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芽吹と春夏秋冬  作者: 霜月ぷよ
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♂♀④ 家を間違えました。

大変長らくお待たせ致しましたか?お待たせしちゃいましたね。いや、すいませんでした。

 朝起きて部屋の鏡を見て不安げに髪をいじる芽吹。


 やっぱり流石に切り過ぎたかなぁ~?秋人が見たらなんて思うかなぁ~?


 洗面所で顔を洗い、また鏡を見て髪をいじる。


「う~ん……」



 そうしていると……、


「ふむふむ。髪型が変わっても我が妹の可愛さは揺らがぬな。いや、むしろ増している?」


「んにゃっ!?ちょっと兄ちゃん汚いよ!歯磨きの泡飛ばしながら早口で何言ってんの?」


「いやいや、朝から可愛い妹の着崩れたパジャマ姿が実にエロぶばばばばばば……」


「んにゃああっ、だから汚いってば!」





 〈秋人サイド〉


 登校日の毎朝の俺の日課。それは、めっちゃご近所さんな春風芽吹を迎えに家に寄ってから、芽吹と一緒に学校へ登校することだ。

 保育園の頃に仲良くなってから、小、中、高とずぅ~っと、ほとんど毎日一緒に登校するという日常。普通男同士でこれだけの腐れ縁みたいなのだったらどっかで嫌になったり、別の仲間グループと連んでなんとなく付き合いがなくなったりするんだろうけど。俺とハルの関係はちょっと他とは違ったみたいだ。

 ハルが女の子になり、そして、俺とハルは彼氏彼女という関係になった。それでも俺とハルの付き合い方は以前とあまり変わっていない。出来ればもう少し大人の階段的な段差に触れてみたいけど……。まだ高校生だ。まだまだ早い!




 もう慣れた……、というよりもう完全態レベルになった女子制服に着替えて姿見で軽く身だしなみをチェック。そこでやっぱり気になるのは髪型なんだよねぇ~……。

 今までとの見た目のギャップがありすぎる。

 日曜日に切ったから秋人にはまだ合ってないかは秋人まだ知らない。あと……、"体"のことをどうやって告白しよう……?


 外見上はほとんど変わらないが、パーツ的な意味では元に戻ってしまった自分の体を見て、これからどうしたものかと深くため息をもらす芽吹だった。


「おはようございまぁっす!」

「芽吹ちゃ~ん、未来の旦那様が迎えに来てくれたわよぉ~!」

「ちょっ、ゲホッ!菜花さん!?」


 赤面しながら思わず咳き込む秋人。


「ほらぁ~、早くしないと秋人君まで遅刻しちゃうでしょぉ~!」


「あ~もう分かってるよぉ。なんか恥ずかしいんだもん!」


 二階から聞こえる芽吹の声には何やら焦りと不安と、若干のイラつきが感じられた。芽吹のその様子に秋人は、


「ハルのやつどうしたんですか?」


「うん?まあまあ。今芽吹ちゃんが降りてくれば分かるから」


「は、はぁ……?」


 いまいち状況が読めず、とりあえず首を傾げることしか出来ない秋人だった。




 しずしずと、まるで艶やかな着物を初めて纏ってきたように、恥ずかしそうにゆっくりと階段を降りてきて玄関前に降り立った芽吹。それを見た秋人の反応は……、


「んなっ……、な……、えっ……、ハ、ハル、お前それ……」


 ほとんど無呼吸状態で言葉を絞り出す秋人。


 芽吹の今の姿は、女子の制服こそ変わらないが、秋人が驚き戸惑っているのは、その髪型だった。

 性別が変わって以来、肩くらいまで伸ばし整えていた髪が、今は、後ろはうなじが僅かに隠れる程度。こめ髪辺りの髪も、頬を軽く隠せるくらいの長さだったのが耳たぶあたりで切り揃えられていた。芸能人で例えるなら榮倉奈々や剛力彩芽くらいのショートヘアが分かりやすいだろうか。


「お、おはよう秋人」

「お、おう……」

「や、やっぱり変……かな、この髪型?」


気まずそうに髪をいじりながらチラチラと秋人の反応を伺う芽吹。

すると秋人は、


「あの……」


何かを言いかける秋人。

今の髪型を否定されるかもという不安でドキッとする芽吹。


「家を……」

「……?」

「家を間違えました」

「ほぇ?」


真顔でそう言いながら素早く回れ右で玄関から出て行こうとする秋人。


「はれ?え、なんで?ちょっと待って、秋人さん、どこ行くんですかぁー!?」





なぜか錯乱状態になってどこかへ行こうとしている秋人を芽吹はなんとか引き止め、玄関の中に引き戻した。


「僕が時々テンパってバグることはあっても、秋人は絶対バグらないと思ってたのに」


秋人のバグり具合に困惑する芽吹。

その様子を見ていた母菜花曰く、


「秋人君は芽吹ちゃんの今までとのギャップと更なる超絶的可愛さに精神が耐えられなかったのよきっと」


まっさかぁ。秋人が僕のことそんなあからさまに可愛いなんて言わないし。それに、昨日からちょっと思ってたけど、今のこの感じ、中学生の頃の見た目に近い気がするし。だったら今更ギャップなんて……。

