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芽吹と春夏秋冬  作者: 霜月ぷよ
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春 #2 人を化粧水みたいに言うな!

 北国生まれ北国育ちの私は雪が好きです。雪中プロレスイイですよ!雪に人型の跡がいっぱい出来ます。

 因みに傘なんて使いません。

 1月のある日。

 三学期が始まってしばらくは冬晴れが続いていたが、昨日昼頃になって遂に天気は崩れ始めた。いつもなら放射冷却現象でキンと冷えた乾いた空気なのだが、今日は朝から僅かに湿気があり、いつもと違う寒さが感じられた。


――「今晩から明日にかけて気温は氷点下になると予想され、……」


「……都心部でも雪に警戒して下さい」――


 夕方の天気予報では雪を警戒するよう注意を促していた。

 クリスマスだったらホワイトクリスマスとして喜ばれる雪だが、特に何でもない日の雪は可哀相な程に警戒される。



「ほえ~、明日もしかしたら雪の中を登校ってこと?寒そう~」

 僕はご飯の上に麻婆春雨を乗せた茶碗を片手に天気予報を見ていた。


「あら、イイんじゃない芽吹ちゃん?合法的に秋人君にべったりくっ付いて行けるチャンスよ!きっと雪も溶けちゃうわ」


「……何で雪溶けちゃうの?しかも何、合法的って!?」


 何故か一人で勝手に盛り上がっている母さんに疑問を一つ問い掛けた。すると、


「芽吹ちゃんと秋人君がラブラブ過ぎるから?」


 顎に人差し指を当てて可愛らしく首を傾げる母さん。何故に疑問系なんですか?そしていい年こいてその仕草はなかなかにイタいと思い……。


「イダっ!」


 また心を読まれた!?足踏まれた。笑顔が怖い!


「銀世界の平原を可憐に一人歩く白銀のマイシスター。明日はお兄ちゃんと一緒に……」


「兄ちゃんは明日自動車学校でしょーが!」

(銀世界の平原て何だ!?そこまで雪積もらないし、そんな場所関東には無い!)




 予報通り、朝起きてカーテンを開けてみたら、道路も隣近所の屋根も車もうっすらと雪を被っていた。


「うわぁ、真っ白だ」

 自然とそんな言葉が漏れた。

 その直後、僕は反射的に光の速さで後ろを振り向いた。

 ……誰もいない。

 お正月にも雪は降った。そしてあの時は、変態バカ兄貴にパンツを見られてしまった。思い出しただけで蹴り飛ばしたくなる。

 そのバカ兄貴は、三学期に入って自由登校の時期になり、現在自動車学校に通い始めていた。開校時間は9時かららしく、僕が家を出る8時近くまで寝ている。


「秋人お待たせ。じゃあ行ってきまーす」

 まだ眠そうな兄と母さんに見送られて玄関を出る。


「芽吹、滑って転ぶなよ。美少女のパンチラは流血大惨事を招く」


「芽吹ちゃん、秋人君へのサービスも程々ね」


 真顔でふざけた忠告をして来る二人を無視して僕は玄関の扉を閉めた。(割と強めに)




 クリスマスのあの日以来の雪。あの日以来、僕と秋人との関係は仲の良い幼馴染みというだけではなくなった。

 僕はあの日のことをつい思い出して、秋人の横顔を覗き見た。

 最近気が付いたことだけど、秋人身長が伸びたように見えるんだよなぁ。もともと秋人の方が僕よりも背は高かったんだけど、前より見上げる角度が高くなってる。"女の子になった"という特殊なハンデのせいか、僕の身長は、はっきり言って男の子だった時よりも少し縮んでいる。


「ジィ~……」


 僕はわざとジト目で秋人を見上げてみた。すると秋人は、


「なあハル、俺ら一応付き合うってことになったけどさ、今までとあんま変わんなくないか?」


 雪が舞い降りる雪空を見上げて呟いた。

 僕はそこで歩くことを忘れ、数歩遅れて秋人が止まってこっちに振り向く。


「どうした?」


「……」


 確かにそうなんだ。言われてみれば以前の友達付き合いとあまり変わってない感じがする。カップルというにはまだ浅い感じ。そもそも僕は、秋人と違って今まで誰かと付き合ったことなんて無いし、どういうのが恋人らしいのか皆目見当もつかない。


