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芽吹と春夏秋冬  作者: 霜月ぷよ
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春α18 魔性だぁぁぁ!!

 吾妻川渚ちゃん、当初は一話だけのゲストキャラのつもりだったですが……。

 秋人の芽吹への思いは芽吹が思っていた以上に強かった。



 体育館やグランドから聞こえて来るドリブルやシューズが床に擦れる音。金属バットがボールを捉える音。活気のある掛け声。そのどれもが今は二人の間に流れる沈黙によって飲まれ、流されて行く。

 ベッドの上に浅く腰掛け、見つめ合う二人。秋人はひたすら真剣に芽吹を見つめ、芽吹はその真剣さに圧倒されてか大きな瞳が揺れていた。


「……秋人」


 今の僕って秋人にとってどれだけの存在なの?

 僕にとって、今の秋人はどれだけの存在?

 僕にとって秋人は……彼氏?それともまだ幼なじみの延長みたいな感じ?″僕の彼″って何?

 僕って何?

 女なの?

 まだ男?

 秋人と恋人でいて良い存在なの?秋人の恋愛経験、僕だけで良いの?

 あの日――。

 お互いの気持ちに気付き親友、幼なじみの関係から恋人同士の関係になったクリスマスのあの日。


 あの日僕は、秋人と本当の意味で分かり合えたと思った。

 性転換という男なのか女なのかよく分からない中途半端な存在の自分と、精神が女に傾くにつれ秋人への感情、気持ちが今までとは違うものになってゆく感覚に、いつも不安を感じ、その不安は日増しに抑えきれなくなっていった。

 いつか秋人は言った。

 ――俺がハルを好きな気持ちは変わらない。


 ――今は今のこの気持ちを優先して、なるようになるまで今を楽しめばいい。



 ――俺はずっと前からお前のことが好きだった!


 ――今のハルの姿も、今までのハルも、俺にとってはただ一人のハルだよ。ずっと幼なじみで親友だ。

 これは秋人が僕の退院直後に言った言葉だ。

 秋人の優しい顔が思い浮かぶ。


「お前は俺にとってずっと幼なじみだ。親友だ。俺が本気で好きになった″女の子″だ!」

「……!」


 秋人との思い出の回想中、そんな言葉と同時に突然強く体を引き寄せられ、抱きつかれた。


 えっ、ちょっ……秋人!?

 ギュッと抱きしめられて身動きが……。


「俺がお前を好きなんだ。だからお前は……、ハルはずっと俺のそばにいろ」

「……!」


 この時、僕は正直言葉の意味をすぐには理解出来なかった。ただ……、


「俺とお前はいつだって絶対的最強コンビだ!」

「「……!?」」


 秋人の声じゃない!?


 直後、僕と秋人は抱き合っていた状態からバッと離れた。


「お熱いこと。うわぁ、もう秋人ってば俺ジェラシーだぜ!」


「げっ、出島君!?」


「夏休みの朝から部活と補習授業サボって、保健室のベッドで何をやってんだアンタらは!」


「夕夏!?」

「夕夏!?じゃないわよ!秋人君も芽吹ちゃんも、いい加減気付いてあげなさいよ!あれっ」


 とてつもなく恥ずかし過ぎる現場を見られてしまったことに気付いて頭からキノコ雲を上げる二人を敢えてスルーするように、夕夏が保健室のベランダの窓を指差した。

 内心気まずさから逃げるように、夕夏が指差す方向を辿って窓の方を向く芽吹と秋人。

 ″ソレ″はそこにいた。

「んなっ!?」

「な、渚ちゃん……!?」

「むに゛ゅぅぅぅぅ」


 窓に押し付けられて、ビッタンコになったカエルみたいな顔面。流れ出る涙は窓に滝を作り、窓に掛かる息曇りの水滴と鼻水が混ざってもうグチョグチョに。

 何故彼女は泣いているのか?そもそも何故彼女がここに?




「ぶぅぅぅ~……」

「ほほっ。見事な膨れっ面じゃのぉ。まるで釣り上げられた河豚じゃ」


 引き続き涙と鼻水を流しながら、河豚というよりもハリセンボンのような威嚇的な表情で僕と秋人(ほぼ僕の方だけど)を睨んでくる渚ちゃん。それを同じく河豚のお面を付けてからかう海月ちゃん。

「ちょっと何なんですかこのお婆ちゃんくさいお面の人?春風芽吹さんの変人仲間ですか?それよりも秋人先輩、私のいないところでその人となんてことしてるんですか!し、しかも保健室のべ、ベッドでぇぇ!」


 相変わらず秋人には″先輩″で僕はフルネームなんだね。

 いろいろ興奮気味の渚ちゃんの言動にとりあえず苦笑いしか出来ない芽吹。



「ところでさ……」


 海月ちゃん同伴なのはまあいいとして。ウチの生徒ではない、てかまだ高校生でもない吾妻川渚ちゃんが何故こんな所まで来ているのか……?

 彼女の乱入で混沌とした状況に、夕夏が思い出したように問う。


「秋人君と芽吹ちゃんが保健室で密会絶賛ラブチュッチュしてたのはこの際置いておくとして」

「ひゃぁっ、ぼ、僕そんなチュッチュなんてしてないから!」

 

 言い回しがなんか母さんに似てるんですけど?

