春α4 怖ガテナカナイよ
ロリエルフ海月冬耶の策謀その1。まずはお化け屋敷。なんですが……
関東から遥々、桜祭りを楽しむために、青森県は弘前市で開催中の弘前城桜祭りに来ていた芽吹達。
そこで偶然かなんなのか、意外な人物とばったり出くわした。それは芽吹と秋人のクラスメイト。海月冬耶だった。
「ぬぁ……、何で俺が……。もう今月分の金が……」
奇遇とか偶然とかミラクルだとはしゃぎながら、ちゃっかり芽吹と秋人にくっ付く形で合流した海月冬耶。そしてこれまたちゃっかり。芽吹に負けず劣らずな美少女に加え、プラチナブロンドヘアーのロリエルフのビジュアルで、
「サンキュウグッジョブです。芽吹さんのお兄さん。家族団欒の中に突然乱入しちゃったような私に食べ物を奢ってくれるなんて。紳士な殿方なんですね」
小首を傾げて、キュピンとハートマークが弾けそうなロリィな色気を筑紫に放つ。
「おっ?あ、ああ。芽吹の友達なんだろ。まぁ、そこはよろしくしねえとダメだろ。俺は大学生だから?一応大人?」
「ほほう。ということは、"大人お兄さん"と呼ぶべきですか?」
海月冬耶のそんなおだて文句にまんまとハマった筑紫は、
「お、おおよ!俺はもう大人だぜ!」
ロリエルフにおだてられ、一人勝手に大人ぶって大勢の人の前で高笑いをする筑紫だった。
皆それぞれ手に何かしらの食べ物を持ってしばらく歩き、芽吹達一行は弘前城桜祭りのメイン広場へと辿り着いた。
弘前城入り口の花見宴会でやたら賑わう場所とはまた別に、このエリアには出店の他に、バイクサーカスなる物や、子供達が遊べるバッテリーカーエリアなどある。そして一番の老舗名物なのが……、
「あっ、あれは!」
突然、海月さんが驚きの声を上げた。
「あれは、もしやお化け屋敷では!?」
「え!?」
「お!ホントだ」
「興味深いな」
「あら本当。お化け屋敷ね!」
「なんだか古めかしい外観だな」
みんな一軒の掘っ建て小屋のような小さなお化け屋敷の存在に気付いた。
「へぇ~……!弘前城の桜祭りってすげぇなぁ。なんか楽しみ方にボリュームがあるっつうか」
「すごいね。桜が観れる遊園地だね」
たしかにただ桜を観るだけじゃないのはすごいけど、何故にお化け屋敷なんですか!?心臓に悪いアトラクションとか僕苦手なんだけど……。ま、まぁ、入んなきゃいいだけだし。仮にみんな入る気満々だったりしても、僕はそこのバッテリーカーで時間潰せばなんとかなるし。
芽吹がそんなことを考えている横で、海月冬耶は何やら思案しながら嬉しそうに顔をニヤつかせていた。
(お化け屋敷……。クフフ。何やら面白い展開の予感がするのぉ~。あの子への恩返しついでに少しばかり桜の陽気に便乗してみようかねぇ~)
皆一通り花見コースを観て回り、ここでそろそろ終点的雰囲気になりかけていたところで、
「ここでもう終わりなんですか?」
海月さんが僕を少し見上げる感じで聞いてきた。ちょっと寂しそうに。
(きゃあ~。海月さんカワイイ~!)
「そ、そうみたいだね」
「なんかまだ物足りない感じですね」
「じゃあまた兄ちゃんになんか奢ってもらおうか?」
「おい!」
アイタッ!
