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芽吹と春夏秋冬  作者: 霜月ぷよ
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春 #5 全身チョコレートでコーティングした全裸の芽吹ちゃん!

 バレンタインパート始動!

 2月14日と言えば「バレンタインデー」

 それはお菓子業界によって世界規模で発動される言わばテロのようなもの。また日本では、クリスマスに次ぐ恋愛イベントの代名詞である。




 中学3年の2月。14日のバレンタインデー。この日は毎回、例によって例のごとく、ちょっとだけ憂鬱になる日なのだ。その原因は、幼馴染みで親友の彼にあった。


「……秋人は大変だな。毎回食べきれないだけのチョコを"貰えて"」

「ん?まぁ~……、まさか受け取らない訳にはいかないだろ。気持ちだけって子はいいんだけど、マジの本命チョコはさ……」

 秋人は困った表情で頭を掻きながら一拍置いた。


「断るのも精神的に辛いんだよなぁ~」


(なんだそのモテモテな奴ならではな贅沢な悩みは!この贅沢者め!僕は本命なんて貰ったこと無い!中学に入ってから一度も、義理チョコすら無いんだぞ!)

 因みに小学校の時には何度かそれっぽい女子から貰った記憶はあるけど、所詮は小学生。男子はガキだし、女子も恋愛してる自分に惚れてるみたいなお年頃だったらしいし。


 秋人は僕と違ってイケメンだし、平均以上に文武両道だし。女子から告白される回数も数多。でも何故か、秋人が誰かと付き合っているなんて、たまに噂は流れてても本当だったことが無い。僕の知る限りでそんな素振りもなかった。だから一時期、まさか秋人は僕に気を使って……?なんて考えてしまった時期もあったくらいだ。

 だからバレンタインデーはあまり盛り上がれるものじゃない。僕にとっては。



 ―そして現在―


 "元男の子な女の子"という特殊な境遇の芽吹に、またしても異性概念の壁が現れていた。



「芽吹ちゃんは秋人君にどんなチョコあげるつもり?」

「いや、えっと……」

「勿論愛情たっぷりのチョコレート芽吹ちゃんでしょ!」

 複雑すぎる環境の変化と心境に僕はこの話題に困り果てていた。それをすかさず代弁したのは夕夏。


「「ナニソレ?」」

 『男子禁制バレンタイン会議』なるものに参加していた他の子も僕と同様に疑問の声を上げた。 それに対する夕夏の回答は、赤くした頬を両手で隠すように、


「全身チョコでコーティングした全裸の芽吹ちゃん!キャー!」

 夕夏の「キャー!」に周りの女子も顔を赤く染めてピンクの歓声を上げる。


「「キャー!っじゃないよ!」」

 誰よりも顔から湯気を上げながらツッコミを出したのは芽吹と八乙女さんである。


(夕夏のエロ!一瞬想像しちゃったじゃんか!まったく……)



 2月12日。明後日に迫ったバレンタインデー。昨日からこうして休み時間のたびに『男子禁制バレンタイン会議』が執り行われている訳で。主に僕の席を中心に。何故に僕ん所?

 正直言って僕にとってはもう、女子からチョコを貰える確率は0%と決まっているんだから、何の特もない。それどころか、何が悲しくて去年まで男の子だった僕が、男の子にチョコをあげるかあげないかで悩まなくちゃいけないんですか。そりゃあまぁ、今は秋人とはそういう関係にはなれたけど、秋人は僕の事情を分かってくれてるから、いくら今僕が彼女でも……。やっぱりあげようかな?



 またしても……。

 夕夏達がバレンタインの話題を振ってくるまで忘れていた。バレンタインデーもこういうパターンがあったのだ!?

 男の子だった時の自覚というか、生まれながらの男の本能的感覚がまだあったんだ。いろいろ複雑過ぎる心境だけどこれはこれで嬉しい……のかな?


 芽吹は去年の春に突然女の子の身体になってから、ことあるごとに降りかかる生活環境のギャップによる様々な試練を乗り越えて来たのである。

試練① 女体の事情。

試練② 下着と制服とお風呂の事情。

試練③ 身体測定の事情。

試練④ 生理とホルモンバランスの事情。

試練⑤ 浴衣と水着の事情。

試練⑥ 恋愛事情。

 そして今再び、まだ残っているだろう男の芽吹と、最近益々成長著しい女の芽吹の精神がぶつかり合う。



 我が家に帰って今日初めて気付いたことがあった。家は父さんと母さんと兄ちゃんと僕の四人家族。その内母さんだけが女で、毎年母さんから僕たち男三人にチョコをプレゼントしてくれていた。しかしそれが今では……。


「芽吹、チョコくれ」

「…………!?」


(最近無いから油断してたパターン!?しかもなんで今それ!?ってあげないから!ってか普通に浴室に入ってくるな!更にソコは隠せってば!)

