第21話 うえ~い、マイシスター!
芽吹ちゃん、秋人との恋の決着はまだ着いていなかった!?
冬休みももうあと一週間と少し。
芽吹は短い冬休みに対してどう考えても多すぎると思える宿題に、グチグチ言いながらもなんとか問題を解いていた。
「あぁもう疲れたぁ~。今何時だっけ?」
部屋の壁掛けの時計は10時を過ぎたばかりだった。
今朝、自分でも何故?と思うほどのやる気で7時に起きた。パンとハムエッグで軽く朝食を済ませ、更にテンションを上げるべく、大好きなチョッパー君のキャラスエット(モコモコの冬使用)に着替えて宿題を始めた。それが8時前。二時間頑張ってなんとか得意科目の国語と歴史まで終わらせることが出来た。あとは……、
「うえ~。あと数学と化学かぁ~。やりたくないなぁ~。うえ~……」
僕はこの二時間でやる気と気力を使い果たしてしまった。……ということにしておこう!
朝から二時間頑張ったんだ。休み時間ぐらいいいでしょ。
椅子からヨッコラショっと気だるく立ち上がり、残りわずかの気力を振り絞ってベッドへと向かう。その光景はまるで、マラソンランナーがゴールテープを切る瞬間のようなスローモーション。(実際にスローで移動中)ゆっくりとベッドに倒れ込む。体が30度まで傾く。
「うえ~……」
視界一杯をチェック柄のシーツが覆う。その時だった。
「うぇ~い!マイシスター、お兄ちゃんが宿題手取り足取りその他諸々教えるよ~ん!」
何故か突然現れた兄ちゃんが僕より先にベッドに飛び込んでいた。
「え、何してるの?」
「いや~、可愛い妹のぬくもりを感じたくてな、こうして、クンカクンカ……」
バキャンッ!
あからさまな変態行為に僕は大事に飾っていたウソップハンマー(重さ約3キロ・プラスチック製)で兄をフルスイングホームランしてしまった。
(やっちゃった。僕の大事なウソップハンマーが……。高かったのに)
一日のノルマ分の宿題は出来たということで、午後からは母さんに誘われてショッピングモールにお出掛け。主に春物の洋服の買い物らしい。
「まだ冬休みだよ。春物の服なんてまだ早いんじゃないの?」
どうでもいいんだけどとりあえず文句を言ってみる。すると母さんはチッチと指を振って嬉しそうに言った。
「ダウンやコートはあくまで防寒用の上着よ。下にお気に入りの春物を着るのがギャップが出ていいのよ!」
「は、はぁ……」
一応言い訳しておきたいんだけど、僕はファッションには疎いのだ。だからこんな反応しか出来ない訳です。
母さんは良さそうなお店を探して店内をキョロキョロ。服の買い物というものにトラウマがある僕は隙を見計らって書店にでも逃げる気でいた。しかし、
「芽吹ちゃんを可愛くコーディネートするのはこの私なんだから逃がさないわよ」
「いや、僕は別に……」
「そういえば……」
菜花の歩みが止まる。
「芽吹ちゃんアナタ、いつの間に秋人君とオメデタしてたのかしら?」
直後、僕は一瞬心臓が止まった気がした。でもちょっと待って。
「なんでそれを!?って言おうと思ったけどその前に。"オメデタ"は誤解を招きますよ!もういろいろすっ飛ばしてませんかお母様!?」
「あら、以外なツッコミ。ウブ子ちゃんだと思っていたのに、"オメデタ"のプロセスを理解してるような応えね」
「母親がなんてカマの掛け方してんの!?僕と秋人はまだそこまでの関係じゃないからね!」
この時僕はボケツを掘ってしまった事に気付かなかった。
「"まだ"?ってことは今後が楽しみだわぁ~!」
「あっ……、にゃぁぁ~~!!」
芽吹、ショッピングモールの中心で羞恥に叫ぶ。
残り少ない冬休みのある日。
今日は久し振りに秋人と出掛ける約束をしている。そんで今その準備中なのだが。
