第5話 ケンシロウだぁ!
アキバ編その2でございます。
今回秋人の影がチョイと薄いです。
クラスメイトでアキバオタクの園田加奈の提案と案内の下、秋葉原に来ている芽吹達。近々開催される、芽吹達が通う夕陽ヶ丘高校文化祭の模擬店にメイド喫茶を推薦して来た園田。
そして今、芽吹達は一軒のメイド喫茶に来ている訳である。
「いやぁ~ん、あの子超カワイイ!」
「なんか彼氏っぽいけど隣の子もイケメンだよ」
「…………」
「…………」
自分で企んどいて、実際に有馬京弥に『あ~ん』をしてもらってガチデレで無言になってしまった夕夏。そして、悪ノリで八乙女をからかって、パイ投げよろしくパンケーキを顔面キャッチして床に沈んだ出島。
一応さり気なく夕夏を気遣う有馬。完全に空気を読むことを無視した八乙女さんだった。
しばらく店内がマイナスイオンに満たされいた。その原因は言わずもがな、芽吹である。
大きなスプーンで掬って小さな口をいっぱいに開けてオムライスを頬張る愛らしい芽吹の姿。
芽吹と秋人の『あ~ん』は、芽吹が恥ずかしさの余りフリーズしてしまった為、更に秋人も、なんとトイレに逃げるというチキン野郎の一面を見せてしまった為、結局は幻の『あ~ん』になってしまったのだった。
〈秋人サイド〉
トイレにて。
あれは誰がどう見たって恥ずかし過ぎるだろ!出来るわけねぇだろ!?まぁ……ハルのやつが良ければ一回くらい、少しくらいは『あ~ん』してみたかったけど……。 別に俺はあいつと、そういうことをしたくないわけじゃない。俺だって男だ。今のハル相手に、正直興奮しないわけじゃない。一応一人の女の子として、異性として好きでもある。でもだ。あいつの気持ちを思えば、今までの友達からその先には行けない。もしあいつが完全に女の子の心をもって、もし俺が……か、彼氏に……だぁぁぁ、俺はバカか!?何訳分かんねぇことぐちゃぐちゃ考えてんだ!
〈芽吹サイド〉
秋人と……秋人と『あ~ん』……。こんな人前で無理だよ。夕夏と有馬君は『あ~ん』やってたなぁ。でも秋人とこんなラブラブみたいなこと、冗談とかじゃ出来ないよ。あれ……、人前じゃなきゃ、冗談とかじゃなかったらしてもいいのかな……?…………?そんなえっちぃことダメだダメだダメだぁーー!!元男の僕にそんな……、秋人はそんな変態さんじゃない!
「そのかちゃん、あなた秋葉原にアルマゲドンでも起こす気?あなたが連れてきたあの子とんでもない爆弾美少女よ。三次元に二次元投下しちゃってるわよ!?」
「時空の歪みが見えるわ」
「先輩、自分今プライベートなんですよ。『そのか』は止めて下さいッスよ」
メイドさん数人と何やら話している園田加奈。園田はこのお店でバイトをしているらしい。極秘でらしいが。
おいしそうにショコラケーキを頬張る芽吹の横で、複雑な思いを紛らわすように秋人が園田に聞いた。
「園田、お前学校に内緒でここのバイトしてんだろ。いつから?」
「今年の春から。学校にっていうか、君達にだけ今回教えたってのが正確だね」
「なんでアタシ達に?」
夕夏が聞いた。
「文化祭をより面白い物にするため。あとは…」
園田は一瞬躊躇いながら答えた。
「学校での私と、ここでの私。キャラを区別したかったの。別の自分ってやつ。つまりは中二病ってやつよ」
園田のそんな言葉に、その表現に、一瞬だが、芽吹達は理想とする別の自分を思い描いたのだった。
「いってらっしゃいませ御主人、お嬢様。芽吹ちゃん、またすぐ帰ってきてね。まってるからね!」
メイドさん達に惜しまれつつ見送られ(主に芽吹が)、メイド喫茶を出た芽吹達。
「しっかし流石我らが芽吹ちゃん。あらゆる者を釘付けにする。もう二次元の美少女もタジタジって感じだね」
「そ、そんな……、僕そんなんじゃないよぉ!」
「うぉ、芽吹ちゃんのテレ顔頂きました。激写!」
「何が激写だこのクソ虫が!」
さっきの店で、いろいろ話して、芽吹の趣味が結構アキバより、というかむしろコッチ側の思考を持っていることを知った園田は、芽吹ちゃんが絶対喜ぶであろうある場所にみんなを案内した。
秋葉原で数あるその手の店舗の中で、フィギュアの種類と数でここに勝る所はない。
