第22話 き、キスは……まだダメ!」
ここまででシーズン2が終了となります。書きたいことを書いたのでいつもより1ページだけ多いです。
「俺はずっと前からお前のことが好きだった!」
秋人は真っすぐに僕を見てはっきりと言った。
(えっ、ずっと前からってまさか僕が男の子の時から!?)
一瞬そう思ってしまった。でもすぐに、
「病室で今の姿のお前を初めて見た時から。今思えばあの時から俺はもうハルを以前のハルとして見れてなかった。可愛い女子の幼馴染みが出来たって、内心喜んでたんだと思う」
秋人は罪悪感からか少し目を逸らした。声も小さくなった。
「……」
沈黙が流れる。
「秋人が謝ることなんて何も無いよ!」
「え……?」
僕も伝える。秋人にちゃんと気持ち伝えなきゃいけない。あの日、僕も好きって言ったけど、それだけじゃない。不安とか、迷いとか、確かめたいこととかいっぱいあるから。僕も……。
「僕も……、秋人はこんな僕なんかでいいの?僕男の子だったんだよ?中学まで、高校生になる直前まで、秋人と同じ男の子だったんだよ?」
「あぁ、分かってる」
「今日までいろいろ、お、女の子の格好とかしちゃったけど、元に戻れるなら戻りたいって気持ちもあるし、いつかなんかの切っ掛けで元の男の子に戻るかもだよ?元に戻ったら、僕の気持ちも変わっちゃうかもなんだよ?」
「それならそれで、前みたく幼馴染みの親友でいればいい」
芽吹の中にあった不安が徐々に溶け始めた。
「秋人を好きになった気持ちの記憶を持ったままで、前みたいに戻れる?」
「そうなったらその時にまた悩んで二人で答えを出せばいい。俺がハルを好きな気持ちはきっと変わらない」
芽吹の瞳に涙が溢れ、頬を伝う。
「それじゃゲイとかホモだよ?秋人が変態さんになっちゃうじゃん」
「……そのワードは無しで頼む」
秋人はちょっと嫌そうなに笑顔を引きつらせた。
「まぁ~、なんて言うか……、そんな心配はそうなってから考えればいい。今は今のこの気持ちを優先して、なるようになるまで今を楽しめばいい。……だから泣くな」
俯いて涙を拭う芽吹の頭にそっと手を添える秋人。
「……うん」
芽吹は小さく頷いた。
小さく根を張った、小さな小さな恋の苗が芽吹き、これからゆっくりと成長してゆく。
そんな二人の様子を、民家の塀の上から静かに見詰める一匹の白い猫。
「ようやくワシの恩返しも一段落ついたかの~。事故とはいえ、ワシを庇ってくれたあの者とワシの魂が共鳴して、まさかあの者の姿、性別を変異させてしまうとは、ワシも迂闊じゃったぁ~」
芽吹と秋人の様子が大分落ち着き、二人はゆっくりと歩き出した。徐々に遠ざかる二人の様子を見詰めながら、白い猫はどこかへと消えていった。
「春風芽吹。柊秋人。あの二人の人間の不思議な魂の繋がりと、ワシの思い通りには行かぬ二人の関係。まだまだ退屈はせんなぁ~!」
芽吹に恩返しついで次はどんな運命のイタズラを仕掛けようかと思考を巡らせる謎の白いだった。
この日。僕と秋人はクリスマスの日以上にお互いの気持ちを知り、納得することが出来た。
その後僕と秋人は、今度こそ、恥ずかしながら世間で言うところの"カップル"になったという訳で、一応デートという形でお出掛けすることが正式に決まった訳ですよ。
(あ~もう~、自分で説明するなんて、これなんて羞恥プレイですかまったくっ!?)
デートらしい事と、最初は二人でどこかぎこちなくだが行き先、コースみたいなのを考えたが、お互いにとりあえず決まったのは書店かゲーセンだった。まずはゲーセンに行って、以前の友達付き合いと変わらない空気を思いだそうとしたんだけど、何組かのカップルがプリクラなる代物でワッキャワッキャッ!してるのを見て、僕は内心ちょっと羨ましさを感じてしまった。でもあれは流石に恥ずかしいから、秋人に悟られまいと、僕からやりたいゲームをリクエストした。……というよりムチャな挑戦だった。
「よし!秋人、僕と格ゲーで勝負じゃ!」
すると秋人は少し驚きつつも真顔で、
「え、お前格ゲー全っ然駄目だろ?」
秋人さんのおっしゃる通りよく分からないまま2ゲーム惨敗。ならば次はと、
「シゲオカートならまあまあ自信あるぞ!スタートダッシュとドリフトに加えて、アイテム運はスゴイんだぞ!」
「……妙に自信あるな。まあ、とりあえずやってみるか」
結果は……
「ずぅ~ん……。どうして?」
「あ~……ドンマイ」
その後も、ゾンビのガンシューティングでは、ビビりまくって乱射したあげく、弾の装填も出来ないままゾンビに喰われたり。クレーンゲームでデカいチョッパー君のぬいぐるみに挑戦したけど駄目で、後から来た他の人がアッサリゲットしちゃってたり。結局一番うまくやれたのは、なんとなく古びたモグラ叩きとワニ叩きだけだった。
「つまんない。僕もう帰ろうかなぁ~」
たかがゲーセンとは言え、秋人の前で見事な惨敗劇を披露してしまった僕は、秋人のフォローを無視してふて腐れた。
「まぁそうイジケるなよ。そろそろ昼だし、飯代奢るからさ。な?」
(秋人めぇ、いかにも優しい彼氏みたいなセリフを言いおってぇ)
恨めしく秋人を睨む芽吹の表情は、ほんのり赤く染まり、大きく開いた上目の瞳は微かに潤んでいた。
「おっ、俺はハルの彼氏だからな!それらしいことぐらいさせろ」
最後の方はちょっと尻すぼみだった。
自分が秋人の彼女っていうのはまだ実感がないというか、いろいろ違和感がというか、そもそも元男子の僕が"彼女"って、いまさらだけどどういうことなんだろうか?
