春二十番 心の眼で見ろ!
今回芽吹ちゃんは、自ら男の子への復活を試みる。しかしのその方法は、秋人のメンタルを著しく削る方法だった。
夏休みパートのサブキャラも登場!
秋人は今、芽吹の家の玄関に立っていた。ずぶ濡れで。隣に立つ芽吹もまたずぶ濡れだった。
下校途中に夕立に当たってしまい、雨宿りすることなくここまで走ってきたのである。
「家乾燥機あるから、家に上がってよ」
「なんか悪いな」
「いいよ。家今日みんな遅いみたいだから、少し遊んでってよ」
芽吹からタオルを受け取って玄関で頭を拭く。ふと、秋人は芽吹の方を見て、顔を背けた。芽吹のYシャツが透けていたからだ。本来男同士なら気にすることなんて何も無いのだが、今の芽吹は年頃の女子。一応出ている所は出ているわけで。
「あ、どうせだったらお風呂入ってく?ただ着替えただけじゃ風邪引いちゃうかもだし。僕もお風呂入りたいし」
「いや、家近いんだから、別にいいって」
「いいじゃんたまには。前みたく一緒にお風呂入ろうよ!」
「え……!?」
「ん?」
(今……今こいつはどんでもないことを言った。一緒にお風呂!?幼い馴染みの女の子と!?いや、ハルはもともと男だ。でも今は女の子の体……。こいつが以前の感覚のままでも、俺がヤバいだろ)
「ん?」
この時芽吹は自分の言った言葉の意味にまだ気付いていなかった。
「どうしたの秋人?」
秋人は一応聞いてみることにした。
「ハルは今女だろ?一応」
「そう…だね。体は一応」
「俺と一緒に風呂って、マズくないか?」
「…………」
(あれ……、もしかしてこれ、教えない方が面白かったんじゃないか?)
秋人は邪な思いを抱きつつ、芽吹を見た。すると、
「み、見た目に捕らわれるな秋人。心の眼で見ろ。僕は男だ!」
「は……?」
一応開き直ってはいるようだが、顔は赤い芽吹。秋人は目が点になった。
「僕と秋人が一緒にお風呂に入ることが混浴だと秋人は思っているのか?」
「と、当然だろ」
秋人も顔を赤くしながらそう答えた。すると芽吹はなぜか俯いてしまった。
少しの間沈黙が流れ、溜まらず秋人が何かを言い欠けようとした。その時だった。
「秋人は……、秋人だけは、僕のこと女の子だと思っちゃダメだ!」「えっ、いや、つったってお前……」
「ダメなんだ。いいから早くお風呂入るぞ。風邪引いちゃうだろ!」
擦った揉んだの末に、結局押し切られる形で秋人は今脱衣場に立っている。トランクス一丁で。その後ろでは、今まさに芽吹の脱衣中である。
芽吹曰わく、
「僕の裸を女の子のそれとして見たらダメ。どうしても抵抗するということは、秋人が僕を女の子として見ている証拠だ。つまり秋人は僕をえっちぃ目で見てるってことなんだ。変態さんだ!」
芽吹に。友達に。幼馴染みに。(一応女子に)変態呼ばわりはされたくない。というわけで、今秋人は無駄な抵抗はしないことにした。しかしだ。後ろを、芽吹の方を見れない。
(今のこいつの体を直視して、俺のアレが冷静でいられるのか。もし、俺のアレがご起立してるをハルに見られたら、今までの関係が崩れかねない。どうする俺)
秋人は額に大粒の汗を掻いていた。
「僕が先に体流すからちょっとだけ待ってて」
背後からそんな声が聞こえる。
秋人は全ての煩悩を制御するべく、脳をフル回転させた。
芽吹は今確かに女の子の体だ。でも精神、中身はまだ男なんだ。男同士風呂に入るのに何を恥ずかしがることがある?まして小さい頃からの付き合いだ。見た目は男女混浴かもしれないが、兄妹で入ってる感じと思えば何てことない。
秋人はそう自分に言い聞かせ、トランクスを脱いで浴室に入った。 芽吹は先に浴槽に入っている。秋人からは体は見えない。しかし、芽吹はこっちの方を見ていた。秋人はタオルで股をかくしたりはしていない。ありのまま。芽吹も同様だが。
