春三番 買い物なんて嫌いだぁ!
芽吹の兄、筑紫登場でございます。初っぱなはシスコンキャラ4割ぐらいで。
あとは芽吹ちゃん女子力アップの修行開始ですね。
「ハル、お前の髪、ちょっと触っていいか?」
「え、う、うん。別にいいけど」
こんな何気ないやり取りから。
(うっ、ち、近い…。なんで秋人にこんなドキドキしちゃってんの僕!?)
芽吹はギュッと目を瞑って、妙な思いを掻き消そうとしていた。そんな時、
「ふぅっ!」
「うにゃああああー!!?」 突然秋人が耳に息を吹きかけて来たのである。不意を憑かれて絶叫する芽吹。
イタズラっぽく笑っている秋人に振り向き、
「きっ、秋人のアホー!」
バチィィィン!!
「ふぶぇっ!」
秋人の顔面に芽吹の張り手が炸裂した。
一泊置いて、
「え、あっ、うわぁご、ごめん秋人。うわっまた鼻血が!」
「………」
そんな時、春風家に小さな嵐が吹き込んで来た。ガチャ、バターンと勢い良く玄関ドアが開閉され、
「ただいま母さん芽吹は?」
兄・筑紫が帰って来たのである。
「お帰…」
「芽吹は無事かぁーお兄ちゃんが帰ったぞぉー!」
母さんの挨拶を完全スルーで二階に直行の気配である。
「げっ、兄貴帰って来ちゃった。えっと…じゃ、秋人あとよろしく!」
「はぁ!?なんで隠れるんだよ?」
芽吹はベッドの下に潜り、かと思いきやクローゼットに入ろうとしたり。
「こんな部屋すぐバレるだろ」
その頃階下では、
「いーたたたた!」
「筑紫く~ん、帰宅早々母さんをスルーするとはどういうことかしらぁ?」
「いーたいたいたい。すいませんすいません!」
芽吹はまだ隠れる場所を探していた。
「ん~、どう隠れるべきか…」
「だからハル、筑紫さんの性格を考えるとだなぁ…」
「あぁもぅ、どうしたらいい秋人?」
「人の話聞けよ!」
その時、階段をダッシュで上がってくる音が、と思った時には部屋のドアは既に開けられていた。
「芽吹ィ無事かー!俺のマイシスター!」
「にゃっ!」
「!?…゛マイシスター゛って…」
「え!?」
芽吹は秋人を見た。秋人は芽吹を見た。そして揃って筑紫を見る。
「゛シスター゛?ブラザーじゃないんですか?」
秋人が問う。
「僕が芽吹だって、分かるの?」
一瞬の沈黙。筑紫は片眉を吊り上げた。芽吹も秋人も揃って目を見開いて筑紫を見詰める。
筑紫は当然のように答えた。
「どっからどう視ても芽吹にしか見えないだろ。隠れ妹萌えオタクのお兄ちゃんをナメるな」
僕の今のこの有り様を兄貴はまだ知らないと思っていたのに、予想をしていたリアクションどころか、普通に言われた。
―どっからどう視ても芽吹にしか見えないだろ―
僕は内心密かに安心した気分になった。初対面みたいな態度になるんじゃないかとか、弟がこんなんなって悲しい顔するんじゃないかとか。
でも、全くそんなことはなかった。むしろ…、
「うぉー!銀髪ロリ美少女キター!!!!!」
(ガバッ)
「この二次元ヒロインに触れられるのは俺だけだ!」
(モミッ)
「っ!にゃああああー!!どこ触ってんにゃあああー(≧◇≦#)!」
腕を組んで胸元を隠し、肩で息をしながらガルルルゥ~と筑紫を睨む芽吹。
筑紫はイタズラっぽい顔からガラッと雰囲気を変えて、警戒する芽吹の頭をソッと撫でて来た。目を細めて優しく微笑みを向けて来る。
「…兄貴?」
「あんな事故からよく無事に帰って来たな芽吹」
「…うん」
筑紫の兄貴らしい頼もしい手の感触に、少し泣きそうになる。
「可愛いなぁ。もっかい揉んでも…」
「っ!ウガあああー!!」
意地悪な笑みを浮かべる筑紫に、両拳を振り上げて威嚇ポーズをとる小動物。
