第18話 え、う、ウブ子ちゃん?
四の五の言わずに黙して読めぃ!
12月にもなると夕方4時を過ぎれば街のネオンが映える程に空は黒く染まってゆく。
クリスマスネオンの街を歩く芽吹。
何で?どうしてこうなった?
秋人からの電話で、約一週間くらいぶりに秋人と会話をして、お出掛けの約束もした。その日がまさかクリスマスだということにはドキッとした。だって……、僕は横磯先輩から秋人の気持ちを聞いてしまったから。
横磯先輩が秋人に言った「告白しちゃえば!」みたいな言葉に、秋人はそのつもりだと答えたらしかった。あの時は一瞬その意味を理解出来なかった。でもすぐに理解しちゃって、そしたらこの気持ちをどうしていいのか分かんなくなって、翌日から学校を休んじゃった。秋人とどう接すればいいのか分かんなくなった。だって恥ずかしいじゃん!秋人は僕のことを……す、す、……きゃあーーー~~!!
ってなっちゃって、結局今日まで5日間学校休んじゃって秋人の顔を見るのも話すのも久し振りになっちゃった。
芽吹は前を歩く秋人の背中を見詰めた。
(もしかして、もしかしなくても、僕今日、秋人に告白されちゃうのかな?)
そう思ったところで芽吹は周りを見た。
秋人の両サイドには出島太矢と有馬京弥が。芽吹の両サイドには鳴海夕夏と八乙女秋奈が。そして最後尾でそこはかとなく周囲に威嚇のオーラを発している芽吹の兄筑紫。
秋人が今日をタイミングに本当に僕に何か言ってくるかは分からないけど、僕としても一応秋人に気持ちを伝える決心をつけて来たわけで。でもこの状況は……。
「クリスマスと言えばやっぱりショッピングだよねぇ。カワイイ洋服とか小物とか。あと美味しい食事も!」
「夕夏、それはキサマの日常だろう」
あきれ気味に反論する八乙女さん。
「このメンバーの中でそのチョイスをゴリ押ししてくんのお前ぐらいだ」
続いて有馬。
「京弥君ひどい!」
ブゥ~っとフグのようにわざと膨れる夕夏。
「……夕夏、流石にぶりっ子キャラはキモいぞ」
「フッ。まるで河豚だな」
八乙女さんが鼻で笑った。
「ちょっと秋奈っち、何よそれぇ!?」
八乙女さんに詰め寄って両腕を振り上げてプンスカプンと抗議する夕夏。
この時僕は忘れてしまっていた。夕夏の属性がサイクロン(竜巻)であるということを。他者を巻き込むのが得意だということを。
今日の本来の予定には最も相応しくなく、そして最もいてほしくない人物。僕は後ろを歩くデカいシスコン怪獣にチラリと視線を向けた。しかしそれが隙だった。
突然夕夏が声を張り上げた。
「もうっ、秋奈っちも京弥君も知らない!腹いせに"今夜のおかず"に芽吹ちゃんを拉致ってやるんだから!ノーパンミニスカサンタのコスプレさせて襲ってやるぅ!」
「はい!?」
「っっっ……!?」
「アホか……」
突然の白羽の矢に間抜けな返事をする芽吹。夕夏の百合的発言に激しく動揺する八乙女さん。呆れの余り横にいた出島に寄りかかる有馬。
「"おかず"って何、僕夕夏に襲われるの!?ミニスカサンタのコスプレなんて嫌だ!」
僕は自分のミニスカサンタコスの格好を想像して顔が熱くなるのが分かった。
「き、キサマ、春風さんにそそ、そんな破廉恥なことを……っ!(わ、私だって可愛いコスプレの芽吹ちゃんが見たいのに……)」
嬉し恥ずかし的にわざとらしく身悶えしてみせる夕夏に、赤面しながら抗議する芽吹と八乙女さんだった。
「俺のカワイイ芽吹にまさかのミニスカサンタコスだと!?俺としたことがそんなレアコスを思い付かなかっただと!?」
密かに悔やみの呟きを漏らす筑紫だった。
空は完全に夜になり、街の雰囲気は落ち着かなくなるほどにクリスマス一色になっていた。あっちこっちに設置されているスピーカーから流れてくるジングルベルのメロディー。サンタの格好をしてケーキやフライドチキンを売る人とそれを買い求める人達で賑わっていた。
「ところでさぁ、夕夏ちゃん……?」
「何かしら芽吹ちゃん?」
僕の問い掛けにニコニコと振り向く夕夏。
「これどういうシチュエーションだ?」
芽吹に続いて秋人が夕夏に問うた。
「どういうってぇ、ん~……成り行き?」
「「どんな成り行きだ!!」」
僕と秋人は揃ってツッコんだ。
今僕と秋人は、夕夏の策略で(いつものパターン)サンタクロースとトナカイのコスプレをさせられている。因みに、サンタが秋人で、僕がトナカイ。最初は夕夏が僕に意地でもってミニスカサンタにしようとしてたんだけど、嫌がる僕と、何故か猛烈に反対する兄ちゃんのおかげで、ミニスカはなくなった。絶対領域のミニスカサンタなんていったい誰が喜ぶんだよ?
