第10話 アイランどぅぉぉぉ!
サブタイトルを見て
「何が!?」と思った方、……読めば分かります。その先にはきっと……続きがある。
夕陽ヶ丘高校文化祭2日目午後。
正門から玄関前広場。玄関前広場から玄関。そして玄関に入って廊下へ。昨日1日目の賑わいとは真逆に静まり返った校内。玄関前廊下を右へ進み、購買部と職員室を横切ると、左に体育館への長い廊下に出る。そこまで来ると、校内の静けさとは裏腹に賑やかな音楽が聞こえて来ていた。
「一組目の皆さん、どうもお疲れちゃんでした!初っ端から熱い演奏をアリガトー。温まったかいアリーナの皆ァァ。こっから更にテンション上げてイコーじゃないのォ!」
一組目のバンド演奏が終わり、放送部きってのDJがアゲアゲな司会を務める後夜祭が始まっていた。
毎年生徒会と文化祭実行委員会で企画される文化祭2日目の後夜祭。今年も例年通り数組のバンド演奏から始まる。その次は、生徒だけではなく、教師陣にも参加してもらい、自分の得意なパフォーマンスをしてもらうという、教師の意外な張っちゃけた姿が見られるオモシロ企画があるのである。
例年カラオケのど自慢が主流だが、生徒や、若い教師の中にはダンスを披露する者も出てくる。そしてヒートアップした教師VS生徒のダンスバトルに勃発して更に盛り上がる場合も。
次にファッションショーである。これも毎年行うイベントである。ハロウィンならではの衣装や、模擬店の店服などを披露する。しかし一番のメインはやはり彼らだろう。
「……すっげぇ」
「マジかアレ……」
「見ろハル。アレ。園田と織牧だぜ!」
「え、あれ園田さん、織牧さんも別人だよ!?」
コスプレショーが始まって数分。観客側の生徒達は勿論、教師陣も楽しげに唸った。
毎年あるコスプレショー。開始直後はまず前日の模擬店の店服から披露され、次にハロウィンコスプレで場が盛り上がる。そしてトリは、秋葉原、原宿を活動拠点にしているコスプレイヤーの生徒達だ。文化祭のこの日のみ学校公認で解禁出来る学生コスプレイヤーの晴れ舞台なのである。
秋人と芽吹が驚いてみているのは、あるアニメとゲームのキャラに扮した園田と織牧である。
「ウソ、それもしかして『キ○グダムハ○ツ』のソラ!?」
「おっ、芽吹ちゃんが食いつくとは思わなかったけど、正解。どう?」
普段掛けているメガネはコンタクトに。ツインテールはツンツン頭に。つま先が大きく特徴的な靴と、これまた大きな鍵型の武器、キーブレードを肩に背負った園田の姿に、芽吹だけでなく、そのキャラを知る生徒達は皆歓声をあげていた。
「園田さんの男装コススッゴいよ。メッチャカッコイイ!」
興奮する芽吹。
園田に続く織牧の方はというと、こちらもゲームからだ。『バイ○ハザード』からジル・バレンタイン。これには男性陣が興奮に湧いた。何故ならこのキャラコスは体のラインが出る結構タイトなスーツ姿だからだ。
「織牧さん、大胆。……って秋人、何その顔?」
芽吹はジト目で隣にいる秋人を見た。
「……う、あんまこっち見んな。生理現象だ。ってかハルだって顔赤けぇじゃん」
「う……。気にしないで。ただの生理現象だから」
「俺のマネすんな」
バンド演奏と、コスプレファッションショーで会場は盛りに盛り上がって来ていた。そして今日最後のイベントは、
「サァ、今年度夕陽ヶ丘高校文化祭のトリは、他人の色恋沙汰を主食に生きている姉崎生徒会長の我が儘企画。ベストカップ……ルショーでぇ~ス」
テンション高めに喋っていた司会DJ。しかし、後ろに瞬間移動してきた微笑みの姉崎生徒会長が現れて、尻すぼみのアナウンスになってしまっていた。
「須永君、後で……ね?」
「……あ、はい」