(筑紫さん、なんか危ないシスコンになってる。大丈夫かなハル?ハルをこの変態シスコンの魔の手から守らないと)
その日の夜、春風家では芽吹の今後について家族会議が行われていた。
「…要するに、元に戻る戻らないは後にして、芽吹は4月から晴れて゛女子高生゛になる訳で、つまり今後は、プライベートでも女子として、一娘として生活して行くことになる。ここまでは良いな?」
父風吹がまとめる。
今の状況、今後予想される問題を、それなりに理解出来てしまったがゆえに、愕然となる芽吹。
「…まぁいい。話を進めよう。芽吹を世間一般の女の子として、新たに教育する必要があると、父さんと母さんは考えた訳だが、これは家族全員で協力しないといけない問題だ。二人とも、意味が分かるね?」
風吹は筑紫が頷くのを確認し、芽吹に視線を向けた。
「いいか芽吹、これはお前自身の覚悟の意志が何より重要なんだ」
俯く芽吹と沈黙するリビング。
(こんないきなり訳も分かんないで女の子になって、仕方ないからとりあえず女子高生やっとけって、そんなの無理だよ。ラノベの二次元ヒロインじゃあるまいし、そんなすぐ順応出来る訳ないじゃん)
今までの16年間紛れもなく男として生まれ育って来た芽吹。付いてるモノも付いていた。声変わりもたぶんしていたはず。男友達とえっちぃ話も一応それなりにはして盛り上がっていた。それをいきなり女子高生デビューとは。運命の女神様とやらの玩具にされているのではないか…?
芽吹がもたらす沈黙は、母菜花によって霧散された。
「こんな摩訶不思議で素敵なTS現象に会って、覚悟だ意志だなんてつらつら考えない!」
何かに憧れる乙女の表情かと思えば、すぐに毅然とした表情で言い放つ母菜花。
「女子歴ピー年よ。ナメないで!私に任せなさい」
この時芽吹は、お風呂での教育というなの辱めの記憶を思い出してフリーズしてしまっていた。「母さん、今日はもうこれくらいにしとこうぜ。芽吹のやつフリーズしちまってるし」
「キャー!フリーズしちゃった芽吹可愛いわぁ」
「うん。俺も同感」
「はぁ~、芽吹ちゃんには『パパ』って呼んでほしいなぁ~」
各々が新生美少女芽吹に萌えていたのだった。
「そこ、男二人!可愛い芽吹ちゃんに不埒なまねしようものなら、即シメるからね」
「……………」
ゴクリという喉が鳴る音が静かなリビングに消えていった。
浮上していく意識と共に、部屋に差し込む朝日が瞼に染み込んでくる。心地良い春の朝日に、そのまま軽く伸びをしながら寝返りを打つ。 (う~…んっ。あぁ、もう10時になるのか) そう思っていると、
「芽吹ィー、そろそろ起きなさ~い。買い物に出掛けるのよー!」
(買い物?う~ん、もうちょっと寝たい)
そのまま即二度寝に入る芽吹。そして1分~2分経ったところで、ゆっくりと芽吹の部屋のドアが開かれ、母菜花が忍び込んで来たのである。その表情は如何にも怪しく光っているように見える。
「お~い芽吹ィ、芽吹ちゃ~ん?…起きないわね。
てことで…可愛い芽吹ちゃんを、頂きま~す」
「はぅ~、また弄ばれた…(恥)近親そ…」
「近親相姦じゃないわよ。人聞き悪いじゃない!あれは愛情表現よ!」
僅かに動揺をみせる菜花をジト目で見詰める芽吹。
今現在、芽吹と菜花は車でショッピングモールに来ていた。
芽吹は菜花の要求をなんとか振り切り、自分で服を選んで着て来ていた。上はTシャツに、手が半分隠れるブカブカ袖のオレンジベースのパーカー。下は少しブカブカになったジーンズパンツである。
―出発前―
洗面所の鏡の前で、
