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芽吹と春夏秋冬  作者: 霜月ぷよ
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シーズン3 春♯1 突然何の話ですかこれは!?

 冬の晴天の朝。日の光はまだ弱く、空気は乾燥してキーンと冷たい。放射冷却現象の朝靄の中を、通勤通学の人達が駅へ向かって歩いてゆく。他にもジョギングをしている人。犬の散歩をしている人。自転車の人は寒そうに肩をすくめて朝靄を斬って走る。



 午前7時。

 少女は鏡の前で制服姿の自分を見て身だしなみを確認していた。一年生ながら、高校生にしてはちょっと幼さがある容姿に、艶やかな白銀の髪を肩程まで下げている。毛先がちょっと跳ねているのも彼女の特徴の一つ。

 鏡の中の自分に向かって軽く笑顔を作ってみる。それを見て自分に若干ハニカミつつ、何かに安心したように微笑んで部屋を出ていった。



「行って来まーっす!」

 玄関で優しく手を振りながら見送る母さんの声を背中で聞きつつ、


「おはよう秋人。お待たせ!」


「お、おう」

 玄関の外で待っていた秋人は少しだけぎこちなく返事をした。

 玄関のドアが閉まる直前までその様子を覗いていた母菜花は微笑ましそうに二人を見送った。


 冬休み。クリスマスでの告白から、年明けの初デートを経て、芽吹と秋人の絆は少し形を変えて更に深まったのだった。


 高校入学直前。芽吹はある猫を助けようと道路に飛び出して事故にあってしまった。だが奇跡的に命に別状はなく外傷もほとんど無く済んだのだった。しかし、それ以上に不思議な大きな問題が発生した。芽吹の身体が突然美少女に女体化してしまったのだ。

 もともと外見が中性的な可愛いさを持っていた芽吹。性別が変わってしまったとはいえ、家族はそれを大歓迎していた。(本人は泣きたいほどに不本意だったのだが)そして親友の柊秋人も、複雑な想いが芽生えつつも、親友の為に、今まで以上に側で芽吹を守ることを誓うのだった。

 "元は男だった"という事情と、成長期に突然女体化したことで今後起こり得る様々なトラブルへの不安。実質女子としてこれから学校生活を送らなければならないという憂鬱さ。そんな不安定過ぎる状態のまま始まってしまった芽吹の女子高生ライフ。

 しかし、そのチート(規格外)な可愛いさと性格の良い天然ぶりのおかげか、直ぐに学園のエンジェルに祭り上げられたのだった。

 秋人とはクラスが違ったが、同じクラスからとても愉快なパーティーが誕生した。

 見た目はギャルっぽいけど実はかなりお金持ちのお嬢様。鳴海夕夏。

 黒髪ロングの大人っぽさと、スケバンのようなキレのあるクールビューティー。八乙女秋奈(実は百合っぺ)

 クラスのムードメーカー&エアブレイカー。美少女大好き変態エロ紳士。出島太矢。(実は喧嘩が強い)

