第2話 このクソ虫がぁ!
最近なかなか執筆の暇がなく、前回の投稿から結構経ってしまいました。
小刻みに執筆していたので、内容の流れがあまり良くないと思います。
「ふあ~ぁ……。おはよ~」
「おっ。ぽややんな眠り姫が胸元大胆にお目覚めか」
「ふぇ?」
まだ半開きなつぶらな目で、自分のパジャマの胸元を見下ろすと、なんとボタンが全部ハズレてしまっているではないですか!?
「あにゃあああ!?」
朝の日差しも少し柔らかくなり、なんとなく秋の雰囲気になって来ていた。そんな初秋の休日の午前。
「あら、芽吹ちゃんもしかして……」
「な、なにか?」
僕は自分の顔が引きつったのが分かった。母さんの纏う雰囲気が、嫌ぁ~なものに変わった気がしたから。
「もしかして胸膨らんだんじゃない?」
「えっ?」 この時芽吹は、二つの意味でギョッとした。というか、身を引いた。
「可愛い芽吹ちゃんの若い純なエキスを私に寄越しなさいな」
変態母さんだ。
「いやっ……、くれる?とかじゃなくてほぼ命令ですか!?」
「マイシスターの潤な胸の感触をお兄ちゃんに……っ!」
「「死ね!!」」
いつもながら僕と母さんの鉄拳を喰らう変態兄貴でした。
(もうヤダこの親子!)
芽吹が女の子になってから¨芽吹萌え¨を活力にしている母・菜花。
二次元の妹系萌えオタ変態だったが、芽吹という美少女な妹が出来てからは、三次元妹萌の変態オタに覚醒した兄・筑紫。
「今日は休みだし、天気も良いし、気分も良いし、何より秋だし。ここはゲームより読書をチョイスしよっかな」
今日の芽吹の気分は読書の秋らしい。
午前中はとりあえずWeb小説サイトで面白そうなタイトルで20話前後のやつをリストアップして、片っ端から読んでいった。主なジャンルは異世界ファンタジーとか、異世界小料理屋とか。そんな中に一つだけ、僕にとって複雑なジャンルが見つかった。TS物。いわゆる女体化系のタイトルがあった。
主人公の少年が、ある日突然女の子の身体になっちゃうっていう内容。まさに僕と同じ。気になって一応リストに入れたけど、微妙に怖い気がした。だって……、主人公とその幼馴染みの男の子が……、ふ、2人がね……あわわわわ、い、言えない。口に出して言えないよこんなこと!
「おぅふ。マイシスターがラブえっちというワードに赤面している。そのあたふたと恥じらう姿にお兄ちゃん萌え過ぎて、もうメルトダウン!」
「にゃああああ、いつの間に勝手に人の部屋に入ってきてたの!?」
午後には今度は、前に買ってまだ途中だったコミックを読むことに。
『干物妹う○るちゃん』家の外では、完璧超絶可憐美少女。またある時は、道場破りならぬゲーセン破りな最強ゲーマー『UMR』。しかし、家に帰り、玄関のドアを閉めれば……。
「あ~あ……。どうせ妹になるんだったら、あんな変態シスコン兄貴じゃなくて、こういう¨お兄ちゃん¨だったら良かったなぁ~」
あの日……。
病室で目覚めて、初めて自分の身体を、姿を知った時、スゴい可愛い娘が目の前にいると思った。でも実際はそれが自分だったんだけど。
芽吹は無意識に自分を鏡に写した。
今更自分で言うのもなんだけど、冷静に見たらこの見た目は、以前の僕がこんな美少女を前にしたら、絶対に硬直しただろうな。そう。今鏡に写る彼女が、僕じゃなかったら。
男の子として生まれ育ち、男の子として自覚を持つ。女の子にカッコ良く見られたいとか思う。
女の子として生まれ育ち、女の子として自覚を持つ。スカートだったり可愛い服とかを着る。普通に男の子に恋をする。それが一般的。つまりノーマル。
でも、僕はたまに思うんだ。今の僕はどっちなんだろう?
たまに秋人のことを、いつもとは違う風に思う時がある。幼馴染、親友の好きとは違う。確かに秋人のことは好きだけど、どういう好きなんだろう?