「うん。いい感じになったわね。あとは着て行く服ね。スカートは私ので合わせられるからいいとして、下着は…」
芽吹が引きつった表情を浮かべてゆっくり後退していた。
「いや、女の子の下着とかありえないから。これでも僕一応゛まだ男゛だから。女子の服着るなんて変態でしょ」
すると母菜花はあっけらかんと言った。
「大丈夫よ。誰がどう見たって美少女なんだから。あとは女子力が足りないだけね」
(いや、あの、ついこの前まで男子中学生だったんですけど。女子力とか言われましてもそんなスキル持ち合わせてませんけど。)
そんな芽吹の心情が分かったのか、菜花は、
「だから、それを今日から芽吹に教えていくんじゃない。女子力80%のこの私が!」
親指をビシッと立て見せる。
「…?残りの20%は?」
一瞬の間考える。
「母親力よ!」
今度は握り拳で。
「…いやいや、それって母親としてはダメってことなんじゃ…」
最後はテヘペロで誤魔化す菜花だった。
ショッピングモール・レストラン街に入った菜花と芽吹。少し歩いて芽吹は異常な違和感に気付いた。キョロキョロと店内を見渡すと、それがなんなのか芽吹にも分かった。視線である。
「母さん、なんか僕達すごい見られてない?」
ショッピングモール・レストラン街に入った菜花と芽吹。少し歩いて芽吹は異常な違和感に気付いた。キョロキョロと店内を見渡すと、それがなんなのか芽吹にも分かった。視線である。
「母さん、なんか僕達すごい見られてない?」
ショッピングモール・レストラン街に入った菜花と芽吹。少し歩いて芽吹は異常な違和感に気付いた。キョロキョロと店内を見渡すと、それがなんなのか芽吹にも分かった。視線である。
「母さん、なんか僕達すごい見られてない?」
原因は芽吹以外にはありえなかった。銀髪、童顔、小柄な体格に合わない可愛いブカブカスタイル。まさに規格外の美少女なのである。しかし芽吹本人はそのことを全く自覚出来ていないのだ。
芽吹がオムライスとチョコパフェが食べたいということで、そっちのレストランに入ったのだが、そこでもやはり、である。
案内のウェイトレスさんがギョッと目を見開いて案内のセリフを噛んだり、入り口からテーブルまで、テーブルについてからも、店内はザワめき、視線は芽吹に釘付けである。まるでトップアイドルが素顔丸出しで来たようなザワ付きである。ところどころで彼氏さんが彼女さんに叩かれる軽快な音が聞こえていたとかいないとか。
洋服店街を歩く菜花と芽吹。
「ぅ~、もう嫌だよ。視線が嫌だよ~」
芽吹はあまりの視線の数の多さに、びびりまくって母菜花にしがみついてしまった。その仕草がまずかった。芽吹に釘付けだった客およそ30人が、男女問わず鼻から流血。
「ちょっと芽吹、しがみつかないで。歩きにく……ブフッ!」
例に漏れず菜花も流血。しかし芽吹は、その原因が自分である事実には全く気付いていなかった。
今、芽吹は視界一杯に広がるピンクホワイトの光景に固まっていた。今芽吹と菜花がいるのは、ランジェリーショップ。当然芽吹用である。
「さあ芽吹ちゃん観念しなさぁい。女の魅力はまず下着からよ~」
フリーズ状態の芽吹をズルズルと引っ張って行く。
芽吹がハッと気付くと、そこは試着室だった。
「へっ…え、はれ、ヤバい!?」
珍しく状況把握が早かった芽吹だったが、試着室のカーテンを開けたのは芽吹ではなく母菜花だった。
「とりあえずコレとコレで様子見てみましょ?」
菜花が持って来たのは、上下セットの大人っぽいレースタイプと、同じくセットの綿タイプである。しかもどっちも結構セクシー系という。
(うっ…マジですか!?)
