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芽吹と春夏秋冬  作者: 霜月ぷよ
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♂♀⑧ 芽吹ちゃんの匂いがしたから!

 一年生の時の模擬店と違って特に店員当番などの決まった場所での仕事が無いモンスター役の芽吹と秋人。




 自他共に認めるアキバオタクでコスプレも趣味の園田加奈や、転校生でプラチナブロンドのロリエルフな雰囲気のお面コスプレ娘、海月冬耶など、今回の夕高祭のハロウィンコスプレを手掛けるグループの手によって、秋人はブラックジャックに。芽吹は男子の制服でオオカミ男(の娘)に。


「ンなあああもうっ、芽吹ちゃんってば、可愛過ぎるったらありゃしない!」


「私も同感だが……、夕夏お前は少し落ち着け」


「マジであの可愛さはやっべぇよ!芽吹ちゃんの男装オオカミ男マジで萌えー!」


「みんなを狂乱させる可愛さってのはある意味ハロウィンらしいかもな」


 端から見ていた四人。順に夕夏、八乙女さん、出島、有馬である。

 周囲から様々な視線を受けながらもそれに気付いた様子も無くワクワク、ちょっとソワソワしながら校内を歩き出す芽吹。秋人は秋人でそんな視線にはもう馴れていて、芽吹との文化祭デートを密かに楽しむ気満々であった。


 2年生が扮するハロウィンモンスター達が校内を徘徊し、ときに出店では奇妙にカラフルなチョコバナナを売る魔女がいたり、骨付きチキンを売る骸骨だったり、血塗れナースが作るストロベリークレープ屋さんがあったり。実に怪しくて愉快な催しが目白押しである。これに対して芽吹の反応はというと……、


「み、みんななんかすごいね。お、お、美味しそうだよね」


「買ってくか?まだ昼前だけど」


「いやいやいや、こ、こういうのはやっぱり食後のデザートだし、先にお客さんに食べさせるべきだよ。うん!」


「そうか?別に良いんじゃないか?骨付きチキンならデザート未満だぞ」


「そういう話じゃないんだけど」

 

秋人は分かっていてわざと芽吹をからかっていた。その会話が聞こえていたのか、


「肉なんて付いてない骸骨が骨付きチキンなんて売ってんじゃねぇよ!ってか?ナハハッ!」


 下顎をカタカタ言わせて笑う骸骨店員。


「なんか横にカスタネット鳴らしてる黒子さんがいるんですけど?」


「あ、芽吹ちゃんにバレた?ども。黒子さんです」


「お前もしかして田中その3か?何やってんだ?」


「その3て呼ぶなぁ!黒子だよ!効果音係だよ!田中伸宏だよ!」




 次なる催物、展示物を求めて校内を歩く芽吹と秋人。


「さっきの田中くん、なんで“その3“なの?」


 骸骨が売る骨付きチキンではなく、結局可愛い魔女さんから買ったチョコバナナを食べながら秋人に問う芽吹。


「あぁ。うちらの学年田中って名字の奴が多いだよ。んで、さっきのあいつはちょっと影が薄い奴の中の一人。だからその3」


「あぁ……」


 納得。でもちょっと可哀相かも。あっ、でももしかして、黒子のバスケみたいに、実は……?


「残念。あいつは黒子テツヤじゃない。ただの田中だ」


「僕の思考を読むな!」


「自分の彼女が何を考えてるか常に気にしてないと彼氏として問題かと思われ?」


「と、時と場合を選べコノヤロー!僕が変なこと考えてたらどうすんだ!」


 飄々と微妙に恥ずかしいことを言う秋人に、芽吹だけが顔を赤くして抗議した。それでも尚秋人は、


「う~ん……。エロい目でハルを見る?」


「そ、そういう意味の変じゃないよ!」



 同じ学年の生徒達なのに、そのコスプレのクオリティーのせいか、行き交うモンスターやお化け姿の同級生達に、やはりビビりを誤魔化しきれずに反応する芽吹。またそれをいちいち可愛いと、鼻の下が伸びないように自制する秋人。

