バレンタインサイドストーリー〈夕夏の場合〉
どーもどーもどーもそこそこお嬢様な夕夏だよ。よろしくね!今回はこのアタシが主役だよ。毎度毎度超絶カワイイ芽吹ちゃんばっかりだと世の男子も流石に美的センスが偏っちゃうでしょ?だから今回は可愛さ平均値なアタシが……って誰が平均値じゃい!
「何を一人で下らんことをしている。早く本題に入らぬか!」
「ハイハイ。ちぇっ。秋奈っちってば自分は平均値以上の美形だと思い上がりやがって……」
「何か言ったか?」
「サァ、ズバッと本編いってみよー!」
「……?」
突然今更だけど説明をさせてもらいます。
アタシこと鳴海夕夏は、去年の夏に、同じクラスで、イケメンでクールで密かに喧嘩が強い有馬京弥君に告白をしました。そしてめでたくデキちゃいました。
……あっ、じゃなくって、付き合うことになりました。(デキちゃうのはまだいろいろ早いよね)
家のパパはなんかどっかの社長らしくて、アタシはまあまあお嬢様なんだけど、アタシの交友関係とか恋愛事には意外とルーズっていうか、放任主義?な感じで。あれから約6ヶ月。京弥君とは何度デートもしたし。芽吹ちゃんに秋奈っち、秋人君に出島君といつものメンバーでもいろいろ遊んだ。でも……。
京弥君はクールで寡黙で、そこがカッコイイの。カッコイイんだけど、学校でもプライベートでも、京弥君はあまり喋らないし、何が好きで何が嫌いなのか、まだ良く分からない。そこで……、
「芽吹ちゃん、ちょっと……」
アタシは芽吹ちゃんを読んだ。
「なに?」
その理由は、
「ちょっと出島君を呼んでくれる?」
「ほえ?召喚?」
頭の上に?マークを浮かべながらも、分かったと頷いて出島君がいる方に振り向いた芽吹ちゃん。
するとアタシの言葉をどう解釈したのか、いきなり呪文のようにこう呟いた。
「――現世に迷いし白き魂魄を捉えし混沌と鬼畜の女神の名において命ずる。……出でよ、悪戯の魔神デジー魔!――」 あれ、芽吹ちゃん厨二病こじらせた?アタシはちょっと引いてしまい、どうツッコめばいいのか分からなくなった。
で、喚ばれたはずの出島君だけど、
「出島?お前芽吹ちゃんに呼ばれてね?」
「えっ、マジで!?」
気付いてなかったぁ!?
出島君と京弥君がこっちを(芽吹ちゃんを)見る。アタシも芽吹ちゃんを見た。
芽吹ちゃんはさっきの召喚のポーズのまま、真っ赤な顔から湯気を上げて固まってしまっていた。
(なんかよく分かんないけど、頑張った!)
とりあえず暖かい?視線を贈っておいた。
アタシが出島君を呼んだ理由は、まだアタシが知らない【有馬京弥のプロフィール】が知りたいから。あと京弥君がアタシには言えない、敢えて言わない、京弥君の本心を探るため。京弥君と出島君は小学生の頃からの腐れ縁だと、前に京弥君から聞いていた。だから出島君に聞くのが一番早いはず。
「芽ぇ吹ちゅあ~ん、俺に用って何~?」
「うぁ、いや、僕じゃなくて……」
如何にも目がハートになってそうな出島に若干引き気味に夕夏に助けを求める芽吹。
「ちょっとデジタイヤ、それはキモいから。呼んだのはアタシ」
すると出島君あからさまに残念そうな顔をしたので、
「そういえば最近秋奈っちメリケンサック買ったらしいなぁ~」
今秋奈っちはいないけど流石に効き目はあった。
幾つか分かったところで京弥君が教室に戻って来た。それとほぼ同時に秋奈っちも戻って来たところで、アタシは京弥君に悟られたくないし、出島君は秋奈っちからさり気なく逃げたいしで解散となった。
出島君曰わく、
「京弥は女子受けとか全然興味無いな。今までにバレンタインデーでチョコ貰ったり、いつ誰にコクられたって話聞いても、あいつ本人は全くリアクション無しだし。一時期は俺とデキてる的な噂が発ったこともあったかな。まぁ、京弥は俺の次にイケメンだから?腐女子達からしたら悪くない画かもしんねぇけど?」
あれ、なんか話脱線しそうな予感?
「京弥君に好きな女性のタイプ聞いたことあったけど、あんまりはっきりした答え聞いたことないんだけど。出島君は知ってる?京弥君の、なんていうか、恋愛感的な?」
「好きなタイプか~……。とりあえずたぶんCカップ以上あれば問題無いぞ」
「…………」
夕夏は一瞬自分の胸を意識した。
「俺はな!」
「アンタの趣味なんか聞いてないっての!」
やっぱり脱線した。そもそも京弥君は女の子を胸で選ぶような男じゃない。……と思うんだけど?でもやっぱりもしかして?
