バレンタインサイドストーリー〈八乙女さんと出島の場合〉
春風さんはあれで良いと思う。むしろ私は応援したい。柊秋人と彼女の関係は今となっては微笑ましい限りだ。柊秋人に対する彼女の反応は可愛すぎて堪らない。
夕夏と有馬京弥。この二人の関係はどうもいまいち中途半端だ。しかし私は他人の恋愛事情をとやかく評価するつもりはない。夕夏が困っているのならば協力はするが、私は基本的に恋愛に、特に男女交際に興味は無い。
今回はバレンタインデーという、お菓子、スイーツ業界が欧米文化に日本の魂を売った忌まわしき戯れ事の件についてこれから語らせてもらう。
結末から言わせてもらうとだな、あ~、いや……なんというか、私の暗黒歴史とでも言おうか、つまりだな、その~……、わ、私は今回不覚にも、とあるバカ男にチョコを渡してしまったのだ。
世間が、街が、街頭が、挙ってバレンタインムードを盛り上げ出してから数日後。2月10日。朝の電車内でも、駅から学校までの道中も、休み時間のトイレでも、世の女子達は四六時中バレンタインの話題で盛り上がっている。
私には理解出来ない。意味が分からん。友人や家族間で日頃の感謝の気持ちを伝え合うのなら良いことだ。私も春風さんや夕夏には仲の良い友人として何かプレゼントをあげると決めている。ところが、〈恋愛=青春・思春期〉と勝手な解釈のもと、お菓子業界の商売戦略にホイホイハマっていく中高生共は、チョコを出汁に青春を実感していると勘違いをする。
「秋奈っちは今年のバレンタインデーはどうすんの?いつも仲の良い女子にしかあげてないけど。芽吹ちゃんは決定だろうけど、出島君にはあげないの?」
改めてはっきり言おう。私は男という生き物が嫌いだ。同じ人間であるという事実に虫唾が走るのだ。
柊秋人は春風さんの大事な人だから私の偏見の対象外だ。有馬京弥に関しては、夕夏の暴走を冷静に且つ低反発で止めてくれるなかなか好ましい人格だと私は思っている。
クソ虫(通称ゲロ虫)奴の本名など知らん。奴はとにかくダメだ。クズに限りなく近いクズだ。
少なくとも私はそう思っているのだが……。
「八乙女ちゃ~ん。俺、八乙女ちゃんの手作りバレンタインチョコが、食べトゥあいなぁ~!」
「キサマが馴れ馴れしく私をちゃん付けで呼ぶな!」
~~~~~~~~~
「鳴海も芽吹ちゃんも義理チョコの予定は無いって……。八乙女ぇ~、俺にチョコくれぇ~」
「知らん!やらん!私に来るなこのクソ虫が!」
やはり奴はクズだ。
単純にチョコが食べたいのならどこでも買えばいいだろう。コンビニやスーパーだけでもいろんなチョコのお菓子が並んでいる。チョコの付いた菓子パンでもいい。しかし奴はそういう問題ではないと言う。
「バレンタインデーに女子から貰うチョコが重要なんだよ」
「ならば母親から貰えば良いだろう。或いは姉妹から」
「お袋は"女子"じゃない。姉と妹は問題外だ」
今このクソ虫は全世界の母親を敵に回す発言をしたな。
こんな調子で最近の八乙女さんは、出島からの猛烈な『ギブミーチョコレート』に頭を悩ませていた。
ある時。八乙女さんは出島の行動に疑問を抱いた。
いつも春風芽吹を女神のごとく崇めている出島。セクハラ発言が最大スキルの変態。そんな彼が何故……?学校には他のクラスや上級生にも沢山出島が好みそうな可愛い女子はいる。なのに何故わざわざ男嫌いの私にしつこく絡んでくるのか?私が男嫌いな性格だということはクラス中が知っていることだ。ましてあんな軽薄な変態など……と。
「明日夕夏達にちょっと聞いてみるか」
小さくなって浮き上がってきたバブを指で軽く突っつきながら、お風呂でも出島のことを考えてしまう八乙女さんだった。
ここだけの話、俺は他のどんなカワイイ女子よりも、ぶっちゃけ八乙女秋奈が好きだったりする。だって俺のこのギャグキャラ、彼女以外に誰が突っ込んでくれる?彼女以外にこんな扱い方してくれた奴はいない。
そして俺は今日も彼女に嫌われつつもアプローチを掛ける。
「八乙女ぇぇ~、俺にバレンタインチョコくれよぉ~」
「クネクネしながら私によるな。気色悪い!」
………………………
「なぁ八乙女ぇ、チョコくれよぉ~。義理チョコでいいからさぁ」
「知らん!貴様にはチョコなどやる義理すらない!」
俺は簡単には諦めない。俺はそういう男だった。
「秋奈ちゅあ~ん、バレンタインチョ……ってそれチョーク!?」
「大丈夫だ暗沈しろ貴様なら食える」
「待って待って。"安心"の感じが違う気がするよ?なんか"闇に沈め"的なニュアンスじゃなかった?」
今日もダメだったか。
俺曰わく。芽吹ちゃんはみんなの女神であり、絶対に手の届かない、ってか届いちゃいけない、触れてはいけない存在なワケ。でも八乙女は、俺にとっては届きそうで届かない。でも頑張れば届くかもしれない奴なんだ。
俺は考えた。イイ男はギャップが大事なんだって。
普段はバカっぽくってお調子者で?でも好きな女の危機の時にはめっちゃヒーロー。つまりジャスティス!