 体育館に繋がる渡り廊下の入り口。そこに看板が立て掛けられていた。


《2年生 演劇【かぐや姫】午後1時30分開演 観覧自由》と、女子が書いたのだろう。カラフルで可愛らしいポップな文字で書かれていた。その下には、萌えキャラ風にかぐや姫のイラストが描かれていた。アニメショップなどの看板に使っても問題ないレベルだろう。

 この演劇に、芽吹と秋人は出演するのだ。それを思うと急に緊張してきた芽吹。


 うわぁ~~、うむぅ~~。なんか緊張してきたよぉ~~!まだ時間あるけど、いや、そんなにないか。


 芽吹が緊張でバグり始める前に、次の展示物に見に行こうと秋人が誘導しようとしていた時だった。


 カラン……。コロン……。カラン……。コロン……。


 何やら奇妙な音が聞こえてきた。それは体育館に繋がる廊下全体にこだまするように響いていた。

 芽吹と秋人は無言で視線を交わした。


 この音って……、下駄?


 そう感じながら何気なく視線を向けた廊下の先に、それはいた。


「チッ。なんで風紀委員の俺までこんなふざけた恰好しなきゃなんねぇんだ!?」


「純ちゃんまた恐い顔になってるよ」


「うるせぇ。その呼び方はやめろ!もともとこういう顔なんだ!つーかなんで俺が鬼太郎なんだ?」


「別になんでもいいじゃん。文化祭だし?ハロウィンだし。純ちゃん結構似合ってるし。プフッ……!」


「あっ、テメェー今吹きやがったなぁ!?」


 コスプレをした風紀委員会の名物コンビ。堀川 真純ますみと須藤 真琴まこと先輩だった。



 基本的にいつも怒りん坊で身長のことになるともっと怒りん坊な堀川先輩は、図らずもその“身長を生かされて“ゲゲゲの鬼太郎のコスプレに。片目が隠れる髪はウィッグらしいのだが、地毛のツンツンがウィッグを僅かに押し上げていた。


「先輩の妖怪アンテナ、それバリ何ですか?」


「あははっ!柊君その突っ込みナイス!」


 秋人の反応にそう言って笑っているのは、細身で高身長。まるで宝ジェンヌなみのイケメン女子。須藤先輩。そんな先輩の恰好はというと、


「須藤先輩のそれは何のコスプレなんですか?」


 芽吹が問うた。


「私のは死神らしいよ」


「死神?」


 芽吹と秋人は揃って首を傾げた。

 なんでも最近話題になったという、鎌倉が舞台の映画で、それに出て来る死神さんしい。


「この髪、芽吹ちゃと同じ銀髪だよ。お揃いだね芽吹ちゃん!」


「あ、はい。かわいいと思います!」


「きゃあー!かわいい芽吹ちゃんにかわいいって言われたぁー!」


 はしゃぐ須藤先輩。それをやかましいと怒号を飛ばす堀川先輩。二人は引き続き校内を見回り、悪いことをしているモンスターはいないか見て回るのだという。

 ……そもそもハロウィンはオバケ達がお菓子欲しさに悪戯をするお祭りなのだが……。そもそも、それを取り締まる側もオバケで良いのか……?と思いたいが、この浮かれた文化祭でそんな疑問を持つ者は滅多にいないだろう。


 時間は11時を回り、お昼に近付くにつれてお客さんの数もかなり増え、無邪気に文化祭に興奮するちびっ子小学生も増えたせいだろうか、文化祭は更に活気が満ちてきていた。

 校内を歩く中、芽吹は度々すれ違う小学生や女子達にコスプレのしっぽと耳を触らせて欲しいと頼まれて、恥ずかしいのか嬉しいのか、なんとも言えない複雑な表情でされるがままという場面もあった。その様が萌えると、興奮しながら写真を撮る輩も出てきた。しかし、それを取り締まりに何処からともなく突然現れる者がいた。


