♂♀⑪ 秋人のアホ!
1年近くも長らく執筆が止まっておりました。次回話を楽しみにしていてくれた読者の皆さん、芽吹ちゃんファンが何人いるかは分かりませんが、ファンの皆さん、大変、大変お待たせしました。ようやくなんとか描けました。
10月末。夏と違い、大分暑さが薄れた秋の夕陽と、キャンプファイヤーの大きな炎の灯りに照らされたグランドの生徒達。キャンプファイヤーを囲むように皆これから始まるラストのイベントを待っていた。
今年の夕陽ヶ丘文化祭もそろそろ大詰めである。
その頃、芽吹違は……。
「今年ももう文化祭終わっちゃうね」
「ああ。早いもんだな」
「早いねぇ。年取ると時間が早く感じるってホントだね」
「いやいや、俺らまだ20年も生きてない未成年だろ?」
秋人は軽く笑いながら芽吹にツッコんだ。
屋上の金網越しに眼下のキャンプファイヤーを見詰める芽吹と秋人。しかし、この時の2人の視線の先は違っていた。
秋人はキャンプファイヤーを見ているが、芽吹は何か思い詰めているような表情をしていた。
そこから2人の会話は無くなり、どこか気まずい沈黙がその場に、2人の間だけに沈澱した。
しばらくして、最初に口を開いたのは芽吹だった。
「秋人はBLって知ってる?」
「いきなりだな。なんて話題持ってくるんだ。ビックリするわ!?」
また笑いながらツッコむ秋人だが、芽吹はひたすら金網の向こうの何処かを見つめていた。それを見た秋人は真面目な顔をして、
「ボーイズラブだろ。知ってるよ。それがどうした?」
「……」
また沈黙。その沈黙の中で芽吹は覚悟を決め、ゆっくりと、秋人の方へ体を向けた。しかし顔はうつむいたまま。
「実は僕、男の子に戻っちゃったんだ!……って言ったら……」
「……」
「なーんちゃって。ハハッ!ビビった?」
やっぱり秋人には言えない。
今のこの関係が壊れるから。壊れたらもう元には戻れないから。それが怖いから……。と、芽吹の覚悟はすぐに崩れた。まだこのままでいようと。秋人にバレなければ、お互い好き同士のままでいられる。と。
「ああ、知ってた」
「……え?」
秋人の予想外な反応に、芽吹はすぐに言葉を理解出来なかった。
「お前の体に何か変化があったことぐらいは気付いてた」
「えっ、……え!?」
「そっちこそビビったか。俺とお前、どんだけ長い付き合いだと思ってんだよ?」
「え、まだ20年も生きてない未成年だから、言うほど長い付き合いじゃ……」
「そこで早速さっきの俺の台詞を使うな。つーか、そうじゃなくて……」
秋人は芽吹に近寄り、優しく肩に手を置いて芽吹の顔を正面から見詰めた。
「ハル、お前またしょうもない事気にしてんだろ?」
「……」
「BLだっけ?体が男に戻っちゃったから、お互い恋人同士じゃそういう関係になるって。本当のことを俺が知ったら、もう恋愛対象じゃ無くなるから、やっぱり秘密にしておこうかな。とか?もしこれで今の関係が壊れるなら、今回のこのキャンプファイヤーで最後の思い出作って終わりに……とか。そういう事ばっか考えてただろ?」
「ん~~……」
尽く図星ばかり突いてくる言葉に、芽吹は今にも泣きそうなるのを堪え隠し、体をフルフルと震わせていた。
幼馴染みから親友を越えて、女体化の苦悩を乗り越え普通の女の子として、また彼女として、当たり前になっていた秋人に、今の真実を明かして嫌われるのが怖くて、それでも、大事な秋人だからこそ知って欲しい。出来れば嫌われずに受け入れて欲しい。そんなギチギチに悩んで、恐れて、渾身の勇気を振り絞ってやっと言えた。聞いてもらえた。引かれなかった。良かった。嬉しかった。でも……。
でも……、あまりあっさりな秋人の反応。逆にこっちが受け止め切れなくなっている。この全身の震えと今にも吹き出しそうな涙はいつどこで解消すればいいのか……?
