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芽吹と春夏秋冬  作者: 霜月ぷよ
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春α5 これなら安全ですよ。

桜祭り編 お化け屋敷パートです。お化け屋敷、作者も苦手なので、あまりイメージが湧きませんでした。

『怖くなんかない』と意地を張った結果、今更やっぱり止めようとは言えず、楽しそうに僕の背中を押して先を歩かせるミヅキさんに正直助けを求めたい。お化け屋敷でエルフが何か神秘の力を使って早く終わらせてはくれないだろうか。




「ハルちゃん、そこのカーテンを潜ればスタートです。早く前に進みましょう!脅かし役の方々が自分のホラーパフォーマンスで美少女を驚かすのを楽しみにしていますよ!」

 某女性バラエティーおバカタレントみたいにこのお化け屋敷の興奮度を体で表現し出すミヅキさん。


「一応聞いておくけど、その美少女ってミヅキさんだよね?僕は入ってないよね?」

「……ミヅキさんて誰ですか?」

 全力笑顔で誤魔化された。これは逃げられない。僕は確信するしかなかった。

 お化け屋敷を遊びとして楽しめる人種の気が知れない。

 もう一枚。このカーテンを潜ればいよいよだ。しかし芽吹はまだ決めかねていた。

 そんな芽吹の様子に悪戯心をくすぐられた海月冬耶は計画を実行することにした。


(春風芽吹とお化け役の人達には申し訳ないが、ちょっと悪戯に付き合ってもらおうかね。くふふふ……怖いねぇ~)



「さあ、ハルちゃん。早く終わって秋人さんのもとへ合流しましょう。お化けと言えども人ですから。ササササ。ちゃっちゃとゴーゴー!」

「わわ、わかったから押さないで」

 張り切るミヅキさんにグイグイ背中を押されて遂にお化け屋敷の本丸へと入ってしまった僕。

 入って初っ端から僕の目ん玉と御魂おんたまがえぐられる場面に突入なんですけど!?

 まず芽吹を迎え入れたのは、道を挟んで墓地が十メートルほど続く墓地エリアだった。

「にゃ~。にゃ~」

「みゅぅ~。みゃ~」

「にゃ~ご~」

「ひにゃっ!?な、なんで猫!?」

 入っていきなり足元に群がってきた猫に驚き、バランスを崩しそうになる芽吹。


「にゃん……。にゃん……」

「……ん?」

「うらめしぃ~……にゃん!」

 慌てつつも足元の猫を踏まないように足場を探して片足立ちになっている芽吹の視界に、奇妙なものが現れた。


「魚が一匹……。二匹……。三匹……」

 またもう一体。墓石の影からぬら~りと出てきて、イワシかサバか、魚を一匹ずつ数えて魚籠びくから魚籠へ。お化けだけど挙動不審な行動。白装束の如何にもな幽霊。のはずなのだが、今出てきた二体の頭には何故か猫耳が付いている。


「ひぃぃっ、お化っ!?え……化け猫?妖怪?」

「化け猫幽霊なんてなかなか可愛らしくて斬新なお化け屋敷ですね。群がる猫でビックリ。墓地から化け猫でまたビックリ。そして群がる猫にほっこりとは実に……」

「可愛くない。幽霊は幽霊だよ!落ち武者頭に猫耳はより不気味だよ!」

 今のは特に心臓に悪いほどては無かったが、猫耳の落ち武者頭の幽霊では、リアクションに困るし、形容し難い不快感が湧く。芽吹は無意識に猫一匹を抱きかかえて逃げるように次のカーテンへと走った。その後を追って海月冬耶も駆け出す。


(おかしいのぉ。若者は猫耳を見ればとにかく盛り上がるはずなんだがねぇ?)

 本物の猫と猫耳お化けという意味不明で中途半端な作戦が失敗したことに納得がいかず、内心文句を漏らしながら次のドッキリに期待する海月冬耶だった。




 僕は訳も分からずとにかく次のカーテンに突っ込むように潜った。また薄暗い場所に出た。


「うぅ……。お化け屋敷ってなんでいつも暗いの?お化け役の人目悪くなっちゃいますよぉ~?」

 お化け役の係員さんがその辺で待機していると思い、そんな身も蓋もない優しい言葉を発する芽吹だが、声が若干上擦っているせいなのか、薄暗いせいなのか、室内で反響した声が空間をより不気味な雰囲気にしただけだった。


「ここは……」

「見たところ、いわゆる廃病院ってやつですね。今度はどんなお化けで出てくるんしょうねぇ?」

 ボロボロに剥がれた床。白いはずの壁も古びて荒れ果てた感がある。更に何やら如何にも怪しいシミ。飛び散ったようなものから、ベッタリと付いたもの。二人がゆっくりと先に進むと、右側に一つ部屋がある。その部屋と廊下の境。壁の角にもシミが。


「み、ミヅキちゃん、あ、あれ、あそこの手みたいなシミ、ヤバいやつだよね?フラグだよね?なんかいるやつだよね?出て来ちゃうやつだよね?」

 猫一匹と海月さん抱き寄せてオロオロし出す芽吹。芽吹に見えているのは、部屋の中から血みどろの手が這いずってきたようなシミ。いかにも『そこから出てきます』的な印である。しかし、芽吹にとってはそんな気遣いも単なる恐怖のフラグである。

