春21番 海海海うみぃぃぃぃ~!
今回から、夏休みパートです。海海海。そして浴衣と祭り。
今話では芽吹ちゃんの水着デビューが目的地です。あと出島と八乙女さんの掛け合いも少しだけ。
真夏と書いて青春と呼びたくなる真っ青に広がる海と空。ジリジリと焼ける太陽と砂浜。あちこちでキラキラとハジケる水しぶき。
「そして誰もが目を奪われる弾けんばかりのピチピチ水着ギャ……ぎゃああああーー!」
「エロクソ虫が!」
手で双眼鏡っぽい形を作って女子達の水着姿を覗き見る出島太矢。それを真正面からアイズブレイクする八乙女秋奈。
「なんのこれしきぃーー。おぉふ、コレは下乳……ぴぎゃぁぁぁ!」
出島の水死体が発見されるのはこれよりしばらく後のことになる。
待ちに待った夏休み。夏と言えば水着と海水浴である。 今回企画した夕夏の予定より一週間程遅れて、今日、芽吹達は海に来ていた。
まず予定が遅れた原因から説明させほしい。原因は芽吹だった。一つは補習授業のため。もう一つが――
夏休みに入り、早速補習授業初日。
僕が受けなきゃ行けない補習教科は英語と数学だった。 朝9時までに登校して、午前中2時間やってお昼前には帰れる。
そんな初日の帰り。玄関で靴を履き替えていた時。
「あっ、芽吹ちゃんいた。ねぇねぇ芽吹ちゃん!」
部活終わりなのか、ジャージ姿で、僕を見付けて駆け寄って来た夕夏。赤茶色のポニーテールを揺らしながら。最近前髪をパッツンして可愛くしたらしい。
「お疲れ。どうしたの、僕のこと探してた感じだったけど?」
「今日この後さ、一緒に買い物付き合ってくんない?」
「う~ん、いいけど。何買うの?」
すると夕夏は無邪気に笑って(いや、絶対邪気はあったはず)、僕の顔を覗き込んで来て言った。
「ミ・ズ・ギ!」
「……え゛!?」
僕は自分の表情が歪んだのが分かった。
¨水着¨。買い物に付き合わされるくらいならまだ平気だろう。でも、今の夕夏が纏う雰囲気は、僕にも水着を買わせようとしてる雰囲気だよ。僕は女の子の水着なんて絶対着ないぞ。今まで下着なら誰からも見られることないし、別に可愛くとかしなくていいし。秋人はちょっと喜んでたけど……。
一瞬秋人のことを考えていると、
「芽吹ちゃんも今年の新しい水着買うんでしょ。秋人君のために!」
自然と秋人の想像が膨らむ。
(ハッ、にゃぁぁぁ、違う違う違う。僕は男の子に戻るんだ!)
「あっ、ごめん夕夏。今日は他の用事があったんだった。だからごめん先帰るね」
秋人に水着姿を見せて喜んでもらうというイケない妄想を振り切って、僕は慌てて誘いを断った。
次の日。
「芽吹ちゃーーん!今日は……」
「ごめんね。家の手伝いがあるから。じゃっ!」
「えぇ~、またぁ?」
また次の日。
「芽吹ちゃんいたぁ。今日こそ一緒に……」
しゅぴゅーーん!