八乙女秋奈の万が一の窮地を救えるのは俺しかいない。
「おい、出島どうした?帰ってこい!」
「ちょっと出島君、それ僕の紅茶花伝なんだけど……?」
「え…………!?」
いつもの昼休みの学食で。
己のジャスティスを独り得意げに妄想していた出島だが、芽吹の飲みかけのジュースに口をつけてしまっていたことに気付くも……。既に遅かった。この日の学食は出島太矢の単独独占阿鼻叫喚ライブとなったのだった。
バレンタインデー当日は、朝から芽吹の席を覆い隠す程のチョコの山を、芽吹ファンがやっとこさで隠蔽に成功し、表向きはいつもと変わらない平常運行で時間は過ぎて行った。
あっという間にワクワクソワソワ、またはガックシの放課後。……はすっ飛ばして翌日。
「結局チョコ貰えなかったってか」
「…………」
「芽吹ちゃんからは貰えたんだろ?義理チョコ」
「……きのこの山。京弥は鳴海から手作り貰ったんだろ?羨ましい奴だな」
「それが原因で今トイレに引きこもってるのにか?ってか出島さん?」
「なんでしょう?」
「隣の個室からメールで愚痴って来るな。うぜぇんだけど」
「リア充下痢爆しろー!」
「だから俺今それなんだって……」
放課後のこと。ホームルーム終わりのチャイムと共に、俺は保健室を出て教室へと戻った。京弥は重傷だ。鳴海の手作りチョコに当たったらしい。鳴海にはまだこの事は伏せてある。
これから部活に向かう奴、帰る奴らと軽く挨拶を交わしながらすれ違い、教室に行くと、やっぱり最後まで残ってた。芽吹ちゃんに、秋人に、鳴海と八乙女。
具合の悪い京弥の付き添いを理由に半日サボった手前何となく都合が悪いのを誤魔化そうといつも通りな振りで、
「ヨッ。半日振りお久?芽吹ちゃんのくれたチョコマジで超おいしかったぜー!ありがとー!」
「え、いや、市販のチョコだけど……」
芽吹ちゃんてば謙虚だなぁ!その困った表情もカワイッ!
チラリと俺は八乙女を見てみた。するとあいつはぎこちなく俺から目を逸らした。なんか変だ。俺を避けてるのとは違う。漠然とした違和感が気になった。
すると横で、鳴海と秋人が何やら知ってる、隠している時のクスクス笑いを漏らしていた。
「ん?なんだ?」
この展開は何かのドッキリ?それとも俺なんか罠にハマった?
そう思ってキョロキョロしていると、
「ほれ、き、貴様にこれを、やる」
「え……!?」
なんと八乙女からチョコが!?
「昨日た、たまたま駄菓子屋で当たりが出たおまけの50円チョコだ。チョコくれチョコくれうるさいからそれで我慢しろ」
まさかまさかの八乙女からのチョコ。俺はあまりのサプライズにほとんど反応出来なかった。いつもならここで興奮して八乙女にハグしようとして制裁を食らうはずなんだけど。
「言っておくが別にバレンタインは関係ないぞ。私はバレンタインなど興味は無いからな」
……ってことはつまり……、
「バレンタインデーに便乗しない八乙女ちゃんの俺への真のラブプレゼント!」
「…………カカオ豆とドリアン、どっちを投げつけられたいか今すぐ答えるがいい」
「え……、で、出来ればどちらも無い方向で……」
「出来ん!」
「おぉふ!ぎゃあああ!オッフ!ふぎぇっ!ぎゃあああ!おぉふ!」
続く…
バレンタインパート終了。
芽吹:義理チョコって市販のチョコでも良いんだよね?手作りでも「義理チョコ」って相手に言えばそれで良いんだよね?
僕はまだお菓子は作れないから、出島君には『きのこの山』有馬君には『たけのこの里』夕夏には『キットカット』八乙女さんには『紗々』秋人の場合は改まったのはなんか恥ずかしいから、『チョコパイ』を二人で"普通"に食べました。
因みに母さんと父さんにはコーヒーに合うかもと思って『チョコブッセ』兄ちゃんには『コアラのマーチ』で。
以上、バレンタインパートでした。




