表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
芽吹と春夏秋冬  作者: 霜月ぷよ
53/104

第19話 秋人なら……いい。……好き

今回の話でやっと芽吹、秋人の告白編が終了します。


 僕今何で走ってるんだっけ?顔熱いよ。心臓バクバクだよ。秋人の顔が近いよぉ~!




 息を切らせながもがむしゃらに足を動かしたが、もう走れない。疲労と混乱の思考の状態でも、近くにベンチを見つけると、芽吹は倒れるようにベンチに体を投げ出した。目をぎゅっと瞑り、両手を胸に添えてなんとか息を整えようした。そして、それはどのくらいの時間やっていたのだろうか。ようやく冷静になって周囲を見渡した。誰もいない夜の公園。ちょっと遠く、冬の空に街のネオンが反射している。

 何やってんだろ僕……?

 少し落ち着いてくるとさっきの記憶が脳裏に複写される。優しい秋人の顔が至近距離に。


「~~~~……!!」

 ひにゃあああ!?

 秋人のことをちょっと考えただけでまた頭が沸騰しそうになる。こんなんじゃ秋人に面と向かって気持ちを伝えるなんて無理だよ!それにさっき秋人を突き飛ばしちゃったし。絶対変に思われた。僕が秋人のこと嫌がってるとか勘違いされたかも。

 芽吹は、今日秋人に想いを伝えることを急激に諦め始めていた。


「あぁ、でも秋人も僕と同じはずなんだよね。横磯先輩の話がホントなら」



 その頃。

「ったくハルのやつ、どこに行ったんだ?一人にするとマズいんだよな。筑紫さんを宥めるのもやっとだったし」



 ――さっき。――


「秋人貴様ぁ、俺の芽吹に何をしタァー!?」


「え、いや、俺は何も……てか何で怒ってんスか!?」

 筑紫は秋人のダウンの襟首を掴んで激しく問いめてくる。


「芽吹のあの恥じらう真っ赤な顔。なんて萌っ……、何をしタァー!?どこを触っタァー!?胸カァ、尻カァ、俺も触りたっ……、ナァニをしタァー!?」

 僅かに頬を朱に染めて怒っているのかニヤけているのかよく分からない表情で秋人を問い詰める筑紫だった。

(お~い、素が出ちゃってますよお兄さ~ん!)



 そんな記憶を遠い彼方に捨て去って、秋人は芽吹を探して走った。


「あいつやっぱり俺のこと意識して……。はぁ~……。横磯先輩にあんな事暴露しちゃってから、ハルのやつ分かりやすく学校休みやがって」(俺だって……)




 ここ最近気付いたこの気持ちが、秋人を好きだってことは分かった。今の僕は……、女の子の身体で、心も女の子なんだと思う。でなきゃこんな気持ち……。でも……でもそのうち、男に戻れるかも、まだ男に戻りたい気持ちもあるし。

 芽吹は迷っていた。

 いずれ男の子に戻れるのだとしたら戻りたい。しかし、一度秋人への恋心に気付いてしまった以上、その想いを留めて置きたくない。だが……。秋人とのこれまでの関係も崩したくない。芽吹が告白してもしなくても、秋人の方から告白して来たら……?

 今の芽吹には秋人との普通で幸せな日常のイメージが出来なかった。脳裏に意地悪な笑みを浮かべる横磯花の顔が浮かんだ。

『はンっ!幼馴染みだはんでって相思相愛とは限んねぇべ。いい気なって、生意気だ!』

 芽吹は不安のあまり歪んだイメージばかりを広げ始めてしまっていた。夕夏や八乙女。有馬や出島。よく知るみんなの意地悪に歪んだ表情。


「~~う……ヒック……うぅ~~……」

 気付いたら、僕の視界は湧き出る水でジョボジョボになっていた。そしてその溢れる水は、僕の服の袖や、ちょっぴりだけオシャレして履いて来たデニムパンツも濡らしていった。

 もう何を考えてたのか、何を考えればいいのかもよく分からない。ただ、止めどなく目から水が溢れてきてしまう。


「……秋人に……会いたい」

 そう、芽吹は無意識に口にしていた。

 その時だった。

 大切な人への強い想いは、大切な人との強い絆は、2人が思っている以上に遥かに根強く、確かなものだった。


「ハル……だよな?」


 芽吹は5~6人掛けのベンチの端で小さく体育座りをして、たった一人泣いていた。


 今まで何度も聞いて来た声。

 その声に顔を上げると、まだ涙で潤んだ視界の向こう側に彼はいた。他に誰もいないこの場所で、「ハル」とそう呼ぶ人は、僕の周りではたった一人しかいない。


「……秋人」

 少し遠くに見えるネオン街の明かりと近くの街灯の明かりに照らされて、秋人は立ってた。少しだけ肩で息をしているように見える。吐く白い息が早い。

 秋人の口が何か言ってる。でもよく分かんない。どうでもよかった。だって……。



「ごめんなハル。俺さ……」

 そこまで言いかけたけど、突然ハルが俺の胸に飛び込んできたことで言葉は途切れた。

 華奢で軽いハルの身体。でも今の抱きつきはいろんな意味で俺をぐらつかせた気がする。まさかハルに抱きつかれるなんて。あの時病室で初めて女の子な芽吹を見た時以来だった。まったく健全な青少年には毒な展開だよな。



 僕と秋人は少しスペースを空けて気まずくベンチに座っている。

 さっき。想い人にまるで女の子みたいに泣きながら抱き付いて、しかもその想い人のダウンを涙と鼻水で汚すという失態に、芽吹は失意のどん底に落ちた。


「……」

「……」

(うはぁ~……。最悪だよ~。もう告白とかどうでもいいからもう家帰りたいよ~!)