「にぃげぇたぁなぁ」
無言で逃げ帰って行った芽吹の背中を睨む夕夏だった。
あれから3日。校内で夕夏に会うことはなかった。とはいえ、今日もまた、夏の悪魔の陰謀がどこかで……。
今日で補習授業は終わる。僕は少し早めに登校する事にした。
教室のドアを開けようとしたら、突然勝手に開いて、僕は誰かの足元を見ていた。
「おはよう。ハル!」
「おはよう。……ってあれ、秋人。ナンデ!?」
「芽吹ちゃんオッハー!」
「あれ、デジタイヤ君と有馬君、八乙女さん!?」
「久々のあだ名だぁ~!」
補習授業には絶対いるはずのない成績優秀組が何故か朝から集まっていたのである。
芽吹はひたすら目をまん丸にしていた。
「何でみんないるの。今日なんかあったっけ?」
「俺ら4人共、鳴海にメールで呼ばれて来たんだよ」
有馬が答えた。
「私もまだ訳を聞いていない。これはどういう訳だ夕夏?」
八乙女さんが問いただすと、僕も含めてそこにいた計5人が、教卓でふんぞり返る夕夏に振り向いた。すると夕夏は、気休め程度の胸を張って声高らかに言った。
「よーーっし。芽吹ちゃんの補習が終わったら、みんなでショッピングに行こぉーー!」
「え……えぇぇぇぇ!!」
(計られた~!)
僕は内心で激しく頭を抱えた。何ですかこの敗北感は?
その後の補習授業に、受けなくて良いメンバーがいたことで、担当教諭の驚いた顔と、訝しむ顔が2回づつ見れたことは何気に面白かったり。
今僕達は、最寄り駅を降りて、ショッピングモールに向かって歩いていた。
「ところで鳴海、俺ら別に買いたい物とかないんだけど」
いつもながらクールな有馬が質問する。
「俺早く家帰ってゲームやり込みたいだよなぁ」
出島はだるそうに言う。
「男子は女の子の買い物にはちゃんと付き合いなさい。彼女出来たら発生率100%のイベントよ。ポイント高いんだから!」
そう力説する夕夏。
(へぇ~そうなんだぁ。いつか男に戻ったときのために覚えとかなきゃ) のうてんきに関心しているが、この時芽吹は大事なイベントのことをすっかり忘れていた。
「女子は女子でショッピング楽しんで来いよ。俺ら男子は他で時間潰して来るからさ」
相変わらずだるそう言っている出島だったが、
「ふ~ん。出島君は私達の水着の試着見たくないんだ。芽吹ちゃんと秋奈も試着すんだけど?」
わざとらしく誘惑。
「なっ、夕夏キサマ何を勝手な!」
「えぇぇぇぇ無理無理無理!」
僕と八乙女さんは全力で否定したのに。出島の反応は、
「マジ……?よーーっし。そういうことなら男出島、喜んで女子の買い物に協力しよう!」
そして付け加えて、
「八乙女さんの巨乳が見たい!」
その瞬間出島は、一気に顔を赤くした八乙女さんに背負い投げを喰らわされて、別フロアまで飛んで行ってしまったのだった。
「公共の場で不埒な発言をするなクソ虫め!」
とりあえずみんなでレストランで適当に昼食を済ませて、その後、夕夏の案内で僕達はある店の前まで連れて来られた。
「げ……、ここって水着専門店?」
「そう!」
僕の嫌そうな反応を特に気にする風もない夕夏。
「よし。ではここで、男女一組づつベアを組んで貰います。芽吹ちゃんと秋人君はもう決まりだよね。んで私が有馬君。秋奈っちが出島君と」
みんなでハテナマークを浮かべていると、夕夏は楽しそうに説明を始めた。
「実はここのお店ね、今週一杯。つまり今日まで、カップル様限定で30%オフセールなのだ!」
ドドーンという効果音を付けてみる夕夏。
カップルと聞いて、僕は思わず秋人の方を見た。そしたら秋人も僕を見て一瞬目が合って、とっさによそ見をした。
(あれ……、なんで秋人と目が合ったぐらいで照れてんの僕?)