頭上からツッコまれちゃった。頭をさすりながら見上げると、兄ちゃんはニッコリと口パクで『こんよく』と言ってきた。うっ……、脅迫条件が変態過ぎる。
「そうだ、皆さん!ここいらで一つ、自由行動というのはどうですか?集合場所を決めて」
いきなり大きな声で海月さんがそんな提案をしてきた。突然なその思い付き提案に対してみんなは、
「俺は有りだと思うけど、ただ、ハルの両親が何て言うか」
「まだ昼ちょい過ぎだ。俺も自由行動は有りだと思う。保護者は俺だ。ってことで、父さんも母さんもそれで問題ないだろ?」
秋人は僕の両親のことを気にして渋っていた。兄ちゃんは強引に母さんと父さんに向かって同意を求めた。
別に僕も自由行動に反対な訳じゃないけど、この時僕は、兄ちゃんの言動になんとなく違和感を覚えた。
そして現在。
ナニがどうしてこうなった!?
「柊秋人さん、あなたの後ろに白髪の少女の姿が……」
「にゃああああ!!」「お前がビビってどうすんだ!ハル、お前のことだよ!」
今僕達はお化け屋敷の前に来てしまっている。どうして?
「もぉ~、海月さん脅かさないで下さいよ~」
「いやぁ~、春風さんがあまりにも怖がっているので、これはそういうフリかと」
「フ、フリじゃないよ!怖ガテナカナイよ!」
「ハル、片言片言」
「だ、だから僕は別にお化け屋敷なんか怖いなんて、たとえ思ってたとしても、絶対怖がってないよ!」
顔を真っ赤にして全身で怖がってないアピールの芽吹。
「もはや怖がってないアピールというより、怖がらせてアピールですね」
「だぁかぁらぁーー!」
「春風さん、春風さんの呼び方なんですけど、芽吹ちゃんて呼んでもいいですかねぇ?それともハルちゃん?」
「あ、そういえばそうだね。う~ん、どっちでもいいけど。」
「じゃあ、ハルちゃんで。あ、私のことはレイスティナと呼んで下さい」
「ほえ、レイス?」
現在僕と海月さんは順番待ちをしていた。お化け屋敷に先に入っていった兄ちゃんと秋人が出口に出てくるのを待っていた。
人が作ったお化け屋敷なんて所詮人が人を脅かすだけなんだけど、それはそれでビックリするのが嫌だし、お化け役の人のメイクとか動きも怖いし。はっきり本音を言えばやりたくない。入りたくない。
この組み分けになったのにはちょっと複雑な気持ちがあった。秋人とならいくらかは心強い気がするけど、けど、お化け屋敷にビビるという醜態を晒す訳にはいかない。あと兄ちゃんとペアだった場合はもう言うまでもなく、お化けに脅かされるよりもメンタル的に良くない事態になる。絶対に!
兄ちゃんと秋人が中に入ってから、時々中から二人の驚く声が聞こえてくる。片方の野太い低音は兄ちゃんだろう。
程なくして出口から、出来れば身内とは思いたくないデカ物と、出来れば身内になりたいかも?な秋人が出てきた。それと同時に僕とミズキさん(そう呼ぶことに決まった)は係員さんになんか強引に凄い笑顔で中へと押し込まれた。
さっき秋人なんかちょっとヤツレてたような気が……?
「や、やっぱり止めない?心臓に良くないよこういうの。美と長生きの秘訣は心臓に優しくすることだと僕は思うんだけど。ミヅキさんはどう思いま……」
「メンタルに経験値を。さすれば何物にも臆せず長生き出来るでしょう。今日日の若者は敵に立ち向かい、経験値とレベルアップを図り、世に武士の魂を見せ付ける者。さあ、ハル殿、いざ出陣!と行きましょう」
芽吹の抵抗の言はあっさりと遮られ、美少女二人は分厚い真っ黒いカーテンの中へと入っていった。
「いきなりな急なやつとかは止めて下さい。ゆっくりなやつで」
「ぅぅああぁぁぁ……」
「ひぃぃぃぃ!ゆっくりもダメぇぇぇぇ!」
続く…
実は作者、お化け屋敷が嫌いです。ホンっっトに嫌いです。
次の回、どうしよう……




