ちょっと番外編 萌えとオタクは十人十色
カワイイを愛でるのは罪ではない!無論鼻血をだして悶えるのも罪ではない!
by.出島 太矢
ある日僕はとある事について素朴な、しかし人によってはそこそこ重要かもしれない疑問に気付いたことがあります。
【僕がいるこのクラスには、"オタク"と呼べる何かに秀でた人は何人いるのだろうか?】
僕自身は正直あまり。アニメも、原作のコミックもラノベも、好きではあるけどオタクと言えるレベルではないと思う。アニメキャラクター達のフィギュアやポスターには興奮するけど、オタクとまでいかない。あ、でも秋人には『二次元オタク』とは言われたことがある。
僕は秋人と遊ぶ時は決まって僕ん家か、街に出掛けてかの二択なんだ。 秋人は自分で読みたい本を持ち込んで読んでたり、そん時は僕も読みたい本を読む。あと二人でアニメのDVDを観たり、テレビゲームをやったり。まぁ、ゲームはほとんど無双しかやらないんだけどね。(格闘ゲームはコマンド入力とかコンボ技がよく分かんないし。秋人が手加減してくれなきゃ勝てないからつまらない)
――中学生の頃――
僕の部屋で。秋人はコミックを読んでて、僕はラノベを読んでて。その時僕が読んでたのはラブコメだった。定番の鈍感主人公と美少女ヒロインとの関係にムズムズしながら読んでたら、ふと視線を感じて秋人の方を見たんだ。そしたら秋人がニヤニヤしながら僕のことを見てて、
「な、何でこっち見てニヤニヤしてんの?」
よく分かんないけど恥ずかしいんですけど……。
「ハル、お前今すっげぇキュンキュンしてただろ?」
「しっ、してないよ!」
「…………」
秋人は怪しむように目を細めてまだニヤニヤしていた。
「キュンキュンてなんだよ。そんな女子みたいな感情僕には無い!」
無双ゲームをしている時も――
「次のパーティーは~、う~ん……。やっぱ幸村だ。あとは稲姫と、くのいちちゃんかな」
1Pプレイ武将3人まで。秋人も自分のプレイ武将を決めて、ステージと難易度を決めて。
「いざ出陣!」
何パターンかあるお気に入りの武将パーティーで数多の戦場を蹂躙して、日頃のストレスを解消したところで秋人が言った。
「お前のプレイ武将ほとんど女の子キャラだよな。しかも撃破率割と低いやつ。使いづらくないか?」
「そっかな?」
武器との馴染みとか初期レベルの時は大変だった気がするけど、今は別になぁ。
指摘されたことに返す理由を考えていると、
「ハルは絶対声優で選んでるだろ。あと衣装変更がダウンロードした可愛いやつとか独特なやつに拘ってる」
「あ~、うん。そう言えばそうかも。あっ、オススメはね……」
そこで僕はお気に入りの武将を秋人に聞いてもらいたくて、イベント動画のチャプター画面を選択した。
「まずは立花ギン千代。いつも強気で高飛車な感じなのに、宗茂のことになるとツンデレが出てカワイイんだ!」
「まぁ、普通に面白いだろうな。俺は前田利家が……」
「同じ声で蘭丸もあるけど、まぁいいとして……。次はガラシャちゃんか、小喬ちゃんだね。あのお転婆感?天真爛漫?世間知らず?なんか可愛いんだよねぇ~」
「まぁ、そりゃ普通に可愛いわな。周泰。俺は周泰がオスス……」
「あと王元姫の声優さん可愛いんだよ。王元姫ちゃんのキャラではあまりいい場面はないけど。極めつけはやっぱり卑弥呼ちゃんだよ!」
「お前やっぱり女キャラばっかじゃん!」
「卑弥呼ちゃんはあの関西独特のノリと、あと『いて込ましたんねん!』って台詞が僕好きなんだぁ~」
「凌統とか島左近も格好いいぞ!声優さんイイキャラ出してるぞ!」
「ああ~、そう言えば加藤清正の声が『銀さん』なのがなんともねぇ~」
「人の話を聞けよ!今頃やっと男武将出しやがって!」
