表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
芽吹と春夏秋冬  作者: 霜月ぷよ
54/104

第20話 何の御利益だよ?

 元旦でございます。芽吹ちゃん初詣でございます。つまりおめでたいアレなコスチュームでございます。ハイ。

「うわぁ、雪だぁ!白い!真っ白だ!」

「うおっほっ!新年早々カワイイ芽吹のパンツも真っ白だ!」

「なんかめでたいね!……って、何してんのこのバカァァァ!?」


 庭に積もった新雪にアホな人型が刻まれた元旦の春風家。



「く、くるしぃ~……。あとみんなで写真とか撮らないでよ……」


「よしっと。これで完璧ね。男の子しかいなかったはずの我が家でまさか振袖をお披露目できる日が来るなんてねぇ」

「芽吹ちゃんは男の子のままでも十分イケてたと思うけどなぁ」


「いや、父さん、それなんて羞恥プレイ?父親として問題発言だよ!?」

 新年早々僕は羞恥の屈辱に耐えていた。いったいどこから出してきたのか日本の情緒溢れる艶やかな振袖。成人式なんかで女の人がよく着るあれだ。


「ハイハイ。みんな準備いいわね。初詣に行くわよ!」


 初詣。日付が変わる深夜の初詣は我が家では認められていない。だから毎年元旦の朝8時に家族揃って近くの神社に行くのが恒例なのだ。

 縁日の夏祭りにも来た明月みょうげつ神社。縁日の時は石畳の参道沿いにずらりと出店屋台が並んでいたけど、初詣はその参道から更に階段を登った先の境内が目的地なのだ。

 馴れない着物と下駄?でなんとか階段を登る。横から兄ちゃんが心配して手を"貸し"てくれた。

「一つ"貸し"だな。あとで写真のポーズのリクエストがあるから頼んだゼ!」


「え"っ……!?」

(しまったぁ~!)

 僕は観念して階段を登るのに素直に助けてもらうことにした。仕方なく。

 着付けの時のとは別次元でドッと憂鬱になる芽吹だった。

 馴れない格好でなんとか階段を登りきり、境内に辿り着くと、大勢の初詣参拝者で賑わっていた。見渡すと、私服の人が多く、ウチみたいに家族でとか、振袖、袴姿の人はあまりいなかった。強いて言えば七五三みたいな幼い子はチラホラと。

 境内入り口の鳥居の下で、まさかのアウェイにみるみる顔が赤くなる芽吹。

 突如境内に現れた艶やかな振袖姿の白銀の美少女に、周囲の参拝者の視線が釘付けになる。


「おいおい、どこの国のお嬢様だ!?」


「なんかすんっごい御利益ありそうじゃん!」


「はぁ~、有りがたやぁ~。長生きはするもんじゃのぉ~」

 周囲からいろんな驚きの声が聞こえてくる。僕恥はずかしくて堪らなくなったけど、ふと、聞こえてくる声の中に、よく知った声が混じっていることに気付いた。


「よしっ!白銀の姫。初芽吹ちゃん。見ただけで最強最上の御利益だ!」


「何の御利益だよ?」


「ネ!アタシの言った通り。ここに来れば芽吹ちゃんに会えるんだから」


「春風さん……、なんて神々しい……」

 順に出島、有馬、夕夏、八乙女である。


 久し振りに見るいつものメンバーの顔ぶれに嬉しくて走り出した。でもその直後、


「その格好でいきなり走ったら転ぶぞ!」


 一瞬父さんか兄ちゃんかとも思ったけど、違う。その声も久し振りの声だった。足を止めて振り返ると、同時に"そいつ"はまた言った。


「転んだらせっかくの"振袖が"可哀相だ」


「……秋人」

 秋人もまたクリスマスの日以来久し振りだった。

 なんだか動けない。久し振りですごく嬉しくて、今すぐ秋人に駆け寄りたいのに、何故だか秋人を見詰めることしか出来なかった。クリスマスのあの日以来で、なんて声をかければいいのか分かんない。彼氏彼女ってどんな感じなのか分かんないし、今まで通り友達感覚でって思っても、秋人を意識すると、その感覚も思い出せない。今までどう秋人に接してたのか……。


「ハル、あんまし見詰めんな。俺、美少女に見詰められ慣れてないんだ。ほら行くぞ。あいつらが待ってる」

 秋人は少し照れた様子で頬を掻きながらこっちに歩いて来る。そのまま視界の端に反れて僕の手を握って来た。握られた瞬間、突然手から全身に電気みたいなのが駆け巡った。


「あ……秋人に手を握られた……」

「は?なんだ今さら?」


「ってか、誰が美少女だ!」

「それも今さらだな」

 秋人はニカッとハニカミ笑いをしてきた。つぎの瞬間、

ポフンッ!