「母さん、僕この前まで息子でしたよね?その僕に嬉しそうに下着を試着させようとか、どんな変態ですか?教育上あまり良くないのでは?」
すると菜花は、作ったような笑顔で小首を傾げて、
「昔の男のことなんてもう忘れたわ。さぁ、試着してみましょう!」
………………
先までのTシャツ、柄パンというかなりアンバランスな姿から、今の芽吹の可愛らしい外見に合った素晴らしく天使のような下着姿。
(はにゃ~ん…。か、可愛い…)
芽吹はぼぅ~と鏡を見詰めた。ぽわぁ~っと赤ら顔でこちらを見詰めてくる少女。
「ハッ、ご、ごめんなさい!」
芽吹は手で顔を覆って鏡に背を向けたのである。それを見ていた菜花は、
「自分の下着姿に恥じらう芽吹ちゃんってばもぅ可愛い~い~」
鼻血を出してクネクネ悶える菜花だった。
ランジェリーショップのフロアを出た次は、今度は洋服選びである。
「うぇ~、服はもう母さんが適当に買ってくれていいからさぁ、僕もうどっかで休みたいよ」
「だーめ!今の芽吹ちゃんに合った春夏コーデをちゃんと着てもらうんだから」
「えー」
「一応言っておくけど、芽吹あなた一人店内単独行動して無事でいられるかしら?」
「…?」
「大勢の視線だけじゃ住まないわよ~?ナンパされたらどうする?」
「嫌やややや、無理無理むりむりむり。すいません。一緒にいます」
そんな芽吹に、満足そうに頷く菜花。
菜花が服をいろいろ見て回っている後ろを、トボトボついて歩く芽吹。
(学校始まればほとんど制服じゃん。女の子の服とか別にいらないと思うんだけどなぁ。別に今ある服だって…そうだよ!ボーイッシュ系とかなら全然アりでしょ!)
「お客様?」
「うにょあ!?」
突然後ろから声を掛けられてビクつく芽吹。
「お客様、もしよろしければ私達スタッフのリクエスト、といいますか、お客様にピッタリの服をいろいろ試着していただけないでしょうか?」
控えめな口調とは裏腹に、物凄くキラキラした表情を向けてくる店員さんに、気圧される芽吹。
「あら、いいわねそれ。スタッフセレクトね。じゃあ私も便乗するわ!」
「へっ、何、母さん目が変だよ!?…ってちょっ、僕客だよね?羽交い締め?何これ、嫌だぁー(泣き)」
試着室に押し込まれた芽吹は、一時間に渡り大人達の着せ替え人形にさせられるのだった。
「買い物なんて嫌いだぁ!」
ふりふりのスカートやワンピース、ジーンズ生地のミニスカート等。
「女の子ってよくスカートなんてはけるよなぁ。股すーすーしないのかなぁ?」 と、素朴な疑問を持ったり、
下は短パン、ニーソ、上はボーダーTシャツにロングパーカー、リボンのカチューシャ。
「ふあ~…、リアルニーソ…。これが『絶対領域』はじめて生で見たなぁ。可愛い。カチューシャはなしだけど…」
着こなしによっては今のこの姿も悪くないと、少し、ほんの少しだけ認める芽吹ちゃんであった。
続く…
一応ですが、女性下着は、ブラジャーはブラ。下はパンツではなくショーツと言うそうです。
芽吹ちゃんはスポーツブラか、ブラなしキャミソールなら我慢出来るそうです。ショーツは可愛く綿タイプ。