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芽吹と春夏秋冬  作者: 霜月ぷよ
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第15話 私も連れションしよっか?

 続きを待ち望んでくれていた人がいると勝手に信じて、「長らくお待たせ致しました」と一応クソ真面目な一文を置いといて。

 本文へどぉぞ!

 12月二週目。芽吹達が通う夕陽ヶ丘高校は期末試験の時期を迎えていた。

 午前中のみで三日間かけて行われる期末試験。それが終われば約二週間程でクリスマスを挟んで冬休みに入る。

 気分良くクリスマスを過ごすため、短い大事な冬休みの為、この期末試験で追試を食らわない為、皆必死に解答欄を埋めていく。



「じぃ~……」


「ふむふむふむ……」


「ほうほうほう……」


「え~……っと?つまり~……」


「先生すいません!」 テスト用紙を挟んでペンが机をせわしなく叩く独特な静寂の中、一人の美少女が手を上げながら叫んだ。

「はい。どうしました春風さん?」

「……」

 先生がその美少女の方に振り向く。しかしその美少女は何も応えない。ただ、チワワのようなその大きな瞳はウルウルと水を湛えて先生を見つめている。いったいどうしたことかと、先生はその場で一瞬固まる。


「ふっ……うぅ~……数学全然解んないよーー!追試嫌だよぉーー!秋人助けてぇーー!」

 期末試験一日目。二時限目。午前10時頃。

 少女の可愛らしい美声ながら、恥も外聞もへったくれもない悲痛な叫びが校内にこだました。

(うわっ、何だ、ハルの声かこれ!?試験中に何叫んでんだアイツは!?)



 期末試験が終了した4日目の昼休み。芽吹は盛大に机に突っ伏して唸っていた。今日の午前中で既に4教科のテストが帰って来た。

 先生が一人一人名前を呼んでテストを返していく。返された直後に自分の点数を見て絶叫する者。コソコソと席に着いてから恐る恐る確かめる者。はたまた何か賭でもしていたのかそんな盛り上がりを見せる者まで。皆良くも悪くもいろんなリアクションだった。

 芽吹が机に突っ伏している理由。それはやはりテストの結果が悪かった……という訳では、どうやらないようだ。

「芽吹ちゃん大丈夫?ダメだったところ、私で良かったら教えるよ!」

「……」

「芽吹ちゃんの為なら私も何か協力するよ?」

「アンタは人に教えられる程の点数とってないでしょうが!」

「ちょっとヒドい。応援したいっていう気持ちの問題じゃん!それに今んところ赤点まだないし」

「……」

「あ……」

 今の芽吹の心情を一応分かっているつもりで慰めようとしているクラスメイト達。

 実際テストの結果は、今のところ赤点は免れてはいるが、あまり良いとはいえなかった。しかし、今の芽吹はそれとは全く別の悩みを抱えていた。



 昨日のこと。

 期末試験3日目をなんとか一応やりきり、とりあえず学校は午前で終わり。クタクタになって帰宅した芽吹。

「はぁ~。さて、テストの結果の心配はこの際考えてもしょうがないし、まだお昼だし、何をして3日分のこのストレスを解消してやりましょう?」

 そんな風に午後の予定を思案してみるものの、頭の中は秋人と横磯先輩のことでいっぱいだった。秋人がなんか遠くなったような、秋人との今までの日常がもう来ないような、寂しい感覚。秋人に彼女が出来るということに嫉妬している自分。それを自覚してしまうと罪悪感というか、自己嫌悪のような、そんなマイナスな感情が渦巻く。心に重い良くない塊が溜まってくる。すると無意識に漏れる溜め息も重いものになる。

「はぁ~~……」

 そうしてあっという間に夕飯の時間になり、今はもう夕飯を食べ終えてベッドの上、壁にもたれて本を読んでいた。しかしそれもどこか楽しくない。やっぱり秋人のことを考えてしまう。

 膝の上に本を置きながらまた溜め息を吐いた。そんな時だった。

 コンコン

「芽吹ちょっといいか?」

「いいよ」

 入ってきたのは兄筑紫だ。

「何?」

 芽吹が問う。

「芽吹お前さ……」

 いつも何かしら変態丸出しな言動で芽吹をげんなりさせるとは違って、何やら真面目な表情で部屋に入ってきた筑紫。

 ベッドに座っている芽吹をジッと見下ろす筑紫。筑紫を見上げる芽吹。

(何この間は?兄ちゃん何を言いに来たのかな?)