 内心そんなことにツッコミを入れつつ、顔を真っ赤に沸騰させて抗議する芽吹。


「夕夏お前よくそんな恥ずかしい言い回しが出来るよな。聞いてるこっちが恥ずかしくなるぜ」

「ちょっ……!クソ虫のアンタには言われたくないわよ!」

「″俺様″をクソ虫と呼んで良いのはこの世に八乙女秋奈ただ一人しかいないのだ。貴様ごときが気安く呼ぶな!」

 一人ふんぞり返ってそんなことをのたまう出島に対し、そこの場にいるみんなの反応は……、


「……あっそういえばアタシ京弥君にお弁当持って来てたんだったぁ!」

「あ~……そろそろ昼だな。ハル、補習は午前中で終わりだろ。帰りにどっかで飯食ってこうぜ」

「う、うん」


「……私もそろそろ帰らねばな。そろそろawazunで注文した新しいお面が届く頃かもしれん」

「……なんなの、この息の合ったスルーっぷりは!?」


 ただ一人、この場の空気が掴めず棒立ちになるしかない渚ちゃんだった。




 あれから結局芽吹達いつものメンバープラスαで帰ることとなり、電車通学組の夕夏、八乙女さん、有馬、出島とは駅で別れ、残りの芽吹と秋人、海月冬耶と吾妻川渚の4人は駅からゆっくりと歩き出した。

 さっきの保健室でのことで恥ずかしさと、未だ心の整理が出来ていないせいで、秋人になんて話しかければいいのか分からず、駅からしばらくの間は無言だった。多分秋人も同じ気持ちなのか、それとも僕に気を遣ってなのか、ただ真っ直ぐに前を向いて歩いていた。

 そんな秋人の様子をチラリと伺う。そして秋人の視線の先を何気なく追うと、渚ちゃんが一人僕らの先頭を切るように歩いていた。心なしか少し早歩きに見えるのは気のせいかな?

「お二人の″あんな現場″を見せ付けられては、さぞかしショックだったでしょうねぇ~」

 後ろを歩いていた海月ちゃんが、僕の腕に寄りかかるように言って来た。


「へ、変なん強調の仕方しないでよぉ!まさか秋人にあんなことっ……」

「芸能界。ハルが人気アイドルだったら大スキャンダルだな」

 そんなことを秋人が真顔でいうもんだから、


「他人事じゃないでしょうが。そもそも秋人が……、このバカ!」

「ぁイタッ!」

 以前よりも男らしくなったその胸板に、少し怒りを込めて張り手をお見舞いしてやったぜぃ。どーだ!

 幼なじみのちょっと怒った態度が可愛くて、実は大して痛くなかったが敢えてわざと痛そうにしてみる秋人だった。そんな仲睦まじい二人の様子に遂に堪えかねて、


「先輩お二方は本当に仲が良いんですね。秋人先輩はしっかり優しい人だと私は思いました。それでもここまで私をスルーするということは、私には秋人先輩を幸せにしてあげられる確率は低いということですよね。春風芽吹先輩と同じ存在にはなれないんですね」

 彼女は立ち止まり、僕と秋人の方は見ずににそう言った。それに対して僕は直ぐには何も返答出来なかった。


「渚ちゃん、さっきのあれはそんな……」

「別にショックなんて受けてませんからっ!」


 勢い良く振り返り、秋人の言葉を遮って強い口調で言い返す渚。

 口ではそう言いつつ、表情は今にもまた鳴き出しそうな顔をしていた。

 その切なそうな表情を見た芽吹は、


 ここは僕が心を鬼にして秋人を説得するべきなのかもしれない。このままじゃ渚ちゃんがあんまりだよ。秋人は僕意外の女の子に厳しすぎる気がする。今日一日くらいは秋人に頑張ってもらわないと……。

 そう思って決意した僕は、なんとなく先に海月ちゃんを見た。目が合うと、海月ちゃんは僕の考えていたことが分かったのか、微笑みながら頷いてきた。


「今なら大丈夫」


 そう言われた気がした。僕も頷き返し、今度は秋人の方を見てみた。すると秋人は……。


「横でコソコソお前らだけで決意のアイコンタクトを済ますなよ」

「ほぇっ、何で分かったの!?」

「こんなすぐ横でそんな動きされて気付かねぇってどんだけだよ。俺はラノベ主人公じゃないからな。全く……」

 頭をガシガシと掻きながらも、ため息混じりにそう言って、秋人は渚ちゃんの側まで駆け寄って行った。





 後日談になっちゃうんだけど、あの後秋人と渚ちゃんの関係は以下の通りになりました。


「いくら秋人先輩からの誘いでも、今さら同情心でデートに付き合ってもらっても全然トキメキませんから。第一先輩今、内心仕方なくとか、そんな感じですよね?年下の女だからってナメないで下さい」

「す、すまん……」

「っはあぁ~……。凹みたいのはこっちなんですけど?」

「……」

「分かりました。私から解決のため手を討ちましょう。」


 何でか秋人が凄い困ってる?年下の女の子に責められて困ってる?これは僕でも滅多に見れない秋人のレアフェイスかもだよ!


「私の条件を呑んでくれたら、将来の運命のお婿さん候補から″秋人先輩は″外します。それで機嫌も直ります」

「……待て。″俺は″ってなんだ?」

「人生いつ何があるか分かりません。実は秋人先輩以外にも他に占いでお婿さん候補を見つけてあるんです。候補が多いに越したことはないですから」


「悪女だぁぁぁ!!」

「魔性だぁぁぁ!!」

「とんだ女狐だのぉ」


 開いた口が塞がらない芽吹と秋人。呆れで目を細める海月だった。


「私の条件。それは、今週末、私と私の友達と海水浴に付き合ってくれることです」





続く…

 次回でこのシーズンはラストになります。

 吾妻川渚ちゃんと秋人、芽吹ちゃんとの関係は……?水着の描写、ファッション知識皆無です。

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