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芽吹と春夏秋冬  作者: 霜月ぷよ
95/104

♂♀⑨ #出会いはパッカーン!

演劇『かぐや姫』開演です!

 現在、時刻は12時50分。

 芽吹達の夕高祭二年目はこれから始まる演劇がメインである。あと30分程で開演。芽吹達演劇関係者はみんな体育館のステージ裏や放送ルームなどで大まかなリハーサルと最終チェックに追われていた。


 今回、芽吹達がやるのは【かぐや姫】である。数ある日本のおとぎ話の中でも知名度はトップクラス。幼少期のお遊戯会や、小学校低学年くらいでだいたいこの手の劇は誰もがとは言わないがやっている事だろう。誰もがよく知る物語だ。だが……、今回この劇をやりたいと言い出したのは海月冬耶である。更に脚本と監督まですると言い出し、同じクラスの現役高校生作家、城ノ内要じょうのうちかなめを巻き込んで、演劇の企画が始まってしまった。当然その主要メンバーは自動的に芽吹達いつもの仲良しメンバーが選ばれた。

 出来上がった台本とミヅキ監督の指示の下、芽吹達は約1ヶ月間、放課後を使って毎日練習を重ねた。そして遂に今日がその本番だ。




 開演10分前の舞台裏ではーー


「有馬君のクールお爺さん、なんかヤバイ!」


「こんなお爺さんいなくない!?」


 衣装の着付けとメイクが済んだ有馬京弥は、メイク担当の女子達にいじられていた。しかしそこは流石京さん。


「俺の祖父さんがこんな感じの人だった。なんか変か?」


 特に動じない。

 反対にこちらは、


「夕夏はまた随分と老けたねぇー?お婆さん役似合ってるよ~」


「なんて呼ぶ?夕夏お婆さん?夕……ばあちゃん?」


「ゆばあ~……」


「アンタそれ以上言ったらコブタにするよ!」


「……ゆばーば」


「ちょっ、京弥ぁ~~?なんでそこでアンタがぁ~~!」


 ボソッといじる京弥に、頬を膨らませて怒る夕夏。


「今度のバレンタインデー、京弥にはチョコ作ってやんないから!」


「すまん。謝る。ごめんなさい」


 これには動じる京弥だった。


「なにこれ……」


「爆発しろーー!」



 ―――――――――――――――――――



~《夕陽ヶ丘高校文化祭。二年生による、演劇 『かぐや姫』。 まもなく開演です。皆様、水を口に含んでお待ちください》~


「…………!?」


 そんなアナウンスが流れ、会場内が一瞬絶句と驚愕の静寂に包まれた。


「冗談です。……イッタぁ!?」


「なぁにしてんだお前はっ!?」


「いやぁ~、ちょっとやってみたかったんだよねぇ。ボカロ風うぐいす嬢?」


「普通にやれぃ!」


~《まもなく普通に開演です。普通にお楽しみ下さい》~



 第一幕 #出会いはパッカーーン!


 むか~しむかし、あるところに、そこそこリア充っているお爺さんとお婆さんがいました。

 そこそこイケメンなお爺さんは近くの山へ竹取りに。まだまだJK気分が抜けないちょっとアホなお婆さんは川へ洗濯に。

 太く大きな竹が生い茂る竹藪。太陽の光が土に届くように、余分な竹をナタで切って倒して回ったり。また、土に隠れた立派そうな筍を見付けては一つだけ掘り出して、それを食料に持ち帰る。それがお爺さんの日課である。

 この日もお爺さんはナタを振るい、太くて大きな竹を薙ぎ倒していた。そんな時だった。いっそう太く大きな竹が一本。その一本だけ、一部が強い光りを放っていた。


「なんじゃあれは……!?」


 見たこともない光景に驚きつつ、お爺さんはゆっくりとその竹に近付いていった。

 すると何やら中から音も聞こえて来ていた。


「いったいナンなんじゃ?」


 お爺さんは不安も好奇心に揺れたが、思いきって切ってみることにした。お爺さんは思いっきりナタを振り下ろした。


「ハッ!」


 パッカーーン!!