(多分兄ちゃんか出島君だろうけど。……秋人はどうなんだろ?)
そう思うと自然と秋人の方を見た。すると秋人もこっちを見てきて目が合った。一瞬ドキッとしたけど、それはほんとに一瞬だった。何故なら、
「ぷフっ!秋人ヒゲ、ヒゲが変。サンタ似合ってないよ!」
「うっ、うるせぇよ!お前こそ赤っ鼻似合ってねぇぞ」
「あははは!眉毛、眉毛すごっ!秋人の目見えないんだけど。あははは!」
これが2人の一週間ぶりのまとも会話であることを本人達は気付かずに、ひたすらに笑い会った。また、そんな久し振りの2人の良い雰囲気に、一安心の溜め息をもらす夕夏と八乙女さんだった。
さっきのコスプレ羞恥プレイは、出島と夕夏がモフモフトナカイの芽吹に「萌え~!」と奇声を上げてダイビングハグを仕掛けたが、すかさず八乙女と筑紫のフルラリアットによって幕を閉じた。
「ところでさぁ……」
僕の横を歩く夕夏がいきなりそう話掛けてきた。
「ん?」
僕が反応すると、夕夏はこそこそ話の催促をして来たので、とりあえず耳を近づけてみた。すると、
「今夜はクリスマスイブだよ。秋人君との関係、なんか進展とかしないの?」
「……」
すっかり忘れていた。一瞬夕夏達のせいにしたくなったけど、それはちょっと止めておこう。
「し、進展て?」
「芽吹ちゃんてばまたぁ、惚けちゃってぇ~。クリスマスイブって言ったら"乙女の大事な日"じゃん」
「……?」
芽吹は本気で首を傾げた。
「もぉ~、ウブ子ちゃんな芽吹ちゃん可愛いすぎだってばぁ~!」
「え、う、ウブ子ちゃん?」
困惑する芽吹をよそになおも夕夏はクネクネと絡んでくる。
「秋人君と、幼馴染み以上の恋人以上になるんじゃないの?好きなんでしょ、秋人君のこと?」
「ふぇっ……え、あや……!?」
「あや……?」
夕夏のストレートな問い掛けにテンパり出す芽吹。その様子に気付いたのか、秋人が近づいて来た。
「どうしたハル、夕夏お前またハルに変なことしたのか?」
秋人は極自然に、俯く芽吹の顔を覗き込んだ。
「お~いハル、大丈夫かぁ~?」
あぅ~。どうしよう……。今日ホントは秋人に、秋人のこと……。正直な気持ち伝えようと思って来たのに。今みんないるし、別に今日じゃなくてもいいかなぁ?にゃあ~、どうしよぉ~!
ふと、視界に秋人の顔がどアップ。目が合う。
「にゃっ!?」
「夕夏に何変なことされた?」
「ちょっと、アタシが何か変なことしたって前提ですか?」
夕夏の抗議にジト目で返す秋人。そんな2人のやり取りに反応出来る余裕など、この時の芽吹にはなかった。再度心配そうに顔を覗き込んくる秋人。
(はわわわ、か、顔近い……!!)
見る見る首から顔が真っ赤に染まって行く芽吹。
「お、おいハル、お前大丈っ……!」
秋人が芽吹の肩に手を置いてそっと顔を近付けた瞬間、
「っ!?……あばばばにゃああああ!!」
好きな人との顔面至近距離と恥ずかしさのあまり、芽吹は秋人を軽く突き飛ばし走って逃げてしまった。
「ハル……」
突然のことに、秋人はただ芽吹の後ろ姿を目で追うだけだった。
続く…
男なら、黙して次話を待てぃ!
女は適当にガールズトークでも、渋谷で財布が痛くなるほどの買い物でもしてお待ち下さい。
次回…秋人、遂に芽吹に告白!
のつもりです多分。




