♂♀⑥ うーらしーまツァロー!キャメ仙人!
秋人、夕夏、八乙女さん。とりあえずこの三人には今、芽吹の身体に起きている異変と事情は理解してもらえた訳だが。この三人のフォローがあると分かっていても、芽吹本人としてはいつこの事が周囲にバレてしてしまうかと、不安と心配を拭い切れない日々を送っていた。
2学期が始まってすぐに中間テスト。そしてテストが終わると今度は約一ヶ月後に迫った文化祭の準備だ。クラス、学年ごとの演し物によっては夏休み前から係決めなどの準備は始まっているが、今年の芽吹達の学年は、中間テスト最終日の午後から会議が始まっていた。
去年は食堂と喫茶店だった芽吹達。二年生になった今年は何の演し物になるのか……。
一学年四クラス。各クラスそれぞれから出た演し物候補を二つに絞って決めることになっている。
「去年君達は一年生だったので飲食店系でしたね。模擬店食堂に喫茶。さて……、今年は君達は何がやりたい?夏休み前にすでに決まってしめてしまっているものもあるけど。とりあえず今この2時間で決めちゃわないと結構時間ないよ。何か良い演し物候補は無いかな?挙手で直接の発言でもいいよ!」
担任がみんなに一枚づつアンケート用紙を配って意見を求めた。アンケート用紙には、お化け屋敷や迷路、映画館にゲームセンター。今までにやった来た前例がいくつか見本として記されていた。その中には、去年は三年生がやっていた演劇もあった。
「漫才とかお笑いライブやってる先輩もいたのかよ。すげぇな」
「映画館て教室のセット以外やることに無くない?一番手抜きのパターンじゃん」
「お化け屋敷はかなり手間掛かるだろうなぁ。衣装とかメイクとかさ。内装は迷路作りとほぼ同じな感じ?」
アンケート用紙を見ながらいろいろと文句に似た意見は出るものの、好意的な意見はなかなか上がってこない。そんな中から一人、挙手をした女子がいた。
「私は演劇がやってみたいのですが、でも体育館は使っても大丈夫なんですか?当日来たお客さん総なめにしますよ?」
「い、いきなり集客独占宣言!?」
みんなの驚きの視線を集めた人物とは、エルフのようなプラチナブロンドの長髪。小柄な身体に何故か、『ランプの魔神ジーニー』のお面を着けた、芽吹ちゃんに並ぶ美少女でハーフ。ミヅキちゃんこと海月冬耶だった。しかも大きく開いたジーニーの口からミヅキちゃんの可愛い顔が出ている何とも奇妙な絵面。
その後、他のクラスの候補案も並べたが、ミヅキちゃん以上に大それた意見を出せる者は現れず、結果、芽吹達今年の2年生の演し物は演劇をやることに決まった。それが五時間目のこと。
続いて六時間目は何の劇をやるかの演目決め。一般的なのはやはり日本昔話や、ディズニー映画などでみんながよく知るおとぎ話や童話である。そこをメインに考えて始まった会議は、この学校で誰よりもヒロイン的な人物が皆に奉られた。
「やっぱり定番はシンデレラじゃない?」
「となれば主役ヒロインは芽吹ちゃんしかいなくない?」
「僕がシンデレラ!?やだやだやだ!無理無理ムリムリ!」
「そうとなれば王子様は絶対秋人君だよねぇー!」
「っ!俺かよ!?待て待て待て、駄目だろそれ。なあ、ハル?」
「えっ!?あぁ~、えーっとぉ……、そこはやっぱりちゃんと演技力のある人がやったほうが……?」
もう、秋人ってば中途半端に僕に振らないでよ!主役なんて無理に決まってるじゃん!ちゃんと断ってよ!