 さっきとは別の意味で涙と鼻水が止まらない芽吹だった。

 鼻水をズルズル啜っていると、視界の端に何かが見えた。横目で覗くとそれはポケットティッシュの束だった。少し離れた位置に座ってるのに、わざわざ腕を精一杯伸ばして渡そうしていた。


「こ、これ、良かったら使え。沢山ある」

(え、まだあるの!?)

 とは思ったけど、取りあえず貰って、思いっきり鼻を掻んだ。そしたら少しホットした。すると秋人が、


「ハンカチじゃ思いっきり掻めないだろ?」

「……」

「……」

 お互いの間にまた気まずい空気が流れる。

 気まずい沈黙のせいで心臓の音がより際立つような気がして、僕は秋人に聞かれたくなくてまた強く膝をぐっと胸に寄せた。

 どれくらいそうしていたのか分からないけど、体は確実に冷えてきていた。秋人と今まで通りの何気ない会話が出来ない自分の情けなさにも苛立ちを覚えはじめていた。でもそんな時だった。

「俺、お前にどうしても言いたいことがあるんだ」

 僕はドキッとして、反射的に背筋が伸びた。秋人の声は若干震えてる気がする。秋人がこれから喋ることに無意識に構えていた。

 僅かな静寂に二人の息を呑む音が重なる。 そして、

「……雪だ」


「……え?」

 予想外の言葉が聞こえて来て秋人の方を見ようとしたら、ちょうど鼻の頭に一粒の雪が付いた。

「雪だ……」

 そう呟いた自分の息が白い。空を見上げると、真っ黒い空からどこからともなくふらふわと降り落ちてくる雪が周りの街灯の明かりに照らされてどこか儚げに輝いて見えた。


「ホワイトクリスマスだな」

 その言葉は秋人は独り言のつもりだったのかもしれないけど、芽吹はそれに答えるように口を開いた。

「綺麗だね」

「あぁ……」

 雪のおかげかなんか穏やかな気持ちになれた僕は秋人に真っ直ぐ向き直って言った。

「実は僕も、秋人に伝えたいことがあって……」

 秋人も僕の方に真っ直ぐ向き直った。

「……」

「……」

 なんて言い出せばいいのか分からなくてまた沈黙してしまう。

「僕ホントは……」

「俺はハルのこと……」

 二人の言葉が重なる。

 もう覚悟を決めて言うしかない。息を吸い込んで僕は叫んだ。


「好きだ!」

「ハイ!」

「……」

「……」

 ポカンと見つめ合う二人。再びの沈黙。


「え!?」

「はれ!?」

 秋人の言葉に芽吹は思わず即答していた。

 僕は自分が何を言ったのかすぐには分からなかった。頭の中で準備してた言葉とは全然違うってことは意識の隅で気付いてたと思うけど。





 なんでこうなったのか、僕の口と思考はどういうつもりであの答えを導き出したのかよく分からないまま、秋人もどことなくすっきりしていない感じで、僕と秋人はみんなと合流したのだった。突然逃走して心配かけちゃったことを散々みんなに謝って回り、夕夏には

「うへへ!アタシに心配を掛けた埋め合わせは芽吹ちゃんの身体で償って貰おうかぁ!」

 とか言われて。

「止めんかキサマ。よだれを垂らすな、変態か!」

「夕夏に性奴隷にされる芽吹ちゃん……ふぐはっ!」

「せーどれい?」

「何よりも清い芽吹ちゃんに変なワードを当てるなぁ!」

「コイツを教会の鐘の中に吊せぇ!」

「生ぬるい!チェストァーー!」

「わーー、兄ちゃんチョークスリーパーは駄目だよ。出島君が死んじゃうってば!」




 この後、出島君殺害未遂容疑で連行された兄ちゃんだったけど、僕と秋人の提案で今の家に出島君を家に逃がそうということに。同時に僕達はそれで解散となったのだった。

 最寄り駅から家に向かう帰り道。気付けば僕と秋人はいつも通りの他愛ない会話が出来る程にほぼ元通りなっていた。約一週間ぶりのこの空気がとても懐かしく思えた。 いろんな話でもりあがっていたけどあっという間に僕の家の前まで来てしまった。するとどちらからともなくまた空気が変わった。

「ハル……、俺はお前のこと好きだからな」

「……」

「俺は……」

「僕も秋人なら……いい。……好き」

 芽吹は秋人の言葉を遮るように言った。

 辺りは暗く、お互いの表情はよく見えないが、秋人には芽吹の恥ずかしさを必死に堪える可愛らしい仕草はなんとなく見えていただろう。

「俺に世界一カワイイ彼女が出来た」

「え?」

 秋人の幸せな呟きは芽吹には聞き取れなかったらしかった。

「何でもない。じゃあ、今日はお休み」

 秋人はどこか逃げるように走っていってしまった。

 「好き」って気持ちは言えた。一週間自分の気持ちから逃げ回ったわりに、言えたら言えたでなんかあっさり過ぎる気もするけど……、まぁいっか。


 この日、芽吹と秋人はお互いの気持ちを実に簡潔に伝え会ったわけだが、秋人はいいとして、芽吹はまだ告白成功の先にある本来の意味に気付いていなかったりするのである。秋人と「彼氏彼女」になったということを。

 果たして今後の芽吹は男の子に戻ること出きるのか?或いは"女になる"のか?





続く…

次回からは再び一話完結サイズで更新していきます。今後も宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