 とか。


「はぁ~……チラッと」

 父さんが露骨にこっちを覗いてくる。新聞逆さまだし。

 夕食が済んで母さんが台所で食器を洗っている時だった。

 さっきから溜め息を吐いてはこっちをチラチラと覗いてくるので、仕方なく聞いてみた。


「さっきから何父さん?」

「パパ、芽吹ちゃんの手作りチョコ食べたいなぁ~」

 すると、


「お兄ちゃんもチョコレートフォンデュ、芽吹にあ~んしてほしいなぁ~」

 リビングからカラスの死にそうなような声が。

 あまりにも露骨でしつこいので、

「もう分かりました!」

 と言おうと思ったら、台所から二枚の皿が飛んで、骨がぶつかる鈍い音とともに父さんと兄ちゃんが倒れた。二人とも額に直撃を喰らったらしい。流石は母さん。アサシンか?






 2月14日。バレンタインデー当日。

 僕と秋人はいつも通り一緒に、他愛のない会話をしながら、普通に学校へと向かった。

 その前にまず僕は朝食時に父さんにやたらとチョコをせがまれて、母さんも苦笑いしながら仕方無さそうに、僕にお小遣いをくれた。兄ちゃんも兄ちゃんで、玄関で僕を見送るついでにやはりせがんできた。あんまり無視しているとまたお風呂に乱入してきそうだったから、帰りに買って来てあげることを約束した。


 昇降口をくぐって下駄箱へ。そしてその光景はもうほぼ見慣れたようなものだった。


「ぅわぁ~……」

「……手伝うよ」

 秋人は毎度ながら微かに顔を引き吊らせて下駄箱の惨状を眺めた。

 秋人の場合、今日がこうなることは予想するまでもなかった。僕は秋人の肩に軽く手を置いて、鞄から袋を取り出した。 下駄箱での回収作業を終え、一年生の教室が階に上がる。

 秋人と廊下で別れ際、教室の中を覗いて、僕は呟くように言った。


「ふぁいと~」

 秋人はイケメンらしく爽やかに笑顔で返してきたけど、僕には疲れているようにしか見えなかった。


 さてと……。

 秋人にチョコをあげるのは帰りでもいいし。忘れてちゃダメなのは夕夏達にあげる分だ。僕はいつもの愉快なメンバーにはチョコをあげようと一応準備はして来たのだ。

 夕夏、八乙女さん、有馬君に出島君。いつもの愉快なメンバーの顔を思い浮かべながら教室のドアを開けた瞬間、


「「おはよー芽吹ちゃーーん!!」」

 まるで超話題の芸能人に群がる記者みたいに、突然みんなが僕に群がってきた。


「にゃっ、な、ちょっ、何!?」

 ビビって一歩後ろに下がるとみんなもついて来て、やたらみんなが僕に迫ってくるから結局廊下まで出て壁際まで追いやられてしまった。

 各々がワーワーギャーギャー言ってるけどどれも聞き取れないんですけど?


「いったい何事ですか?というか恐いんですけど……?」


 実はこの時、芽吹の席には秋人の下駄箱の状態に匹敵する大量のバレンタインチョコが積まれいたのである。そしてそれらを隠蔽しようとしているのは、極秘芽吹ちゃんファンクラブのメンバーなのである。

 芽吹本人が知らない真実。中学の頃に全くチョコが貰えなかったという理由。実はそれはまだ男の子であった当時から、芽吹には極秘のファンクラブが存在し、芽吹を恋愛という穢れから守っていたのである。

 そして現在。芽吹は秋人との恋人関係が成立した。その上で尚、物理的好意を寄せる類の物は即座に隠蔽されるのである。




 お昼休み。

(女の子の身じゃチョコなんて貰える訳ないし。せめて帰りに秋人にチョコパイでも買って貰っちゃおうかなぁ~)


 芽吹宛ての大量のチョコの処理に内心頭をかかえつつも、達成感に満たされているファン達だった。


(一年目からまさかハルのラブチョコ……は流石に無いな)

 元男の子でありながら、彼女になってくれた芽吹に、少しだけ期待をしてしまっている自分に嘲笑する秋人だった。






続く…

 次回…

 夕夏と有馬ペアパートか、八乙女さんと出島パートか、秋人パートか?バレンタインデー当日に向けて青春が揺れ動く予定です。

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