「じゃあ、どうすれば秋人と恋人同士みたいになれるの?デートもしたよ?プリクラもやったよ?あと……」

 その次の言葉と行為を想像して、口に出すのを躊躇う。

 芽吹は恥ずかしさに俯き、更に傘で顔を隠した。


「……き、……ス……」


「ハル?」

 顔が真っ赤に茹で上がる中、やっとのことで絞り出した言葉は秋人の耳には届いていない。


(傘の中に隠れてとか、今なら、一瞬なら、キスぐらい……)

 とは思うものの、実際にそれを秋人に伝えられない芽吹。


 俯く芽吹の様子に、言ってはいけない話題だったかもしれないと後悔する秋人。

 それでも、


「悪い……。クリスマスからまだ1ヶ月しか経ってないんだよな。まだまだこれからだ。お互いの気持ちが分かってりゃ、カップルって言葉に拘る必要なんてないって」

 静かにだが、しっかり頷いて応える芽吹。




 また元の元気な笑顔を取り戻した芽吹と、気を取り直していつも通りに学校へ向かう二人。

 住宅街から大通りに出る少し手前の十字路に差し掛かった時だった。

 二人は歩みを止めざるを得ない光景に出くわした。いや、正確には不思議な人物?生き物?に遭遇?した。

 ここは住宅街。どこもかしこも塀で区切られているわけだが、そのよそ様の塀の上を、雪が積もった塀の上を、塀から塀へ普通にキビキビと歩く少女?が一人。

 二人が歩を止めた理由がもう一つ。

 ○ティーちゃんのお面をした状態での塀上歩行だったからである。


「♪~ネコ缶サバ缶オリバー缶!スペイシースパイシー超美味しー!」

 謎の少女は謎めいた合い言葉のような歌を歌いながら二人の視界から消えていったのだった。


 ????…………?


 顔を見合わせる芽吹と秋人。


「……なんだあれ?」

「さ、さぁ~……?」


 突如現れた○ティーちゃんのお面の謎の少女のおかげというべきか、さっきまでの微妙な空気はどこにも無くなっていた。結果、いつも通り仲良く学校に着いた二人。相変わらず芽吹は男女共々から熱い注目を浴び、秋人とは廊下で別れそれぞれのクラスに入っていた。


「芽吹ちゃんおはよー!」

「おはよう!」

「芽吹ちゅあ~んオパイよぉ~!」

「にゃっ!?」

「止めんかバカ者!」

「あイダっ!」

 教室に入ってきた芽吹に気付いたクラスメイト達が一斉に挨拶をして来る。それに答える芽吹。

 そこへ、普通の挨拶では飽きたらず熱烈セクハラハグを咬まして来た夕夏と、それにすかさずツッコミを入れる八乙女さんだった。


「アタシには毎朝の芽吹ちゃんオイルが必要なんですぅ!」

「人を化粧水みたいに言うな!」

「変態エロ紳士である俺は決して芽吹ちゃんを汚すような真似はしない。ただ静かに、あくまで紳士に、……ただ見詰めるだけだ」

「おい出島、鼻血出てるぞ」

「あと鼻息荒いくない?」

 有馬と夕夏から冷静な指摘が飛ぶ。

「クソ虫こっちを見ろ」

 八乙女さんの言葉に出島が顔を向けた瞬間、


「目潰し!」


「ギャアアア!」

 目潰しを喰らって出島が床でのたうち回ったところで、チャイムが鳴り、同時に担任の美城先生が入ってきた。

 一斉にぞろぞろガタガタと席に着く生徒達。


「みんなおはよう!……?あ~……ところで?」

 美城先生は気付いてしまった。


「そこでのたうち回ってるのは誰?」

 みんながソレに注目する。


「出島です」

 生徒の一人が教えてあげた。すると、


「あぁ……。よし。じゃあホームルームを始めよっか!」

 何を納得して「あぁ」なのか。結局スルーという手段をとったようだ。



「みんなよく聞いてね。突然なんだけど、今日このクラスに転校生が来る事が決まりました!」

 当然教室内にはどよめきが湧いた。


「因みに、とってもキュートな女子です」

 すると野太い声が際立った。


「もういいよ。入ってきて!」

 先生がドアの向こうにいる転校生を呼ぶ。


 ……………。

 あれ?また僅かに教室内がざわめく。訝しげに先生がドアを開けて廊下に顔を出したとこで突然、

 ピンポンパンポ~ン

 放送が流れ、スピーカーから聞こえてきたのは……


《皆さん初めまして。私の名は道半ばアンジェリカです》


 ……………。


《ウソです》


(今の、何!?)

 もはやざわめきを飛び越えて沈黙と静寂に包まれてしまった。あと『!?』マークの雨霰。






続く…

 時期はずれ。かなり中途半端な謎の転校生登場です。

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