 意味不明な間に訝しげに筑紫を見上げる芽吹。そしてやっと発したセリフは、

「男ってぇのはな、本気で好きになったやつ(女)には本音を言わないもんなんだよ」

「……」

「……」

「はぁ……」

「そういうもんだ」

「……え、何が?」

 全くもっていきなり過ぎて意味不明だった。なんの脈絡もなく、いやそれ以前の問題だね。ホントに何の話?

 たぶん今僕の頭の上では?マークが絶賛大量生産中だと思う。



 芽吹は兄筑紫の指摘、問い掛けに驚愕してしまっていた。

「芽吹、お前はもう心のどっかで気付いてるはずだ。お前は秋人が好きなはずだ。今お前が抱いてる不安。それは恋心だ。」

「……」

「秋人もまたお前を好いてる。見てれば分かる。俺を誰だと思っている?愛の伝道師だぞ!」

「……」

「ようやく気付いたか。ショックか?秋人と別れるか?お兄ちゃんとケツコンするか?」

「……とりあえずお風呂入る」

 動揺して視界も頭もグラグラしていたのが、余計な一言で急にクリアになった。

 お風呂へ向かう途中、なんか後ろから兄ちゃんの奇声が聞こえてた気がしたけど気にしない。

(シスコンも大概にしないと捕まるよ。まったく。まぁ、僕も妹感覚になっちゃってる自分に複雑な思いがあるけど……)


 入浴中は入浴中で今度は母さんが何か言いたいらしい。


「もうそろそろクリスマスねぇ。芽吹ちゃんの今年のクリスマスの予定はもう決まってるのかしら?秋人君達とお出掛けとかするの?」

 母さんは洗濯機を操作しながら聞いてきた。

 毎年この時期交わされる何気ない会話なんだけど、今年は芽吹の心境がいろいろ違った。

「今回は秋人はどうなんだろう……?」(やっぱりあの人と付き合うんだから、折角のクリスマスだし、秋人はデートとかするんだろうなぁ。横磯先輩可愛い人だったし)

 ポツリと呟いた芽吹のそんな言葉を聞いてか聞かずか、母菜花は、

「何があっても秋人君は芽吹ちゃん第一よ。きっと」

 芽吹は秋人との思い出を振り返っていた。

(幼馴染みでいつも一緒で。格好良くて頼りになって。僕がこんな身体になってからも変わらずにいつも側にいてくれた。今ならもしかしたら……今だったら……秋人に、この気持ち……)

 浴室の曇りガラスの向こう側。洗濯機の操作を終えたのか、脱衣場を出て行く母菜花。ドアを開け出て行く直前、立ち止まって母菜花は一言こう言った。

「いつまでも側にいてほしい人(彼)がいるなら、伝えるべき言葉はたった一言でいいのよ」



 場面は昼休みに戻り。

 みんなに的外れな励ましを受けつつ、一応感謝の気持ちを笑顔で返した芽吹。

(なんとなくちょっと居辛いなぁ。とりあえず教室から出よっと)

「ぼ、僕ちょっとトイレに……」

「大丈夫芽吹ちゃん?」

「私も連れションしよっか?」

「ぶふっ……!?だ、大丈夫だから。一人で行けるから」

 心配そうに見送る夕夏達に困り顔で手を振りながら教室を出ようとドアを開けた芽吹。

「きゃっ!」

「にゃっ!」

 直後、すぐ目の前に人がいて、その人が短い悲鳴を上げた。芽吹もビックリして変な悲鳴を上げてしまった。

 目の前にいたのはなんと横磯花だった。





続く…

 横磯花さん突如出現!悲鳴は可愛いく「きゃっ!」なんです。ここは訛りませんからね。

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