春 #3 え、エキしゅキゆーズみぃ~?
『エロマンガ先生』第7巻やっと買えたぞ!早くアニメで見たい!
知らない人に一言。タイトルに騙されるな。真っ当なラノベだから大丈夫。
――今日、僕のクラスに転校生が来ました。三学期が始まって一週間も過ぎていたのに。こんな中途半端なタイミングで来る転校生。何か訳ありなのでしょうか?――
……なんて小説の語り口みたいなもっともらしいこと言ってみたり。
"とんでもない美少女"が転校して来た。
小柄な体格に、背中まで伸びたプラチナブロンド。それをハーフアップに纏めている。軽くお辞儀するだけで揉み上げ辺りの長い髪が重力に従って優雅に垂れた。
僕は見惚れながらこう思った。
「エルフ……」
「しかもロリの」
僕が口に出す前に男子二名の呟きが聞こえた。一人は絶対出島君だ。
「中つ国から異世界転移して来ました。ハーフエルフ族。名前はアリア・レゴラス。皆さんよろしく」
「…………」
(……ほえ?)
またクラスの時間が限りなく停止に近づいた。しかしすぐに沈黙は破られた。
「ホームルーム時間短いから普通に自己紹介してくれる?」
「ハイ」
先生は溜め息混じりに眉間を抑えながら言った。それに言葉だけで返事をする彼女。
「海月 冬耶といいます。日本とヨーロッパのクォーターです。今日からよろしくお願いします」 今度こそ本当に本名なんだろうなと思う。顔が緊張してる気がする。今までのはきっとその緊張を紛らわすためだったのかもしれない。
海月冬耶と名乗った彼女は、先生に指示されは自分の席に向かって歩き出した。席は窓側の一番後ろ。それに対し芽吹の席は廊下側から2列目、前から3番目になる。
「へぇ~。この時期に転校生かよ」
「うん。しかもヨーロッパとのくお……なんだっけ?」
「クォーターだよ」
横に座っていた夕夏が僕の代わりに言った。
昼休みの学食。
僕と夕夏と八乙女さんは自分で持ってきた弁当を。秋人と出島君と有馬君は学食かパンで昼食をとっていた。
「てか京さ~ん、俺の前でリア充満喫しないでもらえませんかぁ~?」
「ん?俺は別に満喫してないぞ。夕夏が勝手に自分の弁当のおかずが多いって俺にくれるだけだ」
「おい鳴海お前、自分が食えない量の弁当持ってくんなよ!」
「思春期の男子は学食だけじゃ足りないから、京弥君の分も詰めてきてるんです!」
「俺も思春期真っ最中の男子だ。京さん俺にもそのタコさんウィンナーくれ!」
一人モサモサと焼きそばパンとかチキンカツサンドとかを食べていた出島君が、夕夏と有馬君のイチャイチャぶりに堪えかねて吠え出した。
「ウィンナーはダメだ」
普段クールで夕夏の熱々なスキンシップにも殆ど表情を変えない有馬君だけど、どうやらタコさんウィンナーは譲れないらしい。確かに僕でもこうなっていなければ、一般の男子高校生なら総菜パン数個じゃ足りないと思う。
出島君が不憫だ。そう思った僕だが、僕は僕で、大盛ラーメン一杯だけにしている秋人にミニハンバーグを一個あげている。そのせいで今度は秋人に吠え出す出島君だった。
やっぱり可哀想だ。
「出島君、良かったら僕の……」
「いっただっきまーーっす!」
「ほぇっ!?」
いきなりブレザーとネクタイとYシャツを瞬時に脱ぎ捨てて飛び上がった出島。それに驚いて椅子ごと後ろに倒れかける芽吹。
「ひっ……ぁ……!?」
「おっつ……!」
直後、後ろに倒れ込む動きが止まった。
その直後、
ガシャーン!