「つまり、俺らで偽造カップル作って、安く水着を買うと」
「有馬君ズバリ正解!」
「でも喜んでんのお前だけじゃね?」
有馬の発言に即反応したのは二人。
「私は水着など着ない買わない。あんな恥ずかしい格好が出来るか!」
八乙女さんと、
「俺は女子の水着見たーーい。芽吹ちゃんのぷりちぃと、八乙女さんのダイナマイトぼっ……!」
真横からの脇腹肘鉄を食らって床をのたうち回る出島。
水着を買いたい夕夏だけでを置いて帰るわけにもいかず、仕方なくカップル設定で店内に入った僕達は、入り口で早速驚いた。店内が広い。試着室が多い。女の子の水着市場なんてわからないけど、たぶん桁違いに種類が多い。
圧倒されている僕達をよそに、夕夏は早速店内を物色し始めていた。
いらっしゃいませ~!と、明るい女性店員さんの声が店内に響く。
夕夏はカップルを装うため、しかめっ面の有馬にそれらしく絡んで水着を見て回る。
八乙女さんと出島も、設定上カップルということで、それらしく……
「八乙女ちゃんこれ可愛くない?」
「寄るな」
「八乙女ちゃん白と黒とピンクどれ良い?」
「話掛けるな」
「八乙女ちゃんバストどのぐらい?」
「~~滅!」
業を煮やした八乙女さんの顔面グーパンが炸裂した。
そんなお約束の光景を見ながら、苦笑する芽吹に、秋人がポツリと聞いていきた。
「お前、水着着るのか?」
「いや……出来ればそれは避けたい」
「だよな……」
なんとなく沈黙してしまって、それが気まずく感じた芽吹。つい挙動不審になってしまう。
「と、とりあえずそれっぽく店内見て回ろうぜ」
「あ、あぁ、そうだね」
そい言って特に買う気もないのに店内を歩く芽吹と秋人。
なんとなく水着を見て歩く僕。「こ、これは、かなり奇抜なデザインだね。どんな人が着るのかな?」
「確かに。これはエロいな。これはハルには合わないな」
「合う合わないの次元じゃないでしょこれ!?」
そんな僕達の所に、店員さんが一人ちょこちょこと駆け寄って来た。
「きゃ~お客様超可愛いんでけど~。可愛い水着、何かお決まりですか?」
「へっ、あ、いやあの……!?」
「あ、すみません。まだもう少し見て回ります」 慣れない水着選びという環境と、突然女性店員から可愛いなどと言われて動揺する芽吹に変わって、秋人がさらりと対応した。女性店員は笑顔のままその場を離れていった。 その後しばらく、僕は秋人とは別行動で店内を見て回っていた。
他の女性客や、夕夏のはしゃぎぶりを見てる内に、水着を着てみたくなってきて、ちょっと真剣に水着を見てみることにした。
今僕は、ある2着の水着を持って試着室の中にいる。のだが……。
(実際に着替えようすると羞恥心が半端じゃない。すぐ外には店員さんもいるし)
夕夏に習って思い切ってビキニはどうだろうと着てみたが、
(これって、下着まんまじゃん。恥ずかしすぎるよーー!)
二つ目は、上はビキニ動揺だが、下はショートパンツにフリルスカートが付いたタイプ。
鏡に写る自分の水着姿に、
(か、可愛いかも……)
自分でも思わず見惚れてしまった芽吹。
とりあえずと思って僕はカーテン開けた。そしたら目の前に秋人がいた。
「……!!」
やや頬を染めて硬直する秋人。
「僕、とりあえずこれにする……」
赤くなった顔を隠すよう俯いて喋る芽吹。
「ハル、お前それ……」
「み、みんなで海で遊びたいし、一時の水着ぐらい別に平気だもん」
「はぅあっ!」
「ツンデレ萌ぇ~!」
芽吹の素のツンデレに、店内にいる全員が、内心で卒倒していたことは、芽吹には内緒である。
真夏の太陽に照らされながら、波打ち際を駆ける銀髪の美少女。
「海海海うみぃぃぃ~!」
初めての女の子の水着に早くも順応してしまった芽吹は、精一杯海を楽しんでいた。
(まさかハルのあんな可愛い水着姿が見れるなんてなぁ~)
そんな芽吹に、秋人は内心デレデレだったりするのだった。
続く…
芽吹ちゃんの男の子復活計画開始早々、水着デビューと。芽吹ちゃんの心情を描写しきれなかった感はありますが、楽しんでもえたら幸いです。