 クールな優等生。いつも暴走しがちな出島のブレーキ役。有馬京弥。

 この愉快な4人のクラスメイトと秋人のおかげで、予想外な程に世話しなく楽しい日々を過ごしたのだった。





 長い休み明けの学校って久し振りで新鮮な感じはするけど、やっぱりなんか変なようなそわそわするような、なんとなく落ち着かないなぁ。

 クラスが違う秋人とは廊下で別れて、芽吹は久し振りの自分のクラスの教室の前まで来ていた。

 一度深呼吸してからドアに手を掛ける。……つもりだったのだが、


「芽吹ちゃんダァー。久し振りィー。トーぅ!」


「にゃっ!?ピギャッ!」

 突然タックルハグをされて、そのまま受け身も取れずに廊下に倒されてしまった。

 今の声と、この無茶苦茶なフレンドリーさは"彼女"しかいない。

 あまりの衝撃に、僕はまだ目を開けていなかったが、確実に誰の仕業か答えは出ていた。



「キサマは新学期早々に朝から春風さんになんて事してるんだ!全く」


「あはっ!ごめんごめん。芽吹ちゃんの姿があまりにも可愛いくて久し振りでもうムラムラしちゃって」

 朝から早速夕夏を叱る八乙女さんに、それをたいして気にした風も無く、今も興奮気味にまくし立てて僕に抱き付いて来る夕夏。


「む、ムラっ……!あ、朝から変な単語を出すなバカ者!」


「なぁ~に照れてんのよ?可愛いなぁ秋奈っちは」


「う、うるさい!」

 照れなのか怒りなのか、顔を真っ赤にして夕夏に襲いかかろうとする八乙女さんだった。


「クスッ。いつもの二人だ」

 今のやり取りと光景が少し懐かしくてホッとした芽吹だった。



 三学期は約2ヶ月半と、一年間で一番短い学期で一番世話しない時期である。

 1月中はまだ特にイベント事も無く落ち着いている。問題は2月、3月にある。

 まず2月と言えば、2月14日のバレンタインデー。そして、1、2年生には進級試験が待ち構えている。3年生は進学組も就職組も卒業式までほぼ自由登校となっている。その3月の卒業式が終われば、のこり一週間の授業で三学期は終了となる。



 三学期の始業式も帰りのホームルームも、特に話題になるようなことも無く、この日の学校は午前中に終了した。




「あ、もしもし秋人?芽吹だけど」


「なぁハル、着信に芽吹って出てるから。いちいち名乗らなくていいぞ」


 少し呆れたような口調で答えた秋人。

 午前中で学校が終わって帰宅。昼ご飯を食べ終わった後、僕は満腹のお腹を軽くさすりながらベッドに体重を預けた。何となく手にした携帯を何とはなしに開いてメモリー画面を見詰めた。最初に『あ行』の〈秋人〉と〈有馬君〉の名前が表示される。

 なんとなく電話を掛けてみると、3コールぐらいで秋人が出た。


「午後暇なんだけど、これから秋人の家遊びに行っても良い?」

「…………!?」


「……ん?もしもし秋人さん?」

 この時、電話の向こうでは、秋人のメンタルが衝撃に軽い痙攣を起こしていた。だが、芽吹がそれに気付けるはずも無く。秋人にとっては悟れてもマズいのだが。



 ―――――――――



 その日の春風家の夕食時。

 僕は餃子を口に運んだ直後のポーズのまま、硬直せざるを得ない状況に陥っていた。

 原因はなんの前触れも脈絡もなく突然降って湧いたような母さんのこんな発言からだった。


「そう言えば芽吹ちゃんは、今年の春で17歳よね?」


「え、あぁ、まぁ。そうだけど」

 突然の母さんからの質問にとりあえずと返事をしてみる。

(突然、何がそう言えばなのか?)


「女の子は16歳でもう結婚が出来る権利があるのよねぇ」


(と、突然何の話でしょうかこれは?)


「プロポーズはどっちからするのかしら?」

 母さんは何かにワクワクしているような、どこか子供っぽい笑顔を、一直線に僕に向けてきていた。

(ホントに何の話ですかこれは!?)


 もう一度言っておきます。僕の今の体勢は口の中に餃子を放り込んだ直後のまま。


「そそ、そんな、芽吹ちゃんがお嫁に!?な、なな、菜花さん、そ、それはちょっとまだ、はや、早すぎじゃぁ……」

 視界の隅で父さんがなんかバグり始めてる?


「芽吹、この際だからお前の大好きお兄ちゃんとして言っておく」


 あ、また身勝手なシスコン発言だ。

 兄貴は眉間に皺を寄せて難しそうに目を瞑って一拍置いた。


「俺の美妹びもうとコレクションが無に帰してしまう。秋人とは諦めてお兄ちゃんとけっ……ゴボッ!」


 この際だから僕も言っておきたい。シスコン発言もそろそろ大概にしてもらいたいですねお兄さん。

 毎度のことながら、兄筑紫の変態シスコン発言を阻止するため、母菜花が瞬時に筑紫の口に大量の餃子を突っ込み、芽吹がそれを箸でのど奥に押し込むというコンボかました。

 数時間後。


「筑紫ぃ~、そんな所で寝てないで、歯磨きしてちゃんとお部屋で寝なさ~い!」


 夜11時を回ってもダイニングの床の上で失神していた筑紫だった。




続く…

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