「へ?秋人!?ちょ、ちょっと大丈夫!?」
秋人が咄嗟に僕を押してくれたおかげで僕は倒れずに済んだ。でも変わりに秋人が椅子ごと後ろに倒れてしまった。
僕が危ない目に合ったと。秋人も怪我をするところだったと。夕夏と八乙女さんが僕のための防衛本能を燃えたぎらせた結果、学食内は一時出島君オンリーの阿鼻叫喚に包まれたのだった。
芽吹達のそんな様子を密かに覗き込む人物が一人いた。学食の厨房スタッフに変装して。
「春風芽吹。あの子を幸せにしてあげるのが僕からの最大の恩返し。でもあの子の周りの子達もなかなかに面白そうなだね。長生きもやっぱり悪くないね。冬入刹那としていろいろ興じてみようかね?」
分かり易く怪しげな言動をとる一名の厨房スタッフに、周りのスタッフ達はただただ頭を捻るだけだった。
「アイツは何をしてんだ。変なお面なんか付けて?」
今日も転校生、冬入さんは煌めきのプラチナブロンドヘアーを靡かせて颯爽と、というよりはピヨピヨと可愛らしく教室に入ってる来た。
「冬入さんおはよー!」
「ぴゃっ!?」
教室に入るなり女子数名から盛大な朝の挨拶が轟いた。すると冬入さんはかなりビックリしたのか小さな悲鳴を上げて後ろ跳びに教室から出てしまった。やがてみるみる鳴きそう顔に変わり、
「あ、あれ、逃げちゃった!?」
どこかへ走って行ってしまった。
数分後。彼女はちゃんと帰ってきた。後ろ首を摘ままれた猫のように美城先生の手に吊された状態で。
ホームルーム終了後、さっきの事で謝りに来た女子数人に、彼女も恥ずかしそうに謝り返していた。
僕はその様子を何気なく見詰めていた時だった。一瞬、彼女がこっちに気付きウィンクをして来た。
驚いてまず周りを見てみた。僕の席は廊下側から二列目の並びにあって、僕の背後にも人はいる。だから僕にウィンクしたんじゃなくて後ろの人にしたのかもって思ったんだけど、違うみたい。もい一度彼女の方に振り向いたけど、全然こっちを見る様子はなかった。
(気のせいだったのかな……?)
「フゥ~。今日はなんだか疲れたなぁ……」
帰りのホームルームが終わり、教室内は一日の疲れを労う声や放課後これからどこに行くとか何をするかとか。これから部活に向かう人も面倒くさそうにグチりながらだったり、何かのリベンジに燃える人だったり、しばし騒がしくなっていた。
「芽吹ちゃん一緒に帰ろ?」
「うん」
帰り支度を済ませた夕夏が声をかけてきたので僕も鞄に道具を入れて支度を急いだ。
「春風さん、もし良かったらなんだが……、寄り道に付き合ってもらいたいんだけど……?」
八乙女さんが遠慮がちに控えめに聞いてきた。
八乙女さんも相変わらず僕にだけはこういう控えめな態度なんだ。どうしてかは分からないけど。でも別に仲が良くない的な態度では全くなくて、単純に八乙女さんはこういう人なんだと僕は納得してる訳で。僕は僕で大人っぽい女性らしい強い女性として憧れと尊敬を持っての『八乙女さん』なんです。
「うん。別にいいよ」
すると八乙女さんの表情がパッと明るくなった。
「じ、実はその、私が最近気に入っているお店なんだが……」
「屋台のワッフル屋さんがあってね、最近秋奈っちはそこのワッフルでワフワフ乙女ってるんだよ。柄にも無くカワイくない?」
嬉しそうに喋りかける八乙女さんの言葉を夕夏が遮ってきた。
「なっ!?」
言いたかったことを割り込みで言われ、挙げ句柄にも無いと批評されてショックで固まる八乙女さんを余所に、夕夏は更にそのワッフル屋さんのPRを勝手に始め出してしまった。
テンションの高くなった夕夏を止めるスキルは僕には無く、ただ苦笑いで対応することしか出来なかった。
夕夏のほとばしるテンションと、夕夏への不満爆発寸前の八乙女さんをなんとか宥めようとしていた時だった。ふと視界の端で彼女の存在が気になった。
転校生ってことはこの町のことは勿論、親しい友達もまだ少ないんだろうなぁ。そう思った僕はやたらと絡みついてくる夕夏を、鼻を摘まんで動きを封じてみた。
「フンギュ!」
(どうしよう、まだ話したことないんだよなぁ。でもワッフル屋さん一緒に行けたら仲良くなれるかもしれないし。……よ、よし)
僕は勇気を振り絞って誘ってみることにした。
「え、エキしゅキゆーズみぃ~?」
(うわぁ~なんか変な英語で喋っちゃっちゃぁ~!)
続く…
海月 冬耶
転校生 女子。
身長は140センチとかなり小柄。背中まで伸びたプラチナブロンドヘアーをハーフアップにした一見ロリエルフな美少女。なかなかに突飛な行動をする変わった女の子。