 竹の中から出てきたのはなんと……。


「そこで……、何やってんだ?」


 無表情で竹の中の“者“に問うお爺さん。


「ん?やっと来たか。待っていたぞ。見よ。ニンテ〇ドースイ〇チだ!知らないのか?」


「そんくらい知ってるよ。……ってそういう意味じゃなくて……」


 竹の中の“者“はなんとも艶やかで綺麗な黒髪の幼女だった。しかも、エアコン、LED完備、ソファーベッド、テレビ、各種ゲームもやりたい放題という、完全引きこもり用ルームでめっちゃくつろいでいた。


「スマブラというらしい。実に爽快なゲームだな、これは。相手を吹っ飛ばせた瞬間のこの爽快感と言ったら……」


「知るかっ!時代設定無視かよっ!竹ん中どうなってんだ!?」


 目力があり、気の強そうな娘だが、初めてやったゲームなのだろう。少し興奮気味に喋るその表情にはまだあどけなさがあった。後にこの娘が『かぐや姫』となるのだが、今まだ。もう少し後のこと……。



 その頃、お婆さんは川で洗濯をしていた。あまり汚れてはいないが、お爺さんとの万が一の夜に備えて、下着は念入りに。……なんて事は考えていないだろうが。川の水流を使ってゴシゴシ、バシャバシャ。

 今日のお昼と晩は何を食べようかなどと考えながら洗濯をしていたお婆さんの視界に変な物が見えた。見えた方に顔を向けると、川上からなにか大きな丸みを帯びた物が流されて来ていたのだった。


