それでもとにかく、ドームの側面にあった部屋に入った。オープンカフェのような部屋で、奥のテーブルに若いスーツを着た男と、若いスーツを着た女が飲み物を飲んでいた。ぼくたちは手前のテーブルについた。
弟が、奥のふたりに話しかけた。そうすると、かれらは名刺を持ってぼくたちの間を巡回し始めた。ぼくたちは名刺を持っていなかったので、ただ受け取るばかりとなった。それから、模擬テスト会場は沼の方だということになって、ぼくたちは道を引き返していった。橋を渡り山側に向かうと、やや大きめの木造の家屋があった。
中に入って二階に上がると、父たちが何やら相談をしていた。ぼくもそこに加わり、計画を練っていると、突然ものすごい音がした。一回の方から音が聞こえたので降りていくと、クレーン車のクレーンの部分が玄関からずーんと入り込んできて横たわったのだった。よく何も壊れなかったものだ。ぼくは二階の父を呼んだ。
「ああ、支払いの件を決めてなかったから、嫌がらせだな」
父は計算書を見せて「コンナノ話にならんだろ」と言った。ぼくたちはホールに戻って、実験をすることにした。ぼくと友人たちは、デパートのエレベータに乗り、父たちはオフィス側の普通のエレベータに乗った。
ぼくたちの乗ったエレベータは円柱形をしていて、なかほどに丸いボタンのような台があった。ぼくはそれを椅子と思って座ったが、つるりと滑って床に尻餅をついた。そのままその台に背中をもたせかけた。ドアと反対側はシースルーになっていたのでそちらは見ないようにしていた。しばらくすると、エレベータがずズーンと回転し始めて一気に加速した。