番外編
この番外編では、春22番のサイドストーリーを載せました。主に八乙女さんと出島や、夕夏と有馬の偽造カップルの掛け合いシーンです。
鳴海夕夏の策謀によって、八乙女秋奈と芽吹はとあるショッピングモールの内、水着専門店に来ていた。
秋人、出島太矢、有馬京弥も一緒である。夕夏の策略の駒として。
ある悪意極まる設定により、現在、八乙女と出島、夕夏と有馬、そして芽吹と秋人が、それぞれ偽造カップルとして店内を歩き回っていた。
「なぁ八乙女ぇ、あくまで振りなんだしさぁ、それっぺく楽しもうぜ」
「私は水着などに興味はない!」
「ツンデレ可愛いけど、そんなテレんなよ」
「っ……。テレてない。キサマ踏み潰されたいのか!」
羞恥と怒りの入り混じった表情で出島に食ってかかる八乙女。
「股関で女を見るようなキサマと組むなど虫唾が走る。近付くな!」
そんな頑な八乙女に対し、出島は急に静かになった。
八乙女は相変わらず出島の方は見向きもせず、適当に店内を歩き始めた。
「カップルなら割引なるっつんだからさ、なんか好きな水着買えよ」
さっきより口調が静かになっていたが、いい加減しつこい出島を罵倒しようと振り返った。
「キサマはいい加減に……」
「好きなの選べよ。……俺奢るから」
この瞬間、八乙女は動けなくなった。何故だろう。出島はいつものおちゃらけた感じではなく、ちょっと照れくさそうに頭を掻いていた。
(なんだこの普通な真面目な感じは!?)
今まで見たことのない出島の仕草に、八乙女は不覚にもドキッとしてしまっていた。
「き、キサマなどに借りを作る気はない。水着ぐらい自分で買える!」
言ってしまってから八乙女は自分の失敗に愕然とした。確実に水着を買わなくていけなくなってしまった。しかも自腹で。
「一応言っとくけど、水着姿のお前にエロいことはしねぇぞ」
「当たり前だぁ。されてたまるかぁ!」
しかしその後、出島は砂浜で隙あらば八乙女にちょっかいを出すのである。
夕夏と有馬ぺア。
「とりあえず、これとこれとぉ~、あとぉ~、これかな?」
「お前どんだけ試着する気だよ?」
張り切って水着を選ぶ夕夏と、そんな夕夏のテンションに有馬はついて行けてない様子だった。
「じゃあ、アタシ試着して来るから待ってて。彼氏設定利用して覗きとかダメだからね」
「んなことしねぇよ。店員とかいんだろ!」
「誰もいなかったしちゃうの?」
「んなっ……、そういう意味じゃねぇバカ!」
真面目な有馬をからかって喜ぶ夕夏だった。
その頃八乙女は……。
(出来れば露出は避けたいが、競泳用水着は正直胸がきついしな。海に行った場合、おそらく見た目的に浮くだろうな。やはりここは思い切ってビキニか……)
八乙女は自分で買えると言ってしまった手前、本気で買う水着を選んでいた。そこへ、
「八乙女ぇ、俺が選んで来たやつ、これなんてどうだ?」
そう言って出島が持ってきたのは、胸部だけを包む青いジャケット。ヘソ出し。極ミニスカ。警官ハット。ミニスカポリス水着バージョンだった。
「マニアックな物を持ってくるな!」
八乙女は反射的に持っていた何かで出島を殴った。直後、それがハンガーだったため、急いで店員に謝りに行く八乙女だった。
どこか落ち着かない様子で携帯をいじっている有馬。その目の前で、試着室のカーテンが勢い良く開かれた。
「ジャーーン!有馬君どう、似合う?」
「なっ……、恥ずかしいからいちいち俺に見せようすんな!」
「やっぱり彼氏に評価してもらった方が良いじゃん」
特に恥ずかしがりもせず、店内に聞こえる声で言う夕夏。
「お前そのくらいにしとけ。俺は仕方なくお前の設定乗っかっただけだからな。マジの彼氏じゃねぇんだ。海でもねぇのにただのクラスメイトに軽々しく裸見せんな」
すると夕夏は、みるみる顔が赤くなり、涙目になった。これには普段クールな有馬も焦ってしまったようだ。そんな有馬の動揺をよそに、夕夏は何かをボソボソと言い出した。
「アタシは絶対………………させるんだから」
「え?」
ほとんど聞き取れなかった。有馬は聞き返したが、すぐにカーテンは閉められてしまった。
夕夏の挙動に困惑気味の有馬。
そんな所へ、
「私も試着するからそこをどけ!」
突然八乙女が現れて、今夕夏が入っている試着室に乱入。当然驚きの声を上げる夕夏。
「きゃっ。え、秋奈、何急に!?」
「私もここで試着する」
「いやいや他に試着室あるじゃん。なんでここ!?」
「どこでも良いだろう。……ん?そっちもいいなぁ。夕夏、今すぐそれを脱げ」
「えっ、何ちょっと待って、キャッ!」
「ほら早く脱げ!」
「待って。いやっ、ちょっと……キャッ胸揉まないでよ!」
「誰がキサマの胸など……」
「ちょっと待ってってば今脱ぐから。いやっちょっとえっち。ショーツまで脱げる。バカ!」
一つの試着室から漏れ聞こえて来る、なんとも百合的破廉恥な言葉の応酬。
店内にいた男子は漏れなく破廉恥な妄想に陥り、一部女性店員は百合の世界にトリップしていたとかいないとか。
「秋人、顔が変態っぽくなってるよ」
芽吹も顔を真っ赤にしながら聞いていたが、秋人のだらしない表情をジト目で指摘した。すると、ギクリと我に帰って謝る秋人だった。
(ハルも外見上は百合展開……あり得る。ってことは内面上では俺とホモ展開……だぁぁぁぁ何考えてんだ俺は!)
ブルブルと頭を振る秋人だった。
(男に戻れたら八乙女さんと……。うん?もしかしたらこのままでも八乙女さんと……きゃぁぁ!)
各々が邪な妄想を広げるのだった。
番外編として投稿しますが、ちょっと、今後のストーリーへの複線も含まれます。仲良しメンバーの恋愛事情。どうなるかな?




