春α13 誰が少年だキサマぁ!
大変永らくお待たせ致しました。
突然書いてみたくなった。今日の僕の日記。その始まりはこんな言葉からです。
「これは前々から言いたかったことだが……、お前ら二人のラブさ加減はもう風紀委員会の手に負えん。どうにかしろ!」
のどかないつもの学食の一角で小さな先輩が怒りの声を上げました。
「じゅんちゃん。まあそう興奮しないで。身長縮んじゃうよ?」
「俺に身長の話をするな真琴。締め殺すぞ」
「ダメだってばじゅんちゃん、そんな野蛮な言葉使っちゃあ。ごめんね、この子根は優しいんだけど身長のことになると導火線が短くてさ」
身長の事を言われて猛犬のように吠えるツンツンショートヘアの小さい先輩と、そんな彼女の怒りを宥めているのか、煽って楽しんでいるのか分からない爽やかに笑う長身イケメン風の先輩。
小さくて怒りんぼうなツンツンが堀川真純。長身爽やか宝塚風が須藤真琴。二人は風紀委員会である。
ツンツンショートヘアで普段から男っぽい言動と風貌の堀川真純は、常に機嫌が悪そうな無愛想な表情の為、周りからは勝手にビビられている。実際怒りんぼうキャラではある。身長の話題になると導火線が短くなる。
逆にサラサラショートヘアの須藤真琴は常に爽やかスマイルで、柔和な性格をしている。長身でスタイルも良く、男装でもそのままでも文句無しに「美」が付く中性的な見た目。
二人揃って男性的な要素を持った仲良しコンビである。
「いや、あの、どうにかしろと言われましても……。なあ?」
「ましても……、ねえ?」
秋人が困った顔を芽吹に向けて問うが、芽吹も同様の顔でそのまま秋人に返す。
「僕達ってそんなに風紀を乱してますか?」
僕は風紀委員会の先輩二人に聞いてみた。すると堀川先輩には何故か急に顔を赤くして怖い顔で睨まれてしまい、その横では須藤先輩が口元を抑えて何やら笑いを堪えていた。
「うっ……、あの、なんで睨むんですか?」
「ぬうぅ~~……」
「ひぃぃ!?」
「ぷっ!」
「なっ、お前何笑ってんだコラァ!」
抑えきれず遂に吹いてしまった須藤先輩。よく分からないけどなんか失礼な先輩だなぁ。
と、僕はその時思った。
「ホント。君は素直というか、不器用というか。好きな子を前にすると表情が恐いんだよねぇ。くふふふ…」
須藤先輩はまだ小さく笑いながらそんなことを言った。
え……?
………?
……え!?
「な、何をっ……!ち、違うぞ。違うからな。俺はそんなふうにお前を見てるわけじゃないぞ。真琴、お前はいつも誤解を招く言い方が多いんだよ!」
須藤先輩の言ったことを慌てて否定する堀川先輩。顔が赤いけど?
さすがは秋人。モテるねぇ。僕が認めるイケメンだもんね。先輩女子の1人や2人に好かれるくらい仕方ないよね。
無名のインディーズ時代から知っていたアーティストがメジャーデビューした時くらいの鼻高々な気分でそう思っていた僕だったんだけど、
「芽吹ちゃんはホントにイイ意味で風紀を乱しまくりだよね。ウチのジュンちゃんの心も乱しちゃったもんね」
「…………」
……はい?
今、僕呼ばれた?
「ジュンちゃん見た目少年だから、同性愛が許されるなら芽吹ちゃんと組んでも有りだと思うんだよねぇ。身長同じくらいだし?」
「誰が少年だキサマぁ!あと俺はそっちの趣味はねぇっ!」
またツンツン頭が逆立った。猫みたい。
怒れるちっちゃい先輩と、キラキラ笑うおっきい先輩を前に、僕と秋人はどうして良いのか分からず見合ってお互いを首傾げた。
困惑する僕達をよそに、仲良くじゃれ合い出す先輩2人。
「仲良良いんっすね」
秋人が言った。
「はぁっ?良くねぇよ!」
「あはっ。分かる?怒ってる時のジュンちゃん可愛いでしょ?」
「あの、ところでなんですけど……」
そこで僕はある疑問が浮かんで、というか気付いて?ちょっと遠慮しつつ聞いてみようと思った。
みんなが一斉に僕に注目する。
あぅ……。あんまり見ないでぇぇ。
「ん?」
「どったの芽吹ちゃん?」
通路を挟んで一つ離れた席から有馬君と出島君。
「芽吹ちゃん、みんなに一斉に注目されて照れてる?」
「ああ。照れてるな。久々にフリーズしやがったな」
夕夏と秋人にはすぐに理解してもらえちゃったようで。
〈秋人サイド〉
その後すぐに昼休み終わりの予鈴が流れ、ハルが再起動したのは五時間目。英語のリスニングの授業の最中だった。
教材用の洋楽ではハルの即再起動は無理と判断した品田先生は、俺達生徒に助けを求めた。
「携帯の使用を許可する。誰か春風さんを再起動できる方法はないか?」
みんないろいろ知恵を絞ってハルの再起動を試みたが……。ハルの好きなボーカロイドやアニソンで俺もやってみたが駄目だった。キスでもすればもしかして……。授業中にそれはさすがに出来なかった。
次第に先生の顔が引きつりから泣きべそへと変わりつつあったところで、
「オホンッ!柊秋人さん、僕をお忘れですか?」
…………
……ん?
「ん、誰?って顔されては名乗らざるを得ないですね。仕方ありません。……海月冬耶です」
……………。
「……ぁああ。お面のせいで分からなかった。すまん」
「むしろ"お面"だからこそ気付きなさい!」
いや、今回の彼女はお面てレベルじゃねぇ。頭部がマーライオンで、残りの体は丸ごとロダンて……。どっこら持ってきてどう装備したんだそれ!?
「問答無用デス。芽吹ちゃんを再起動しまーっす!」
そう言って海月はまたどこからともなく妙な被り物を出して来た。
カポッ……ギュッ……
「いぃだだだっ!いきなり俺に何被せて来てんだ!?……ってうわああああ!!」
海月の襲撃を受けて謎の被り物を被らされそうになる秋人だが、幸いサイズが合わず、海月の襲撃は未遂となった。だが、秋人が手に取った被り物はなんともリアルな落ち武者マスクだった。
思わず悲鳴を上げて放り投げたマスクは、ざんばら髪を振り乱しながら宙を舞った。
ボテッ!バサッ!
…………
…………?
「……っ!?」
〈芽吹サイド〉
何かの音に気付いて意識が戻った僕は、"何か"と見つめ合っていることに気付いた。
「……?」
落ち武者さんかな?髪バサバサだなぁ~……。
「……ひっ!?」
芽吹の断末魔の悲鳴が校内に響き渡ったのだった。
「この声は彼女か」
「たぶんそうだろうねぇ」
「騒ぎを起こすのは決まって彼女のクラスだな」
「春風芽吹ちゃんはそういう星の下なんじゃないかな?ジュンちゃんもそんな感じでしょ?」
「俺に聞くな。その呼び方も止めろつってんだろーが!」
続く…




