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芽吹と春夏秋冬  作者: 霜月ぷよ
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♂♀⑫ こっちまで照れるでしょうが!

 11月です。秋です。冬の入り口です。

 11月に入り、2学期も残り半分を過ぎた。朝晩の気温もグンと低くなり、季節は一層冬に近付いていた。登校する生徒達の中にも、少しづつ上着を着てくる者も増えてきていた。


「最近急に朝晩寒くなってきたね」


「ああ、そうだな。こんくらい寒くなるとやっぱり、ついポケットに手突っ込んじまうもんな」


「気持ちは分かるけど、転んだら危ないよ?」


 朝、秋人と一緒に学校へ向かいながら、近付く冬の気配を実感していた。そんな二人の服装は、秋人はブレザーの下に薄手のパーカーを着て、芽吹はブレザーの下に厚手のベストと、気持ち程度の防寒だ。


 僕も“ちゃんと男子の頃“はよくズボンのポケットに無意識に手を入れて歩いた記憶がある。でも不思議なことに、女の子になってからは、何故かそういうことが無くなっていた。女子の制服のスカートにもポケットはあるのに……。


 僕は口元に手をやり、ハァーっと息をかけてみた。


「息が白いや」


 まだ手袋とかマフラーをする程でもない気はするけど、朝はやっぱりちょっと寒い。


「なあ、ハル?」


「ん?」


 秋人の問い掛けに返事をしたけど、秋人はすぐには何も言わず、少し間をおいた。


「どうしたの?」


 僕はもう一度聞いてみた。すると、


「て、手繋げば……暖かい……ぞ?」


 と。


 秋人、顔が赤い。そんな顔でそんなこと言われたら、こっちまで照れるでしょうが!


 照れそうになったのがなんかちょっと悔しいから言い返そうと、


「朝からそれはちょっと流石に……」


 と、そこまで言ってやっぱり照れる。


「は、恥ずかしいから……」


 すると秋人は、


「じゃあ帰りならいいのか?」


「帰りもダメ。ていうか歩きながらは危ないからダメ!」


 なんとかそこまで抵抗出来たが、秋人は更に、畳み掛けて来た。


「う~ん、じゃあ家で手繋ぐのは良いんだな?」


 っ……!そ、それは……まさか俗に言う家デートというやつでは……!?


 秋人はニヤリと笑った。勿論芽吹には気付かれないように。


「い、家デ……、家、デー……」


「お、おいハル?」


 家デートを妄想し出して、みるみる顔が赤くなっていく芽吹。


「家デー……、家出ぇぇぇぇぇ!」


「うわっ、ハルがバグった!?」





 朝晩が冷え込む日が何日か続いていたある日の昼休み。

 

 ♪キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン


「起立。礼。先生有り難う御座いました!」


 四時限目終了のチャイムの音と共に、授業終わりの号令が終わる。先生が退室するよりも早く、弁当を食べる者は仲の良い者同士机をくっつけ、学食に行く者は廊下を出た瞬間、廊下の寒さに小さな悲鳴を上げながら我先にと学食へと向かう。


「コラー、廊下は走るなー。学食は逃げねぇぞー。スキップで行けぇー!」


「スキップかよ!?」


 先生のゆるいボケに、男子若干名がコケた。

 みんなが競うように学食へ向かう理由、それは……。


「こうも急に寒くなると、普段何となく食べてる温かい麺類が堪らなくなるよねぇ~」


「ラーメンも勿論いいけど、シンプルにかけうどんとかねぇ~」


「学食でおでんってぇのもなかなか乙なもんでさぁ」


「落語家かぁ!」


 フーフー。ハフホフッ!という擬音と、熱々メニューを愛でる生徒の声が学食内を賑やかにしている。

 芽吹達も普段、弁当でも学食でも、食べている物にそこまでテンションを上げることはあまりない。たまにぁ~に、大好物のオムライスを超絶的な可愛さで頬張る美少女が現れるが……?


「よし。今度みんなで鍋パーティーしよう!」


 熱々のえび天そばを食べていた夕夏が、汁をグビリと飲み干し、どんぶりをテーブルに置くといきなり宣言した。


「何だその、某忍者のたまごアニメに出てくる学園長的な思い付きは?」


 すかざず出島がパロディったツッコミを入れる。


「え、また夕夏のあの“極道ハウス“に行くの?」


「芽吹ちゃぁ~ん、……日本刀と拳銃、どっちがい~い?」


「ど、どういう意味でございやしょう?」


 いつもの極道ネタで夕夏をイジル芽吹に、笑っていない笑顔という器用な表情で対抗する夕夏。


「何お前ら二人で勝手にVシネマやってんだ?」


「芽吹ちゃんと夕夏の袴とへそ出しサラシブラ。いいねー!」


「出島貴様はまたシメられたいか!」


「そういうコスプレで日本刀持たせるなら八乙女さんの方が似合うと思うよ?」


「なっ、ちょっ、芽吹ちゃん、何を……!?」


 純粋な芽吹ちゃんからの振りに、これまた純粋に動揺する八乙女さんだった。


 その日の帰り道、芽吹、秋人、夕夏、八乙女さん、京弥、出島の6人は、駅前のコンビニに寄っていた。その目的とは。


「私肉まん。秋奈っちは?」


「私も肉まんでいい。芽吹ちゃんは何にする?」


「じゃあ、僕は~……」


「俺はトロ~リチーズのピザまんと旨辛担担まんで」


「ちょっと秋人ズルいよ!?」


 割り込みで注文。しかもちょっと値段の高いやつ。秋人に憤慨する芽吹。しかし秋人は、


「俺と半分こずつにすれば二味食えるだろ?」


「……っ!」


 一瞬で顔が沸騰しそうになる芽吹。これには夕夏、八乙女さん、あと店員さんまでもが、


「おっふ!」


「「……ってなんでお前だけ口に出た!?心ん中で喋れや!」」


 何故か店内の全員から絶大なツッコミをくらう出島だった。


 夕夏と八乙女さんが肉まん。芽吹ちゃんと秋人はさっきの通りラブラブ半分こで。そして出島と京弥は……?


「なんで俺とお前二人で仲良くカラアゲ様1つを分け合わなきゃなんねぇの?」


「えー、だってぇ、ウチらもぉ、……ラブラブしたいじゃん?」


「クネクネすんな!キモい!」


 ルーソンのカラアゲ様わ爪楊枝で仲良く摘まみ合う出島も京弥を生暖かい眼差しで見詰めながら、結局夕夏と八乙女さんも、芽吹と秋人が食べているピザまんと坦々まんをちびっていた。


「うわっ、ヤバ。これ美味しいじゃん!」


「だろ?」


「坦々まん……。斬新だな」


「んむぅぅ~!」


「ハルもトローリチーズの餌食か」


「あはっ!ちょっと芽吹ちゃん、それは流石に反則。可愛すぎだってば!」


「かっ、かわいぃぃ……!」


 伸びて伸びて、遂に途切れたチーズが、文字通りとろ~りぺろ~んと芽吹の口から垂れ下がっていた。


 日が短くなり、さっきまでオレンジ色で町を照らしていた夕陽も、今はもう山の後ろへ隠れてしまった。黄昏をバックに、ハフハフと暖かい湯気を立てながらコンビニの肉まんで盛り上がる芽吹達だった。




 ……続く



 11月の一時だけ、冬の予行練習のような寒い日があります。霰なんかが降ったりして。一瞬だけ早いクリスマス気分になったりしませんか?

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