と、考えている芽吹の耳元で、


「男の子っていうのは、今カノが出来ると何故か元カノに未練が出てくる生き物なのよ」


母菜花のそんな囁きの格言に、芽吹はポカンと頭に?マークを落としていた。

そんな我が子のウブ子っぷりに内心でムズムズきゅんきゅんと悶える菜花だった。





―お昼休み。学食―


今日は今朝からエライ目にあった。

登校途中の駅前では合流する同じ学校の生徒達にすんごく注目されて騒がれるし、昇降口では風紀委員会の堀川先輩と須藤先輩にやたらとチェックされちゃうし。髪型の件を秋人にちゃんと説明しようとしても夕夏のセクハラと八乙女さんのお怒りですぐに休み時間は終わっちゃうしで。それでもやっとお昼休み。

秋人にどうやって説明しよう?今の男の子の体の事……。

とは言え……、こんな大勢いる中で秋人だけに大事な話なんて出来るはずもなく。結局僕はいつもの癖でお昼寝という本能に時間を取られてしまった。

そしてあっという間に放課後になってしまった。


「はうぅー……」


今日一日ほとんど言えるタイミングを掴めないままここまで来てしまった。あと残るは帰りの道中だけか。でもとりあえず夕夏と八乙女さんがいないといろいろ困るし。



「おーいハル、そろそろ帰るぞ」


ぼーっと考え事をしている芽吹に秋人が声をかけてきた。


「ヤッホー!隣のクラスから呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!芽吹ちゃん一緒に帰ろー!」


「いや、別に呼ばれて来た訳ではないんだが」


「いやいやいやいや。秋奈っちは分かってないなぁ。芽吹ちゃんファンクラブの会員になった人は漏れ無く芽吹ちゃんと以心伝心出来ちゃうんだよ」


「なっ、なんだと、そうだったのか!?」


夕夏と八乙女さんも迎えに来た。

じゃあ帰ろうかと、秋人が促したところで、夕夏がキョロキョロし出した。


「そう言えば有馬と出島がいないようだが?」


先に気付いた八乙女さんが僕と秋人に聞いてきた。それに直ぐに答えたのは秋人だ。


「ああ、アイツら今日はなんかバスケ部の助っ人に呼ばれたらしいから、ホームルームの後すぐに行っちまったよ」


それに続くように僕は頷いた。

すると夕夏が鞄から携帯を取り出して、電話をかけ始めた。するとすぐに相手が出たのか、


「ちょっと京弥!今秋人君と芽吹ちゃんから聞いたんだけど、アタシに黙って別行動とはどういうことよ!?言ってくれれば美女三人で応援しに行くなのに!」


「美女三人て誰?」


とりあえず一応僕は首を傾げてみた。すると秋人が、


「まあ、間違いなくお前と、この二人だろうな」


芽吹は「僕は全然そんなんじゃないし」と言いつつも赤くなる顔を隠すようにそっぽを向いた。八乙女さんは八乙女さんで、


「お前がそういう風に茶化すから有馬は黙っていたのだと私は思うが?」


冷静な指摘。


「あと、出島君もいるんでしょ?八乙女さんが応援に行ったらたぶん出島君なら暴走とかするかも」


「うっ……」


芽吹の予想に八乙女さんの表情が曇る。


「いや、ハル、お前もいるからダブルパンチだな」


……たしかに。出島君の反応は簡単に予想出来る。

だ、だからって別に自分が可愛いとか美人だなんて認める訳じゃないからね。

小さく首を横にふる芽吹。


「どうしたハル?」

「ほぇ?……ううん。何でもないよ」




結局その日は夕夏のゴリ押しで有馬君と出島君が助っ人でやっているバスケ部の試合を見に行くことになり、帰宅時は試合の興奮で告白するのを忘れてしまいました。


それからも何だかんだと言うタイミングを掴めないまま、気付けば中間テストの準備期間に入っていました。




「まだ秋人君に言ってないの?」

「コラ夕夏、春風さんの気持ちを察せ。幼馴染みで長い年月を経てやっと結ばれた仲なんだぞ。それがある日突然、彼女が「私男の子になってしまいました」なんて、躊躇もなく言えると思うか?」


八乙女さんのフォローは有難いけど、僕と秋人の関係はこの二人が思っているよりもっと複雑なんだよねぇ。表が裏になって、裏がまた表に戻ったって感じで、。


夕夏と八乙女さんは僕のことを気にしてなんとか告白のタイミングを作ろうとしてくれていた。

僕のこの事情を知っているのはこの二人だけ。

さて、どうしたものか……



「芽吹ちゃんてさ」


登校直後、朝のホームルーム前。夕夏が僕を廊下に連れ出して聞いてきた。


「今ってテスト準備期間中じゃん。テスト勉強って今までずっと一人でやってた?」

「ううん。一人だと兄ちゃんがうるさいし、いまいちはかどらないから、いつも秋人に頼んで家庭教師してもらって二人で勉強してる」

「え……?」


夕夏の表情が固まる。一瞬空気も固まった気がした。


「え、なに?」


不安を感じたけど聞いてみた。すると夕夏はゆっくりと僕の肩に両手を置いた。


「芽吹ちゃん、それだよ。普通に二人っきりになれるタイミングあるじゃん!」


盲点だった。


「よし!芽吹ちゃん、今回もその作戦で行こう。家に秋人君を連れ込んでしまえ!抵抗するようならお色気で欲情させて……イダァ!?」

「キサマは朝から春風さんになんて作戦を吹き込んでおるかぁぁぁ!」





続く…














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