さっきやっとお互いの気持ちを確認しあって納得したはずなのに、またそんな考えが芽吹の思考を支配しようとする。
ゲーセンを出て、お昼は何がいいか話しながら、なんとなく適当に入ったのはラーメン屋さんだった。券売機で食券を買い、二人で普通にラーメンを食べた。美味しく食べ終わってから僕は思うことを一つ秋人に聞いてみた。
「秋人、これって一応デートなんだよね?」
「あぁ。一応っていうかそのつもりだぞ」
「デートのご飯に普通のラーメンてどうなのかなぁと?もうちょっとオシャレな感じのイメージなんだけど。カフェとか?」
すると秋人は少し思案して、
「カフェとかファミレスって逆に普通過ぎるんだよ。どうせなら、……じゃあ、ネットカフェにでも行くか?アニメ、動画コミック見放題だし」
秋人はこうやって、たまに型にハマりたがらない時がある。でも正直アニメオタクの僕としては断れないほどに行きたい場所だった。今午後2時を回る頃。今から行けば3時間くらいはタップリいられる。
(ヨッシャー!深夜放送で見れなかったアニメとか見たかったのいっぱい見ちゃうぞ!オー!)
歩いて10分程。駅前の貸しビル、そこの4Fにネットカフェがあった。カウンターで簡単な手続きをして、ソフトドリンクをもって部屋に入った。だが、そこである問題に気付いてしまった。気付かなければそれで良かったはずなのに。
選んだ部屋は僕と秋人二人で入れるフラットタイプの部屋なんだけど、問題だと思ったのは、秋人との密着度を予想していなかったからなのだ。
「秋人秋人?」
「言いたい事は分かってるけど一応聞こうか」
「カップルのラブラブ感てこんな感じなんですか?」 緊張のせいでどうしても声が震える。
画面の動画は、僕が見たくて再生したラブコメアニメ。今流れているシーンがなんとタイムリーなことか、ネットカフェの狭い個室で、お互いにキスをするかしないかのドキドキシーンだったりしちゃったりしているのだ。
あまりにタイムリー過ぎるシチュエーションに、僕はもう身体が熱すぎいし、変な汗も噴き出てくるし、恥ずかし過ぎて秋人の方も向けないし、画面も目のやり場に困るしでもうどうしていいか訳が分からないよ!
お互いの肩はぴったり触れて、息遣いも分かる。お互いに呼吸が荒いのが分かる。二人だけの沈黙の中に流れる心臓のドキドキが耳に痛いくらいだった。
「……芽吹?」
そんな沈黙を破るように秋人がそっと芽吹に呼び掛ける。
「……ん?」
あまりの緊張で消えそうになっていた意識が戻る。秋人の呼び方に違和感を感じたから。
横を向いたら秋人の顔がすぐ目の前にあった。鼻がくっつきそう。
「……!?」
「してみるか?……キス」
秋人が何を言ってきたのかその言葉を認識するのに時間が掛かった。
何秒掛かったのか、やっと言葉を理解する。
――してみるか?キス――……キス?――
「芽吹、キスしてみないか?」
「にゃっ!き、キキ、キス……ですか!?」
秋人の顔はさっきと同じ距離にある。少し動けばお互いの口が触れるくらいに。秋人の視線が僕というより、僕の口に集中しているのが分かって更に恥ずかしくなった。恥ずかしいけどちょっとだけしてみたくなってきて、僕の視線も自然と秋人の唇に行く。
微かに赤く火照った二人の顔が、鼻が、唇が近付いてゆく。そして……。
「やっぱりダメっ!ただっダメ!き、キスは……まだダメ」
急に何かが怖くなって僕は咄嗟に秋人を手で押していた。
「……ご、ごめん」
秋人も冷静になったのか僕から少し離れた。
「ご、ごめん……」
僕もなんか謝っちゃった。
その後は気まずくてなんだかよく分からないまま、5時を少し過ぎたあたりで店を出ることにした。
街の喧騒に包まれたらなんだか気まずさは大分薄れた気がして、気付いたら僕と秋人はさっき見ていた動画の話でいつもの感じに戻っていた。
「そろそろ帰るか?」
「うん。そうだね」
日の沈んだ夜の街を見上げながら秋人が言った。僕はそんな秋人の横顔を見ていた。視線に気付いた秋人と目が合う。
一つ、やっておきたい事を思い付いた。
「秋人、一つだけお願いなんだけど」
「ん?」
この道を少し進んだ先にゲーセンが見えていた。そこを見ながら言った。
「一回だけさ、……」
やっぱりちょっと恥ずかしくて次の言葉がなかなか言えない。でも、
「一緒にプリクラしてみたい……かなぁ~?なんちゃって」 やっぱり言うんじゃなかった。彼氏と一緒にプリクラとかメチャクチャ女の子し過ぎだよ!
「それ有りだな。なんかカップルっぽい」
意外だけど秋人がなんか嬉しそうだからいいかな。
この後プリクラで、秋人に不意に後ろから抱きしめられて、僕が茹で上がった瞬間の写真が数枚出来てしまったのは誰にも内緒。
(キス……、ちょっとならしても……はわわわ~やっぱり無理ぃ~!)
続く…
なんか……リア充爆発しろ!的な展開を色濃くしようとしましたけど、この程度で許して下さい。恋愛描写はやっぱり苦手みたいですね。