いつもの学校のいつもの昼休みのちょっとした恋バナ。
「ねぇねぇ聞いた?文化祭2日目の後夜祭のイベントのこと?」
「あ、それってもしかしてベスト○○ショーのこと?」
お昼休みの教室で、女子達の会話にそんな話題が上がった。
文化祭の2日目というのは、外部からのお客さんを招く1日目とは違い、校内関係者のみで、生徒会及び、文化祭執行部がイベントを開く。言わば、文化祭の打ち上げのようなイベントである。
生徒会と執行部で毎年違うイベントを考え、文化祭を盛大に盛り上げて締めくくる。
今回はどうやら女子に人気を集めるイベントらしい。
「『ベストカップルショー』?」
「『ベストコスプレファッションショー』って……」
「普通バンド演奏とか」
「キャンプファイアーとかじゃねぇの?」
校内の廊下が徐々に文化祭の雰囲気になり始めてきた頃。職員室前の掲示板に貼られたお知らせポスター。それを眺める芽吹達。
そのポスターの下に、箱が一つと、エントリー用紙と書かれた紙があった。
その翌日から、生徒達の、特に人目も憚らないカップル達の空気がフワフワキラキラして来た。『コスプレファッションショー』なるものはとりあえずとして、『ベストカップルショー』というイベント名は主にリア充女子に火を付けたらしかった。
「「だ~か~ら~……!」」
「僕と秋人は」
「俺とハルは」
「「そういうんじゃないって!!」」
いつもながら幼馴染カップルと言われてイジられてシンクロツッコミをする芽吹と秋人。
「これってさ、第三者からの推薦エントリーも有りなのかな?」
夕夏が言った。
「推薦?」
「ほら、誰かさんみたいに恥ずかしがって、そういうイベントには出たがらないカップルもいるでしょ」
夕夏はそういいながらわざとらしくさり気ない風に芽吹と秋人に視線を送る。
「おい鳴海、誰かさんの部分で俺らを見るな」
秋人が鋭く指摘してから一泊置いて、
「……えっ、まさか夕夏、勝手に僕と秋人の名前書くとか考えてないよね!?」
夕夏の企みに気付いた芽吹が慌てて問いただす。すると、
「いやいやいやいや芽吹ちゃん、そして秋人君。君達自身がどう思っていても、メディア、そして世間様は確実に君達の熱愛報道を待ち望んでいるのだよ!エントリーしてイベントに出場すれば、優勝は確実。絶対素晴らしい商品が貰えるはずなのだ!」
何故に夕夏がそこまで張り切っているのか?その理由は直ぐに判明した。
放課後。玄関で帰ろうとしていた芽吹と秋人に、生徒会長姉崎ルイが声を掛けてきたのである。
「芽吹ちゃん、柊君、ちょっとお願いがあるんだけど」
片目を瞑って顔の前で手を合わせる可愛い仕草をする姉崎ルイ。芽吹と秋人は一瞬何事かと眉を寄せた。
「生徒会長が僕達に頭を下げてくるなんて」
「姉崎先輩やっぱ綺麗だわぁ~……」
「そうだねぇ……って秋人!?」
ジト目で秋人を睨む芽吹。
「……で、生徒会長直々のお願いというのは?」
(あ、誤魔化した。ってか何で今僕……、これって嫉妬?僕にとっても姉崎先輩は憧れだけど、秋人に対して嫉妬!?)
芽吹があちゃこちゃ自問自答している横で、姉崎ルイと秋人は話を進めていた。
「えっ、いやいやいや無理ッスよ。無理無理無理。俺とハルは別にそういう関係とかじゃ……」
「そこをなんとか。君達2人が出るか出ないかでイベントの盛り上がり方は各段に違うはずなのよ。芽吹ちゃんあの通り激カワでしょ」
自分の世界で自問自答している芽吹を見る2人。
(ハルの可愛さは確かに絶対的だ。でもなぁ、あいつを全校の前に出すとは……)
内心了承したくない秋人。
その一瞬の表情を見逃さなかった姉崎ルイ。
「ふむふむ。大事な可愛い彼女を、大っぴらに皆に見せたくない、と。なかなかナイトな彼氏だね秋人君」
大人っぽい中に愛嬌のある仕草で秋人の顔を覗き込む姉崎ルイ。
「えっ、いや、俺は別に、そんなつもりで……」
「クスッ。あれ、もしかして図星だったのかな?」
「へ…………、ええええええ!?」
「わ、わりぃ……」
あの後、芽吹が自問自答の世界から現実に帰ってきた時には既に、秋人は姉崎ルイに、『ベストカップルショー』への強制エントリーをされてしまっていたのだった。因みに、もう一つの『ベストコスプレファッションショー』も自動的に出場決定であることが、後で分かったのだった。
「秋奈っちぃ~、俺とまた偽装カップルやろうぜぃ~?」
「このクソ虫がぁ。誰が貴様と組むかバカ者。あとその呼び方さはやめろ!」
あの日以降、校内で度々出島のボヤキと、八乙女さんとの¨スキンシップ¨が目撃されるようになったとか、ないとか。
「僕文化祭休むぅ~。嫌だぁ~!秋人何とかしてぇ~!」
「…………すまん」
続く…