「許可無く生徒の個人撮影をした奴は即地獄行き決定だな」


「ども~。死神で~す。そこの人~、黄泉の国に行っちゃう~?」


 鬼太郎と死神さんだ。


「春風さんに不埒なまねした奴は私がこの手で絞める」


 雪女の八乙女さんだ。


「なんか、黒い殺気が……。気のせいかな?」


「ハルいろいろお疲れ。俺達はここから逃げた方がいいだろう」


 秋人は芽吹を連れて一気に三階まで走った。その最中、一階からは数名の悲鳴が聞こえていたが、あまり気にしないことにした。



 三階の廊下に出た芽吹と秋人。

 三階は主に音楽室や美術室があり、コーラス部や美術部が部室として使う部室棟でもある。あとイラスト愛好会が使う教室もある。

 この棟も文化祭の展示があるはずなのだが、人がいない。放課後のように妙な静けさを感じる。さっきまでのちょっと浮かれていた気分が鎮まり、芽吹と秋人は無意識に静かに廊下を歩き出していた。


「ここだけなんかすごい静かな感じだね」


「あぁ。他ん所が賑やかな分、余計にな」


「人がいないね。ここもなんか展示とかあったよね?……あっ!」


 不安に感じていた芽吹だったが、直ぐにある看板が目に止まった。

 そこはイラスト愛好会が描いた様々なイラストが展示された部屋だった。


「うわぁ~、すごい!プロの漫画みたい。これ全部手書き!?」


「いや、中にはパソコンで描いたっぽいのもあるけど、それにしたってすげぇ……!」


 高校生レベルとは思えない。しかも部活ではなく、あくまで愛好会レベルでしかない数名が描いたイラストとは思えない完成度。有名な漫画の模写や、オリジナルだがまるで原作者の書き下ろしのようなイラストから、躍動感溢れるバトルシーンのようなイラスト。二次元全開なファッションとポージングを決めたイラストなど。

 芽吹と秋人は一枚一枚を紙に穴が空きそうなくらい真剣に、ため息を漏らしながら見て回った。

 そして最後に、イラストを飾っていたパネルに隠れるように“それは“そこにあった。

 それに気付いた途端、芽吹と秋人は目を大きく見開いて思わず息を飲んだ。

 黒板全体。黒板の全部を使って、白と赤のたった2色だけのチョークで描かれた一大作品が描かれていた。オリジナルキャラから模写から細かな背景。ギャグチックなキャラクター。ガ〇ダムやアク〇リオンなどのモビルスーツ的なイラストまで。一人一人が描きたいもの思うままに描いたような渾沌極まる一枚の作品だった。



 12時少し前。ほぼお昼時とあって校内、特に食堂、喫茶周辺は客と生徒で賑わっていた。そんな賑わう人混みの中を、眠れる仔犬をおんぶして歩くブラックジャックが一人。


 コーラス部の奴らあれはヤバイわぁ~。とんでもねぇぜあれは。おかげでハルが気絶しちまった。まあいいや。とりあえずそろそろ昼飯食っとかねないと、演劇の時間もあるし。


 秋人は芽吹を背中に背負って模擬店の食堂に向かった。

 芽吹のいつものカリスマ的な可愛さなのか、コスプレのせいなのか、沢山の視線の中とりあえず気絶したまんまの芽吹を座らせ、秋人も席に落ち着いた。ところが……。


「なんで同じタイミングでお前らまでいるんだ……?」


「芽吹ちゃんの匂いがしたから!」


「芽吹ちゃんの美味しそうな匂いがしたから」


 夕夏と、ミヅキちゃんだ。


「腹減ったから!あと芽吹ちゅあんの匂いが……ガハッ!?」


「キサマは常にその辺にいただろーが!」


 出島と八乙女さんだ。


「出島、お前何回飯食うつもりだ!」


 そして有馬。


「うん。ミヅキさんはあとで生徒指導室に来るように」


「え、なんで!?」


「問題発言だったから。ハルは食い物じゃないぞ」


「でもいずれは芽吹ちゃん、秋人さんの夜のデザートにされるんでしょ?」


「ぷっ!!!!!」


 ミヅキちゃんのエロい問題発言に、秋人と周囲の人の顔が一斉に赤面と驚愕の色に染まる。


「真顔でとんでもない事言うなお前は!?」




続く……



 


 


 




 






 






「ところで、芽吹ちゃんなんで気絶してたの?」

「いやぁ~、それがぁ~……」

「音楽室でもなんかやってたから見に行ったんけど……」

「音楽室?ってたしかコーラス部が……」

「全員貞子の恰好で歌ってた……」

「あぁ~……。なるほどね」

「しかも全員見事に揃って静かに揺れながら」

「Oh my ガァ!」


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