「遂に始まっちゃったぜベストカップルショー。エントリーされたカップルはこのステージ上で自分達の何がベストなのかをアピールしてもらう、普通に考えたら羞恥の公開処刑か、自意識過剰なバカップルのリア充自慢。非リア充にとっちゃヘドが出る地獄のイベっ……ぐはっ!」
「コラッ。ハイテンションにネガティブな司会しない。ちゃんと原稿通りにやんなさい!」
補佐役の女子に怒られた。
司会DJの人は時折リア充ぶりを披露するカップル達を面白おかしく貶してはその度に補佐役の女子に頭を叩かれて、それが会場を笑いで盛り上がらせていた。
エントリーされた数組のカップルのバカップル自慢が終わり、あと一組となっていた。
僕の思い付きで急遽生徒会長に提案したこの後のエントリー外のサプライズ企画。
鯉谷さんと、幼馴染みの人。たしか名前は中里先輩?切っ掛けは文化祭の準備期間中だった。最初は全然分かんなかったけど、準備期間中によく話すようなって気付いた。それは僕と秋人が男女の幼馴染みってことと、鯉谷さんもその中里先輩と同じ関係だったってことを聞いたから。 い、いや、僕と秋人は男女っていうか、そういうんじゃ……。とにかく、鯉谷さんは中里先輩とカップルらしいカップルになりたいと思ってるんだと思うんだ。多分それは中里先輩も同じなんだと思う。でも何か壁があって幼馴染み以上になれない。だから、この文化祭で2人の気持ちがちゃんと一緒になれば、きっと……。
この時、芽吹本人には気付かない胸の奥で、ある想いが芽から蕾になろうとしていた。
最後のカップルの披露が終わり、イベントが終わりの空気に変わり始めた時だった。突然姉崎生徒会長が司会DJからマイクを奪った。
「エントリーされた初々しいカップルの皆さんありがとうございました。本来ならここで栄えあるベストカップルの発表をして今回の後夜祭を終えるのですが、えぇ、急遽私の思い付きで、ある¨二組¨のリア充の卵を孵化させたいと思います」
そう言って姉崎は、そのある二組に視線を走らせた。
(姉崎先輩、僕の提案ってことは伏せてくれたんだ。今気付いたけどこれ僕の提案だなんてばれたら超恥ずかしいかったんだな)
姉崎生徒会長が視線を合わせてきた意味を理解したつもりで安心していた芽吹だが、
「芽吹ちゃん、今会長¨二組¨って言ってなかった?」
「ほぇ?」
となりにいた夕夏が訝しんだ。そのことに気付いていなかった芽吹はキョトンとする。
「私達は鯉谷さんについての情報しか調べていないぞ。春風さんも知らないもう一組……。出島は何かきいていないか?」
「いや、残念ながらこれは俺も予想外だ。でもイイお知らせがある」
珍しく真面目な表情で八乙女さん問い掛けに否定の返答。
「えっ、何何?」
「もったいぶるな。早く言え」
夕夏と八乙女さんが食いつく。
「八乙女ちゃんが俺のこと¨貴様¨じゃなくてちゃんと¨出島¨って呼んでくれたぁ!」
出島が万歳と満面の笑みで声高らかに喜んだ。
そんな出島をよそに、芽吹、秋人、夕夏、有馬、その周辺にいた者達は八乙女さんを中心に半径を広げていった。
八乙女さんの俯いて垂れた髪のすき間から真っ赤になった顔が見えた。ワナワナと震える拳をギリギリと握りしめ、そして……、
「世界中の島に謝れこのクソ虫がぁぁぁ!!」
「アイランどぅぉぉぉ!」
芽吹達が考えたらベストカップルショーのサプライズ企画。カップル誕生作戦。しかし、姉崎生徒会長からのまさかの逆サプライズが待っていた。なにより、鯉谷さんと中里氏のカップル成立は成功するのか?
続く…
読み終わって、「だから何が!?」と思った方、作者に深い意味を求めないで下さい。ホントに無意味なサブタイトルなんです。ゴメンナサイ……。
って訳で次回…芽吹と秋人の関係が遂に……!?
それはどうかなぁ~?