今芽吹達が見上げているのは『ラジオ館』の文字。店内を覗けばガラスケースの中でポーズを取る様々な数々のフィギュア達。芽吹がこれを見て平常心でいられる訳がなかった。
「うわっは。フィギュア凄い。秋人秋人、凄いよここ。フィギュアいっぱいだよ!」
「あぁ、確かにすげぇ。ここがラジオ館か」
「わはぁ~、エヴァ全機ある。シンジもアスカも綾波レイもいるよ。くあー、ワ○ピースも凄い。きゃー、エースだよエース。どぅわぁー、ケンシロウだぁ。等身大でっかーい!」
「芽吹ちゃ~ん、こっちのやつ芽吹ちゃんの好きな戦国武将とかあるよ!」
夕夏が呼びかけると、
「えっ、どこどこ!?……にょわははぁー、秋人ォ、無双オロチキャラ勢揃いだよ。クニャアー、無双キャラフィギュアむっちゃスッゴイ。ってかもうここがスッゲェ!!」
「芽吹ちゃん、我を忘れて大興奮だね。まさかここまで乱れるとは」
予想以上の芽吹のリアクションに、園田と夕夏は静かに見守った。八乙女さんも意外に興味を示していた。サラシに特攻服と木刀を構えたレディースや、ヤンキーアニメのフィギュアなどだ。
「うぉっ、これ『Toラブ○』じゃん!」
「……エロいな」
出島も流石に萌えまくっていた。有馬はフィギュアの数に軽く参っているようだが。
気が付けばみんなそれぞれが好き勝手に店内に散らばり、芽吹もいつの間にか1人で行動していた。
「すっごぉ~……い。いろんなフィギュアがあるんだ。知らないやつもいっぱいある。これは1日じゃ足りないなきっと」
1人混みの流れに流されつつ、気付けば芽吹はとあるエリアに入っていた。
「あれ、え……うわ、こ、ここは……あばばばば……!?」
(ここって、まさか、えっちぃ所!?)
いつの間にか18禁フィギュアコーナーに入ってしまっていた芽吹。頭が沸騰してしまい、パニックになっていた。と、そこへ、
「あれ……芽吹ちゃん、なんでこんな所にいんの?」
出島がそこにいた。
「えっ、で、出島君!?あ、いや、えっと、その……僕は別に、その……あぅ……」
(はぅわぁ~……。こんな場所にいるの出島君に見られちゃったよぉ~!)
顔を真っ赤にしておどおどしながら、徐々に鳴きそうになる芽吹。すると、
「もしかして迷った?秋人ならさっき2階に行ったぜ。芽吹ちゃんみたいな美少女がこんな所にいたら変態野郎に目付けられちまう。すぐ出よう」
「芽吹ちゃんどこにいるのかなぁ?結構際どいコーナーとかもあるし、変なやつに絡まれなきゃ良いけど」
「確かに。芽吹ちゃんその辺ポヤヤンって感じだもんね」
「春風さんにちょっかい出した野郎はシメる!」
芽吹を心配して店内を探す夕夏と八乙女さんと園田。それとは別行動で有馬と秋人は2階を探していた。
夕夏が携帯を取り出し、芽吹に電話を掛けようとしていた時だった。
18禁のマークが描かれた仕切りの暖簾から、出島が、芽吹の手を握って出てきた。芽吹は顔を真っ赤に染め、瞳を潤ませて出てきたのである。
「俺が見付けてよかったぜ。芽吹ちゃんは八乙女とかと一瞬にいないと危ないぜ」
「出島君……、アンタ何やってんの?」
夕夏達が出島と芽吹に気付いて問い掛けた。
「おぅ。夕夏。俺さ、今芽吹ちゃんを救っ……」
出島は普通にそこまで言い掛けていたのだが、
「このゲロ虫がぁぁぁぁ!!」
「え、ナンデっ!?」
八乙女さんの怒りの鉄拳が出島に炸裂した。
「ちょっと出島君、アンタ芽吹ちゃんを連れてなんて所から出てきてんのよ!?アンタ芽吹ちゃんに何したの!」
「えっ、ちょっ……なっ、俺は何もしてねぇよ!」
「で~じ~ま~……、貴様~、弁解の余地は無いぞ。今ここで地獄に送ってやる」
今にも鳴きそうに赤面して小さくなっている芽吹の様子が証拠ということで、弁解も虚しく八乙女さんに葬られる出島だった。
「出島君て、完全にギャグキャラなんだね。アニメなら名脇役だわ」
冷静にそうキャラ位置を分析する園田だった。
続く…
さらば 出島太矢。彼の優しい人柄は、後世に永久に語られることだろう。『変態エロ紳士』と。
「ふんっ。クソ虫が!」
「僕のせいで……。出島君、ごめん」