「あの~、母さん?」
「なぁに?」
鏡越しに母さんと目が合う。
「自分の服くらい自分で選びたいんですけど……?」
「何言ってるの。秋人君とデートなんでしょ?母さんがバッチリのコーデにしてあげるから」
「でっ、デートじゃないから!そそ、そんなんじゃないし!いつもみたくただ一緒に遊びに行くだけだから!」
「クリスマスの雰囲気に飲まれて告白を即快諾しちゃったカワい子ちゃんはどこの誰かしらぁ?」
「ぐっ……」
(やっぱり言うんじゃなかった)
この前の買い物の際に、母菜花の巧妙かつ単純な策にアッサリとハマった芽吹は、ほぼ脅迫的な状況でクリスマスのあのことを自白させられていた。
あの超絶的に美味しいコーンポタージュのジェラートを食べてさえいなければ……。
僕は心の中で、母さんの顔をしたカカシに石をぶつけていた。
と、殺気を纏った笑顔が鏡越しに飛んで来たからもう止めておこう。
「……という訳で、なんだかんだと遅くなってしまった訳であります」
待ち合わせ時間に遅れたからとりあえず謝った。すると秋人は腕を組んで何か考えていた。
「つまり、ハルが自白しなくても、菜花さんは殆どお見通しだったって訳か」
「うん。そういうことかな」
「いやいや、ハル待て。お前がスイーツ食べなくても、自白しなくても、菜花さんにはバレバレだったんだろ?つまりそれってさ、お前の恥ずかしそうな姿が見たかっただけとか?」
「……」
「……」
芽吹と秋人は二人揃って数秒間固まった。
「ま、菜花さんだけで済んで良かったと思っといたほうがいいな」
「秋人さん、僕はかなりしんどいんですが?」
秋人ってばもう、他人事だと思って。僕はジト目で秋人を睨んだ。
この後、まさかこのタイミングであんな展開になるなんて。
「ヨーッシ!俺達カップルになっちゃったんなら、仕方なく今日はデートということにしよう!」
「なっちゃったって、僕のこと好きだって先に言ったの秋人じゃん!」
「お前だって即答した割にイマイチ納得してない感じじゃないか!」
途端、僕は言葉に詰まった。確かに、イマイチ気持ちの整理がまだ出来ていないことは自覚してるんだけど。
「だって……」
それだけ言ってまた詰まる。
よく分からないままというか、なし崩し的?というか。僕の秋人への気持ちが女の子の、異性に対してのそれなのか、今もまだ自信がない。そもそも僕にとって異性ってどっちなの?八乙女さんや姉崎先輩の大人っぽさにドキッとしたのが男の子としての感情だとして、逆に男子の誰かにドキッとしたことはあったかな?多分無い。秋人以外には。
「ハルごめん!俺っ……」
突然秋人が頭を下げた。
「えっ!?」
「俺、お前の気持ち何も考えてなかったかもしれねぇ。クリスマスの前、お前が悩んで一週間俺を避けてた理由もちゃんと分かってるつもりだった!」
秋人はゆっくりと頭を上げた。
「クリスマスの日やっとお前の顔が見れて安心して、そしたらなんか、この気持ち、どうしてもすぐお前に伝えなきゃって思って。ハルが俺の告白に応えてくれてから今日まで俺、嬉しくて……」
秋人はそこで一旦言葉を切った。不安と恥ずかしさと、それに耐えようする感情が秋人の体を振るわせていた。
「ハル、恥ずかしいかもしんねぇけど、我慢して聞いてくれ!」
秋人のこんな必死な表情、今まで見たことあったかな?
僕はそんな秋人の必死さに圧されて何も動けなかった。
秋人は一生懸命に、必死に、真剣に、気持ちを伝えてくれた。もう恥ずかしいとかそんなの振り切っていた。ただ……、
「……うん」
とだけ。
続く…
秋人再び真剣勝負!!
両性類芽吹ちゃん、まだまだ揺れる恋の天秤。秋人との恋はいつ成立するのか!?