バレンタインデー二日前。
「秋奈っちぃー、俺にチョコ作ってぇー!」
「馴れ馴れしい。寄るなクソ虫が!」
同日昼休み。
「八乙女様。どうか恵まれぬ童貞に愛あるチョコを!」
「どっ童ぉ……!?ふ、ふざけるな誰がやるか!」
お昼休みの教室で披露される秋奈っちと出島君の変態とツンデレ漫才を横目に、アタシは京弥君の隣で、弁当に入っているグリーンピースを一粒ずつチビチビと食べていた。
遂に明日。というよりは今日が勝負。
結局アタシは、京弥君には特に何も聞かず、チョコを食べてもらうことで話の切っ掛けを作ろうと考えた。
放課後に秋奈っちを連れて、何軒かのスイーツ屋さんに寄ってモデルとなるチョコスイーツを見て回った。
夕飯後、メイド稼業モードの秋奈っちに手伝ってもらいながら、バレンタインチョコの制作に取り掛かった。
お店で幾つかピックアップしたスイーツの中からアタシが選んだのは、店員さんから男子に人気だという、ガトーショコラ。それと、手軽に食べられるタイプと思って、アーモンドチョコとマカダミアチョコをチョイス。女優の新柿結衣(通称ガッキー)さんがCMでやってるからこれも有りでしょ。
秋奈っちに教えてもらいながら始めてみたけど、最初のは見事に失敗してしまった。
秋奈っちは料理が凄い上手だし、教え方は実は意外にも超優しいの。普段はあんなだけど。秋奈っちのこういうギャップが好きなんだよね。
アーモンドとマカダミアチョコは簡単に出来たんだけど、ケーキのガトーショコラが思いのほか苦戦。
「うぅ~……。やっぱり上手くいかない」
どうしても上手くいかなくてとうとう床にへたり込んだアタシの側で、秋奈っちは腕を組んで何かを考えていた。
(ぅわお!さり気なく巨乳メイドだよ秋奈っち!)
しばらく悩みながら、失敗作のガトーショコラを摘まむ二人。味は美味しい。でもケーキっぽくならない。
「その辺の男子共は学校でケーキを食べるとしたらどう食べる?」
突然秋奈っちが誰に聞くでもなく疑問を呟いた。
「そりゃあ、箸か、パンみたく手で……っ!」
この瞬間、アタシは男子のあれ特性に気付いて秋奈っちを見上げた。そしたら秋奈っちも何か閃いた顔をしていた。
「「そうだ。アレだったら出来る!」」
アタシと秋奈っちは新たに材料を揃えて、改めてケーキ作りに取り掛かった。
―――――――――
バレンタインデー当日。
流石我らが夕陽ヶ丘高校の妖精芽吹ちゃん。朝教室に入ったらもうびっくり!芽吹ちゃんの席とその周辺、プレゼント箱の山、谷、川。ウチらは一年生だから、ほぼ先輩方からのチョコでしょう。しかも男女問わず。ただだスンゴい!
お昼休み。アタシはいつものメンバーを学食に召集した。
「まずはハイ。秋奈っちと芽吹ちゃんに。日頃の感謝と、これからもイジらせてもらおうということで」
なんてことを冗談半分で言ったら二人のリアクションはこうなった。
「じゃあ僕は、遠慮しま~す。あ、秋人か出島君にお裾分けしよっと」
「まるっとこっちに横流しかよ。それお裾分けって言わねぇだろ」
「マジ、芽吹ちゃんからチョコもらえんの!?」
秋奈っちは、
「昨日私に教わりながら完成したチョコだろ。中身も味も知っている物を貰ってもなぁ……」
と照れ苦笑しつつ秋奈っちは丁寧に受け取ってくれた。
秋人君には袋に小分けにしたアーモンドとマカダミアチョコを。
「芽吹ちゃんと仲良く『あ~ん』しあって食べてね」
うんうん。照れとる照れとる。特に芽吹ちゃんが。
出島君には秋奈っち経由でラグビーボールみたいなカカオ豆をあげといた。アタシが言うのもなんだけど、あれどうやって食べるんだろ?
そして一番大事な京弥君には、放課後こっそり彼の鞄に入れて、アタシは何も言わずに先に帰ってみたのだった。さて、彼のリアクションは……?
その日の夜。アタシは京弥君からの電話を待ってたんだけど、とんでもないことに京弥君からの電話もメール無く。彼氏とのバレンタインデーは虚しく過ぎて行ってしまった。
ところが翌日。朝起きたら京弥君からメールが届いていた。
【今日いつもより20分早く学校に来てほしい】
(え……、どゆこと?)
よく分からないけどとりあえずアタシはいつもより20分早く登校した。すると下駄箱の隅で京弥君が待っていた。片手に昨日アタシがあげたチョコの包みを持って。
「何勝手に人の鞄に入れて先に帰ってんだよ」
「…………」
あれ、怒ってるっぽい?なんか睨んでない?どうしよう、彼の方見れない……。
アタシが何も答えれずにいると、京弥君は溜め息を一つ吐いてから言った。
「みんな登校してくる前に一緒に食わないか?」
はぅっ!今度は違う意味で京弥君の顔見れないじゃん。なんでそんなにカッコイイの!?一緒に食べたいに決まってるしぃ!
「もう。一緒に食べたいに決まってるじゃん!教室まで競走。先に着いた方が全部食べるよハイよいドン!」
「ハァ!?意味わかん……って待てよオイ!」
続く…