その後もおとぎ話のいろいろなタイトルが議題に上がるが、その度に必ず主役に芽吹と秋人、或いはミヅキちゃんという、なかなかハイスペックコンビで配役が決められそうになり、それを控えめながら全力で断る芽吹と秋人。因みに、言い出しっぺのミヅキちゃんは「何でもバッチコイ!」と、かなり積極的な態度だった。そんな流れのまま六時間目が終わりに近づいていた。
「洒落臭いので私が解決させてしまいしょう!」
威勢良く声を上げたのはまたしてもミヅキちゃんだった。
なにかと突飛な言動が多いミヅキちゃん。はたしてその解決方法とは……。
「脚本は城ノ内要さんをリーダーに、私と芽吹ちゃん。あと秋人君と出島君。それから隣のクラスの鳴海夕夏さん。この5人で考えて来ます!」
「「へ……?ほえええええっ!?」」
「な、なんでいきなり私が!?」
予想だしていなかった指名に芽吹達は間抜けな悲鳴を上げ、城ノ内要も驚愕と怒りが混ざった声を上げていた。あとでこの話を聞かされた夕夏は、
「演劇の脚本、芽吹ちゃんとの共同作業やっほーい!……あれ、でも京弥君は?メンバーには入ってないの?」
その質問に僕が素直に「うん」と答えると夕夏は、
「なんでよっ!」
と、金切り声で憤慨した。
翌日の朝。
「おはよー!」
「あ、芽吹ちゃんおっはー!」
「おぉぉ!朝一番の芽吹ちゃん眼福眼福ぅ~」
「それビーチで水着美女ガン見してるエロオヤジが言うセリフ」
「じゃあ私はエロオヤジだったのか!?」
「まあ、間違っちゃいないな」
「そーだったのかぁーってこらぁーー!」
そんな女子同士の会話の中を潜って教室の中へ。すると……、
「同意も許可も求めずいきなりあんな強引な決め方ってある?私はそんなのには参加しないよ」
城ノ内さんだ。ミヅキちゃんが城ノ内要さんに絡まれてる。昨日の帰りも結構お怒りな感じで断ってたし。無理に誘わない方が良いのかな?
芽吹はそう思いつつも、結構ドライな態度の城ノ内さんに面と向かっては言えず、その後も休み時間の度に断りの文句を言いに来る城ノ内さん。
「だいじょーぶだいじょーぶデース!城ノ内さんはウラシマ方々だぁから、演出監督脚本指導だけデース!」
「“裏方“ね。ウラシマ方々って何?あと“演出指導“。“監督と脚本“あんた無茶苦茶だよ?しかも何で今更片言なのよ!?」
「Oh!うーらしーまツァロー!キャメ仙人のお爺ちゃん出てクールやつ?」
「……なんか……もう、いろいろ違うんだけど……」
ミヅキちゃん、あれは流石にわざとかな……?
そう思いながら遠目から様子を伺う芽吹。
「ミヅキちゃんすげぇキャラで対応してんな。なんかこの前出島に借りた『このあそ研には問題がある』って漫画に出てくるオリヴィアみてぇ」
「何それ。面白いの秋人?」
「あぁ。腹がよじれて吐血するレベルで笑える」
海月冬耶の思い付きで選抜されたこのメンバー。芽吹ちゃん達いつものメンバーに現役JK小説家、城ノ内要を加えた文化祭期間限定異色のパーティー。
芽吹の体を男の子に戻してしまった理由とは……?この演劇に隠された海月冬耶の真の企みとは……?
「今から皆さんで夕夏さんの極道キャッスルで演劇台本を作りましょー!」
「だからアタシの家は極道じゃないっつってんでしょーが!ミヅキちゃん?それはどちら様の顔のお面なのかしら?」
「竹内……力?という名前のVシネマ?俳優さんらしいです。私は知らないんですけど」
「それ結構面白い人じゃーん!面白い人だけどやめてー!」
城ノ内さんの抵抗も虚しく、夕夏も僕達も、みんなミヅキちゃんのペースにハマッてしまったようで、気付けば放課後は毎日台本作り。そして土日は夕夏邸で台本作り。
大丈夫かなぁ?でもまぁ、僕的にはハロウィンのお化けとかじゃなきゃ何でも良いんだけどね。
海月冬耶が企む演劇の恐ろしさをこの時の芽吹は予想する事すら出来なかった。
続く……