芽吹はそんな想いの渦の中にいたのだった。
しかし芽吹のそんな心の葛藤を無視して秋人は突然、
ペチン!
「ぅぶっ!?」
両手で芽吹の顔を挟んだ。そのせいで驚きにまん丸く開いた目と、押し潰された口で、タコさんのような顔になった。
「俺は前にも言ったはずだ。今度俺達の絆を疑ったら、殴るって」
「うにゅ……?」
「それともう一つ。これも前に言ったぞ。今のハルも、今までもこれからも、“俺にとってハルはハルだ“。体が男だろうがBLになろうが、俺が好きなのはお前だ。ホモも上等。BLも上等。今時同性愛くらい常識だろ」
――俺にとってハルはハルだ――
秋人の言葉に、芽吹はあの時あの瞬間を思い出した。
猫を助けようして事故に遭って、病室で目が覚めたら女体化しちゃってて、そんで退院して家に帰ってきたあと時、秋人はたしかにあの時僕に言った。ちゃんと憶えてる。そうだ。そうなんだ。秋人はいつだって……、秋人は……。
芽吹はゆっくりと顔を上げ、目は今にも溢れそうな涙でいっぱいになりながらも、まっすぐに秋人を見詰め返した。
「……秋人」
「……ハル、もう一度言う」
「……」
秋人は目を瞑って呼吸を整え、改めて芽吹を真っ直ぐに見詰めた。
「春風芽吹、俺はお前が好きなんだ。何があってもお前だけなんだ」
その瞬間、グランドのキャンプファイヤーの炎が激しくはぜ飛び、その周りの生徒達も驚きの声と歓声を上げた。
芽吹の涙腺はもう限界だった。涙は関を切ったようにボロボロと流れ出し、芽吹の顔わ濡らした。しかし、そんな有り様を秋人に見られたくないと思った芽吹は、咄嗟に秋人を突き放した。
「……っ」
「ハ、ハル……!?」
「……バカ」
こぼれ落ちる涙の隙間から微かに聞こえた声。
「おい……?」
「の……バカ」
「ハル?」
よく聞こえなかった秋人はもう一度聞き返した。すると芽吹は、ゴシゴシっと勢いよく袖で涙を拭うと、大きく息を吸い込み、
「秋人のバカァーー!」
「は、はぁ?なんだよいきなり!?」
「あんな恥ずかしいこと平気な顔して言うからだぁ!」
「はぁ?バカッ。こっちはこれでもかなり勇気出して言ったんだからな!」
「それはこっちの台詞だ。僕だってすっごい勇気出して本当のこと秋人に伝えようしたのに、あんな簡単に全部知ってたなんて言うから!」
「お前は昔っから分かりやすいんだよ。特に一人で抱え込んで悩んでる時なんて!」
「もうちょっと気使って気付かなかったふりぐらいしろ、バカぁ!」
「好きなやつが悩んでるの、これ以上ほっとける訳ねぇだろ!」
ぅっ……!?
精一杯の照れ隠しで罵倒しているのに、更にグイグイ口説き文句を繰り出してくる秋人に、また一層赤面を濃くする芽吹。
「だっ、だから……そ、そういう恥ずかしいことをサラッと言うなって言ってるんだ!」
そう言った途端、芽吹は金網越しにグランドに向かって大きく息を吸い込み、そして、
「秋人の……、アホーーーー!」
高らかに秋人を罵倒した。
突然屋上から降ってきた芽吹の声に、グランドから気づいたみんなは、
「お!芽吹ちゃんあんな所で何やってんだ?」
「なんだ?未成年の主張ってヤツか?」
「告白タイムか?」
「空から天使の声が!」
その頃、屋上の出入口の扉の側では……。
「やれやれ……。一時的な魔力の低下であの娘の女体化が緩んでしまったが、このままこういう間柄の二人も案外悪くないのかもしれないねぇ」
海月冬弥は、芽吹と秋人の性別を越えた新しい恋愛以上の絆に驚き、また強い興味を示していた。
……続く
スランプもなにも、インスピレーションどころか、以前の投稿を境に『なろう』のページすら開かなくなっていました。
次の投稿も不定期ではありますが、執筆意欲は回復に向かっているので、また、今後も『芽吹と春夏秋冬』を宜しくお願いします。