当時確かこんな会話があった記憶がある。今思い返せばこういう目線というか、センスみたいなものが既にもう【女体化フラグ】だったのかも。
話は今現在に戻って。回想シーンは終わりね。
どうやら僕のいるクラスには目立ってオタク志向な人はいないみたい。
昼休みの学食。
芽吹は例のごとくいつも通りお昼寝中。そしてその天使の寝顔に癒され中の夕夏と八乙女さん。それとは別に秋人と有馬はトランプゲーム中。出島は何があったのか床で即死中。
「あはぁ~……ん。芽吹ちゃんのこの寝顔。最高のお昼休みだよねぇ~」
「あぁ。外がどんなに寒かろうが。天気が悪かろうが。春風さんはいつも春の木漏れ日のようだ」
「おぉ~。なかなか乙ですなぁ。整いました。秋奈っちです!的な?」
「ねずっちみたいに言うな」
今日も芽吹の静かな可愛い寝息に、学食はマイナスイオンで満たされていた。
窓の外は北風が吹くどんよりとした冬の寒空。それに比べて校内は、特に学食は、春の木漏れ日のカーテンが揺らめく森のように静かで、つい目を瞑りたくなる安らぎの空間。そんな神の国のような空間に、純粋なる混沌の使者が安らぎの空気を押しのけてやってきた。
「芽吹ちゃんいる?てか起きてる?今週の土日どっちかまたアキバ行かない?コスプレイヤーがいっぱい集まるイベントがあるんだって!」
「……ふぇ?」
「あれ、寝てた?」
一人いました。僕のクラスにオタクと呼べる人物が。生粋のアキバオタクで、去年文化祭で僕達のクラスの出し物がメイド喫茶に決まって大盛況になったのは彼女のおかげだったんだよね。園田加奈さん。彼女のアキバへの熱とクオリティーの高さが結果に出たんだよきっと。
メイド喫茶に行けるのをまるで遊園地を楽しみにしている子供のように喜ぶ夕夏と出島君。
「ぼ、僕はメイド喫茶は今回はちょっと……いいかも……」
「あっ、そーそー!バイトの御姉様がさ、芽吹ちゃんに【一日看板娘】やってほしいんだって」
僕が断るつもりで口を開いた瞬間、園田さんが被せるようにそんなことを張り切って言ってきた。
僕は結構必死に断ろうと粘ったんだよ。八乙女さんを味方につけて。それでも園田さんと夕夏と出島君はしつこく食い下がって来て、昼休み終わりのチャイムが鳴ってもみんなで教室に戻ってもまだ勧誘をしてくるんだよ。それは5時間目終わりの休憩時間も、6時間目終わりのホームルーム直前も、全く諦めてくれない。これには流石の僕も、
(もう嫌だ。クラス変わりたい)
とさえ思う程に。
こうなったら……。
僕はホームルーム終了とともに鞄を引っ付かんで誰よりも早く教室を飛び出した。先生の少し驚いた顔が見えたけど、今はそれよりもなのだ。僕にとっては死活問題なのだ。後ろからは夕夏と園田さんが何か言っている声が聞こえた気がするけど僕は逃げます。途中、他のクラスから出て来た生徒とぶつかりそうになりながらも逃げた。しかし、廊下の最後。秋人がいる教室に差し掛かったところで予想外の刺客が現れた。
「芽吹ちゃん確保おおおおっ!」
「にゃっ、ええええ!?」
なんと園田さんのオタク仲間だった。
放課後。
結局僕は夕夏と園田さん一派に捕獲?されて、僕は今秋葉原にある、一軒のコスプレ衣装の専門店?でメイド服の着せ替え奴隷として剥がされ、着せられ、抱きしめられ?状態な訳です。
(僕、……もうお嫁に行けないかも……。ってかお嫁でいいのかしら?)
冒頭の疑問を振り返ってみた結果……、
どうやら僕に対して極めてオタク的な人種がいることに気付いてしまいました。
続く…
「秋人、なんであの時助けてくれなかったの?」
「いや……なんつーか、ハルのメイド服姿、もっかい見たいなぁって思って……」
「…………そ、そうなんだ……。じゃ、じゃあ、まぁ、仕様がないか……」