 その部屋の前を通過しなければ先には進めないのだが、芽吹はその部屋の前を突っ切ることが出来ないでいた。


「何が出るカナ何が出るカナ?」

「いやぁ~。そういうの止めてぇ~!」

 そんな時だった。


 ――ギシ……ベタッ……ギシ……――


 二人の間に沈黙が落ちる。芽吹は急な心拍数の変化に胸と耳が痛くなった。


 ――ベタッ……――


 何か湿った物が壁にへばり付いたような音。

 見ていたくないのに凝視してしまうこの嫌な間。海月さんは微かに楽しそうに直立で、彼女にしがみ付いている芽吹はもう瞳孔が開いたチョッパーみたいなまん丸目んたまになって、体はバグったようにブレまくっていた。


 ――ベチョッ、ガチャ……――


「ぁああぁぁあぁ~~」

「にゃああ出たあああ!!」

「出ましたね」

「なんかでっかい注射器持ってるんですけどぉ!?」

「ナースですからねぇ。注射器ぐらいは」

「サイズがおかしいよ!?あと背中!背中になんか刺さっちゃってるよ!?」

「ん~。医療器具のこととかよく分かんないですけど、たぶんメスとか、そういう系でしょう」

「僕もよくは知らないけどそれくらいは分かるよ!それよりももう近い近い嫌だ怖い逃げるぅ!」

 芽吹にやっと逃げの勢いが出たようだ。

 ガトリング砲のようなデカい注射器をやっと持っているような血みどろナースから逃げるため、走り出しところで、頭上からいきなり何かが降ってきた。


「ひぃぃぃ、なななな何何何何何怖い怖い怖い怖い!」

 芽吹はもうパニックになっていた。キャラ真似で誤魔化す余裕すら無くなっている。


「フフっ。ここはお約束のこんにゃくかはんぺんですよ。ハルちゃん」

「へ……、こんにゃく?」

 海月さんの余裕の種明かしに一瞬冷静になる芽吹。

 だがそこでまたしても、


「ぅうああぁぁぁ……」

 今度は点滴スタンドを引きずりながら、まあまあ早いほふく前進で迫ってくる患者のゾンビ。

 それに対して二人の反応は、


「軍隊上がりですかコノヤロー!」

 芽吹がその辺に散乱している石を投げた。


「あっ、ちょっとハルちゃん人だから!石は危ないよ!」

「あっそっか。ごめんなさい!」

「ぅるあぁぁぁぁ」

 患者ゾンビはノーリアクションでほふく前進を続けていた。


「にゃああ来るな来るなぁ!」

 恐怖にただジタバタする芽吹の横で、海月はまた面白いことを思い付いた。


「ハルちゃんハルちゃん」

 振り向く芽吹に、


「これなら安全ですよ」


 ………………………


「食べ物で遊ぶなぁぁ!こんにゃく農家さんに謝れぇぇ!」


 ぺちんっ!


「あぃダッ!」

「ゾンビが喋りましたね」

「はんぺんはコンビニおでんの具の中で貴重なアイドルなんだ。勿体ないことするなバカヤロー!」


 スパンッ!


「きゃっ!すいません!」

「血みどろナースさん、意外に声カワイイですね」




「ありがとう御座いましたーー!ごめんねお嬢ちゃん。怖かったでしょう?」

 やっとお化け屋敷から出てきた僕とミヅキちゃんに、店頭係員さんが満足げにそう言ってきた。

 僕はそんな鬼畜な係員さんを思いっ切り睨み付けた。

 なのに、その係員さんは更に笑顔というか、ニマニマというか、優しく僕の頭を撫でで来た。それを見ていた周りの人からもなんかやたらと優しい空気を感じた。でも兄ちゃんだけは、


「もし漏らしてんだったら早く言えよ。近くのコンビニで替えパン買ってきてやる。白か、ピンクか。確か黒もあったな。あ~でも芽吹に黒は似合わないな」

「漏らしてなんかいません!パンツはいらないからおでん奢れバカ兄ぃ!」

「うおっ、何怒ってんだよ。生理か?」


 その後、お化け屋敷から離れても、しばらく芽吹の機嫌は治らなかった。秋人もいろいろ気を使ってご機嫌取りをしたが、苦笑いをするしかなかった。筑紫は筑紫で、可愛い妹のマジのご機嫌取りに苦労をし、見方によっては『妹に貢ぐ兄』という構図になっていた。



「お化け屋敷なんて二度といくもんか。……そう言えば猫ちゃんいつの間にどこ行っちゃったんだろ?」

 秋人と春風兄弟の横で、ちゃっかり筑紫の奢りで買ってもらった焼きはんぺんを暑そうに美味しそうなに食べる海月さんだった。


(まだ日は高い。今日はまだもう少し楽しめそうだのぉ。生魚よりは劣るが、はんぺんとやら、このフワフワはなかなかイケるねぇ。さっきのやつも食べたかったのぉ~)





続く…

カップルとお城の堀池と言えば、手漕ぎボートで二人だけの一隻。


次回…芽吹と秋人のリア充シチュエーションに筑紫が暴走!?海月冬耶の策謀は?

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