 芽吹は瞬間沸騰で顔が真っ赤に染まり、目が点になっていた。


「あっ、ハル……じゃなくて、芽吹を貰っていきま~っす!」

 秋人は惚けた芽吹を連れて去り際に、芽吹の両親、風吹と菜花、筑紫に爽やか笑顔でそう言った。

 その言葉の意味に、父風吹と兄筑紫は全く気付かなかったが、母菜花は鋭かった。目を輝かせて興奮気味に体をクネクネさせていたのだった。



 みんなと合流してまたいつものメンバーが揃ってしまった。僕と秋人。夕夏、八乙女さん、有馬君に出島君。

 合流して早速、僕は夕夏と出島君に写メられまくった。物凄く女って感じで、振袖ってだけでも恥ずかしいのに、夕夏と出島君ってばなんかいろんなポーズを要求してくるから。


「うえ~、もう写真撮るの止めてぇ~!」


「おい!お前らいい加減にしとけ。芽吹ちゃんそろそろ泣くぞ」

 恥ずかしさで本当に泣きかけたところで有馬君が止めに入ってくれた。

(助かったよ。ありがとう有馬君)


「そういえばさぁ……」

 やっと二人から解放されて少し落ち着いたところで夕夏が何かを聞いてきた。 僕と秋人を交互に見てニヤニヤしだした。

 ……夕夏がこういう顔の時はまず僕にとってろくな事がない。

 芽吹と秋人の表情が引きつる。


「二人とも、クリスマス以降なんかあった?」

「へ?」

「は?」


 トボケてみたけど、夕夏の片眉が意地悪く上がった。少し間があってから、


「二人ともどこまでいったの?」


「ほぇ?」

「ちょっ、お前な……!」


 夕夏の目つきがイヤらしい……。それに秋人が動揺してるってことは……つまり?

 僕は夕夏の言っている意味をすぐには理解出来なかった。でも滅多に動揺を見せない秋人が動揺しているうえに、このあとの出島君の言葉で僕はやっと理解してしまうのだ。


「芽吹ちゃんと"全芽吹ちゃんファンの敵"のキサマは"いったい"いつどこで一体になったんだぁー!?」

 と、出島は何故か泣き叫びながらある方向を指差した。みんなその方向に視線を向けると……。


ヘコヘコヘコヘコヘコ……


「……」


「~~!!!!!!」

 猫が高速交尾の真っ最中だった。


 芽吹と秋人は真っ赤に瞬間沸騰で直立不動。夕夏はわざとらしく「ありゃりゃ~」とか言っているし。有馬は薄笑いを浮かべるだけだった。そして八乙女は出島をシバくために、どうやって取ってきたのか神社の鈴を振り回し、出島は猿のよう境内を逃げ回っていた。


 結果、初詣に来て何をしたのかほとんど覚えていないし、……あ、秋人とのそ、そういう関係?……ど、どういう関係!?と、とにかくよからぬえっちぃイメージばかりが浮かんで、秋人を見れなかったし、まともに会話もしていない気がする。

 やっぱり僕、秋人の彼女には向いてないんだ。クリスマスのあの日も、正直はっきりと自分の気持ち伝えれてないし。

 秋人との関係と、未だ曖昧な自分の気持ちに悩みつつ、いつの間にか眠りについた芽吹だった。




 鳴海邸。

 1月1日。この日の夜、鳴海夕夏と居候メイド八乙女秋奈はこんな会話で元旦を締めくくっていた。


「芽吹ちゃんと秋人君、遂にって感じだったね。二人して真っ赤になって。しかも手は繋ぎっぱなしだったしね」


「柊秋人……。あいつのことだ。春風さんを傷つけるようなことはしないと思うが……」


「あれれ?百合っぺの秋奈っちが芽吹ちゃんから手を引くの?」


「ゆっ、百合っぺ言うなバカ者!……春風さんが幸せであることが最優先だからな」


「はぁ~あ。早くアタシも京弥君に抱かれたいなぁ~」

「なっ、不埒だ!貴様はもっと慎みを持て!」


「はぁ~あ。秋奈っちと出島君がくっつくのも早く見たいなぁ~」


「孫を待つお婆さんみたいなことを言うな!それに私が何故あんなクソ虫と!」


「きゃははっ!秋奈っちの初ツンデレ出たー!」


「キサマという奴はもぉ~、許さん!」



 夜遅くに騒いだことで、このあと2人は(特に八乙女は)メイド長にこっぴどく叱られたのだった。





続く…

 そろそろ近々、「芽吹と春夏秋冬シーズン2」の終了が迫っているわけで。

 新作制作の為、もしかしたらシーズン3はかなり先の話になるかも?ならないかも?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