 どんふらこっこ、どんぶらこ。


 次第に見えて来たのは、それはそれは大きな桃だった。例えるなら一般家庭やビジネスホテルなどの浴槽にギリギリ収まるかというサイズである。桃としては普通にデカイ。

 それがお婆さんの目の前まで流れて来た。


「うっわ!すっご!でっっか!?マジヤバイ!なにこれ!?」


 JK気分が抜けきれていないお婆さんは驚きのあまり、まるでおバカタレントの食リポのようなリアクションしかとれなかった。


「ヤバイヤバイ!これインスタ映えどころのレベルじゃないし!写真写真!」


 お婆さんは慌てながら袖の中から板フォンを取り出して写真を撮り始めた。

 流され続ける桃がどんどん遠ざかっていることに気付かず夢中でシャッターを押すお婆さん。気づいたら桃はもう見えない程に川下に流されていた。


「あれ……?ここってアタシが桃拾うトコだったっけ?やっちゃった?」


 ~~~~~~~~~~~~


 それから月日は流れて――――。


 むかしむかし、ある老夫婦の下に、それはそれは凛々しく、ときに男らしく、たまにツンデレな、綺麗な黒髪の娘がおりました。名はかぐや姫という。

 ある日、かぐや姫が川で洗濯をしていた時でした。大きな大きな桃が流れてきました。


「なんて大きな桃なんだ!?」


 かぐや姫はびっくり。


「……にしても、随分と汚い桃だな」


 かぐや姫の前に流れて来た桃は、あちこちが傷だらけでボロボロでした。おそらく周りの岩やらいろんな所にぶつかりながらここまで流れて来たのだろう。


「お爺さんとお婆さんに何か栄養のある物をと思ったが、こんな汚い桃では……」


『諦めるな!君なら出来る!桃を拾え!拾うんだ!』


 かぐや姫は桃の中からそんな熱い言葉が聞こえた……気がした。


「なんか暑苦しいな。それにやっぱり汚い。拾うのは止めておこう」


 その瞬間、桃がパッカーーン!


「コラアァーー!いい加減桃を拾えーー!俺の出番がこねぇだろーがぁ!」


 突然桃が半分に割れ、中から出て来たのはやたらテンションの高い全裸の少年だった。

 不意にそれを見てしまったかぐや姫は、怒りと羞恥に顔を染めた。


「きっ……!猥褻罪でぶっ殺す!地獄へ行け!」


「八乙女さっ……、ちょ、待っ……ぶぇはっ!?」


 かぐや姫は桃太郎が出て来た大きな桃を持ち上げ、まるで元気玉の如く、羞恥と怒りを乗せて思いっきり桃太郎に桃をぶつけた。

 桃太郎は桃から生れた直後に、生まれたての姿のまま、桃と共に川に流されて行ってしまいましたとさ……。


「生れたての設定とは言え、演劇で何故に全裸なんだ!?おかげで私は奴のっっ……うぅ~……。早く月に帰って記憶を消したい」




 第二幕 #婿取り騒動


 月日は流れ、更に美しい大人の女性に成長したかぐや姫は、ある日町で善良でまともなタイプのスカウトマンにスカウトされ、今はお爺さんお婆さんと共に、関東のとあるお金持ちのお屋敷に住んでいました。


[鳴海家]


「ってここアタシん家じゃん!」


「何、ここが婆さんの実家じゃと!?」


「お婆さんの実家は金持ちだったんだな」


「お爺さんはアタシの実家も知らずにどうやってアタシと夫婦になったのよ?」


「いや、どうやってって……、そこ台本に無いんですけど?」


 とにかく、関東の都会のとあるお金持ちのお屋敷に住むようになり、かぐや姫が外を出歩く度に、周囲からは絶世の美女の存在が噂され、あっという間にかぐや姫の存在が世間に広まっていったのだった。そしてある時、そのお屋敷の内部情報、つまりかぐや姫の隠し撮り動画が流出が発覚した。

 綺麗な黒髪を靡かせて、キビキビと。それでいて柔らかく。健気に勤めるメイド姿が。

 犯人はすぐに解った。


「犯人は……、お婆さん。いや、夕夏キサマだな?」


 すぐに犯人が解ったかぐや姫は半分呆れながら問いただした。すると夕夏……いや、お婆さんは、


「だって秋奈っちのメイド姿ってキレカワだし、世間からしたらレアだし。もし芸能界入り出来たらあやかろうなかぁ~なんて?」


「キサマらは何故いちいち台本から脱線するんだ!?かぐや姫が健気にメイド!?そんなおとぎ話があってたまるか!?もう突っ込み疲れた……。早く次に進めろ」



 かぐや姫の美しい姿が世間に広まり、お屋敷に押し掛ける輩が出始めた。初めは芸能人見たさ的な輩ばかりだったのが、次第にラブレターへと変わり、遂にはお見合い。つまり直に会って縁を確かめたいという有名人、大企業の社長、御曹司、政治家等が現れたのである。世間はこれを『かぐや姫婿取り騒動』と銘々し、日本バブル崩壊以来の全国的大ニュースとなった。

 幾人もの有名人や権力者、イケメン等が見合いを申し込んでも、決して直には会ってもらえず、無理難題な条件を吹っ掛けられては玉砕していった。そんな中、今までなんの興味も示さなかったかぐや姫が、唯一ある一人の男の登場には表情を変えた。


「俺の名前は出島桃太郎。桃から生まれた直後の俺を川に蹴落とした美女によく似た女がここにいると気付き、参った次第。是非素顔をお見せ頂き、もし許されるならば再び……」


 そこで少し間を置いた桃太郎。

 強い決意と覇気を感じたかぐや姫は思わず固唾を飲み込んだ。周囲も同様に沈黙した。


「俺を……!」


「…………………」


「蹴ってください!」


「世界中の桃太郎ファンと岡山県に謝れこのド変態!何考えてんだ!」



 この出島桃太郎のあまりの醜態ぶりが桃太郎に申し訳ないと思ったかぐや姫は、彼に少しでも桃太郎らしい活躍をしてもらおうと、ある条件を伝えた。その条件とは……。


〈心優しく、且つ世間一般的にイケメンと評価されるレベルの鬼を探しだし、ここに連れて来い〉


 明らかに無茶ぶりが過ぎる条件だったのだが、出島桃太郎はかぐや姫に本気だった。


「出島桃太郎、愛するかぐや姫の願いを叶えるため、いざ行ってきまーす!」


 滅茶苦茶張り切って旅立つ出島桃太郎だった。

 もしこの条件をクリアしたとして、果たして出島桃太郎に幸はあるのだろうか。



続く……

 


 


 





久々の徹夜の執筆で、内容がまあまあブッ飛んでますかねぇ?でも五分五分な割合でプロット通りなんですけどね。

お爺さん―有馬京弥  お婆さん―鳴海夕夏

かぐや姫―八乙女秋奈 桃太郎―出島太矢


次回、我らがヒロイン芽吹ちゃんと秋人。ミヅキちゃんも登場しますよ!おとぎ話もう滅茶苦茶にします!

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