僕は浴室に入ってくる秋人の方を見た。最初は別にどこを見る訳でもなかった。でも多少は気になってしまった。
秋人から見た芽吹は、一瞬。ほんの一瞬、秋人のアレを直視した。そして視線を上に上げ、秋人の顔を見た。秋人も芽吹を見る。目が合った瞬間、芽吹の方が顔を赤くして目を逸らした。
(僕は男僕は男僕は男。秋人は友達秋人は友達)
(ハルは男ハルは男ハルは男)
心の中でまるで念仏のように唱える2人だった。
2人で入る浴槽は狭過ぎず、広すぎず。
芽吹も秋人も、何故か無言である。カポ~ンと効果音が聞こえてきそうな、なんとも言えない静寂が浴室に漂っていた。
(ちょっと恥ずかしい気はするけど大丈夫。昔みたいに秋人とこうして裸のお付き合いすれば、その内男の子に戻れる)
芽吹は最近こう考えていた。
女の子の体になって以来、トイレの仕方や女の子の入浴法とか、下着とか女子の制服とか、女の子としての環境に順応し過ぎてたんじゃないかと。だから、秋人とまた昔みたいに男同士の付き合いをすれば、意識に影響を受けて男の体に戻るかもしれないと。
雨は止んでいた。
秋人は芽吹からスエットとTシャツを借りて着ていた。芽吹は自分のハーフパンツとTシャツ。因みに現在ノーブラである。
「久々に秋人と男同士の付き合いが出来た。全然恥ずかしくなかったな!」
(俺は色んな意味でギリギリだったけど)
「まぁ、昔から全部知ってる秋人となら、女の子の体でも別に減る物なんてないな。あ、僕減る程も胸ないしね。あははははは!」
(俺のメンタルが著しく磨り減ってるけど)
これをスタートに、男芽吹の復活計画を考えていた芽吹だった。秋人という清い青少年のメンタルを犠牲にして。
それからというもの、芽吹は見た目こそ女子なのだが、放課後や休日は常に男物の服で過ごすようした。始めの内は、母菜花にいろいろ言われていたが、その内、父風吹と兄筑紫から、「ボーイッシュ芽吹ちゃんもカワイイ!」とか、「マイシスターは完璧激カワ僕っ子だ!」などと興奮して、菜花の不満を凌駕したため、芽吹はそのまま計画を続けた。
学校では、今までの女子との絡みよりも男子との絡みも増やそうと、芽吹も好きなゲームの話や、アニメ、漫画、ラノベなどの話題に積極的に絡むようにしていったのだ。
「芽吹ちゃんは好きアニメとか何。最近のでも何でもさ?」
「僕はね、『みなみけ』とか。あっ、『あの花』はすっごい好きなんだ!」
「へぇ~。ほのぼのとか日常系かぁ」
「日常系なら俺『俺妹』が好きだぜ」
「あ~『俺妹』かぁ。キャラデザインとか好きなんだけど、僕、兄貴がいるから何かちょっと……」
「まぁ、確かに……」
と、その時後ろから、 「まぁ、その立場分からんでもないねぇ~」
「わっ!」
突然背後から同意の言葉を発したのは、柴崎葵さんだった。ショートカットで、片方の前髪を耳の辺りで可愛く髪留めしている。彼女もアニメラノベが好きらしい。
「びっくりしたぁ。柴崎さんか」
芽吹がホッとして言うと、柴崎はちょっと不機嫌な顔をした。
「柴崎さんなんて今更他人行儀だね。葵ちゃんて呼んでよ」
「え、あぁ、ゴメン」
「アハッ。芽吹ちゃんってば可愛くなぁ!」
そういって芽吹は彼女に頭ナデナデされるがままだった。
夕夏と似た快活なところがあり、たまに男っぽい仕草がある彼女。柴崎葵。彼女との関わりが、芽吹の夏休みに大きく関わるとは、まだ誰も予想もしていない。
更に芽吹、男への復活計画はどうなるのか?
続く…
前書きにもありました。夏休みパートのサブキャラ。柴崎葵。夏休みパート限定なので、短い話数の中で、インパクトのあるキャラにしていきたいと思います。よろしく。