春十九番 瞬獄殺!
早く続きを書きたい衝動に抗えず、最近寝不足が続いております。
衝動と深夜テンションで書いたので、内容は薄っぺらいかもしれません。
堪忍してくりゃ~さい。
「俺と勝負だ。柊秋人!」
芽吹の部屋で。芽吹を巡る。秋人の闘いが始まろうとしていた。
顔を真っ赤にして反対の意を精一杯示す芽吹。八乙女さんも、絶対ダメだと、怒りを混ぜて断固反対している。夕夏も、と言いたいところだが、
「1人の美少女を巡る男の闘い…。校内イケメンランキング上位の2人に挟まれて、狼狽える芽吹ちゃん。これってオイシイ展開じゃん」
夕夏のそんな声が聞こえたのか、芽吹は鳴きそう顔をこちらに向け、首がもげるのではと思うほど首を横に振っている。
「さあ、柊秋人、彼女との愛に自信があるならさっさと始めよう」 さも自信ありげな、人を見下したような上から目線に秋人は、
「なんか腹立ったからはっきり言わせてもらうけど、先輩、悪いけど…」
そう言いながら、ベッドに座る芽吹に肩を寄せに行く秋人。そして肩を抱き寄せた。
「わるい……」
口の動きだけだが、芽吹にはそう聞こえた気がした。
え?と言うつもりが、その口は、秋人の唇に塞がれてしまった。
「んぐっ!?」
(え、何……、え、ちょっ、これって……)
芽吹の視界一杯に、静かに目を瞑る秋人の顔が。唇には暖かい、柔らかい感触が。
秋人はゆっくり芽吹から唇を話すと、ごめんと、口だけ動かした。
秋人は毅然と坂口氏の方を見やった。
「ハルと俺は既にこういうの何度もやってる仲なので、先輩からの勝負の申し出は受ける気はありません。こいつが可哀想です。好きなら察して下さい」
この時、夕夏と八乙女さんの反応は、夕夏は恋愛ドラマに胸キュン歓喜悶え中。八乙女さんは密かに百合恋を願っていたが、この光景に打ち砕かれ、卒倒寸前。
対する坂口氏は、
(ば、バカな。確かな情報では、柊秋人と彼女は、ただの幼馴染みで、双方に恋愛感情は無かったはず。なのに、こいつは今、¨何度も¨と言ったな。出任せ?いや、そうであれば彼女が拒絶するはず。ば、バカな…) 何もしないまま、決定的な敗北感を叩きつけられた坂口氏は、まるで朽ちかけの泥人形のように立ち尽くしていた。
しばし、微妙な空気が漂う芽吹の部屋。
(うわぁーー、俺はハルに何て事しちまったんだぁーー。ハルがいくら可愛いからって、中身は男だぞ。これじゃ俺変態じゃねぇか。うわぁーどうしようーー!?)
内心猛烈に後悔している秋人だった。
その時、ボンっと、突然何かが破裂する音がした。秋人、夕夏、八乙女さんは、その音がした方を見る。
その音の原因はなんと芽吹だった。
口は半開き。目は点。足の先から頭の天辺までという程真っ赤っかになり、頭からは湯気が立ち上っていた。
芽吹の目はあらね空間を見詰めている。これはマズい。芽吹の意識はこの世界からフェイドアウトしかけている。
(ヤバい。筑紫さんにバレたら絶対殺される!)
つい頭を抱えようとしたが、目の前にはまだ坂口先輩がいる。秋人は寸でのところで平静を装った。
「鳴海、八乙女、この人を丁重に連行してくれ」
幸い、筑紫はまだ帰って来ない。最凶最悪の修羅場にはならずに済みそうである。
3人が帰って、部屋には秋人と、茫然となった芽吹の2人になった。
さっき帰る時に八乙女さんに睨まれた意味を考えつつも、今は芽吹に謝罪するのが先だなと、芽吹の横に座った秋人。
「ハル、おい、ハル、戻ってこーい!」 何度か揺すって、漸く我に帰った芽吹は、秋人の存在に気付いてこう呟いた。
「僕の初めてが、秋人……」
無表情の芽吹。
秋人は溜まらず、勢い良く土下座した。床に額を打ち付けながら土下座した。
すると、
「なんで……」
「ごめんハル。本当にごめん。でもあの人を諦めさせるには、あの時はあれしか……」
もうこれ以上どう謝れば良いんだと、泣きたくなる秋人だったが、芽吹の反応は意外なものだった。
「なんで謝まるの?」
静かな優しい口調。
「だって、お前の初めてを俺なんかがこんなふざけた状況で……」
「嬉しかったよ」
秋人の言葉を遮るように、芽吹はそう言った。
「え……」
一瞬、耳を疑う秋人。
「僕は嬉しかったよ。何されたのか分かった時は恥ずかしかったけど……、秋人で良かった」
言葉が出て来ない。芽吹の言葉は理解出来ている。しかし、全く予想外の反応に、珍しく秋人の方がフリーズしてしまった。
これはつまりどういう意味を表すのか。秋人は鈍る頭をなんとか回転させて、芽吹の言葉を反復して考えた。
嬉しかった。秋人で良かった。俺で良かった。初めてのキスが俺で良かった。
段々と答えが明確になってゆく。
秋人はゆっくり頭を上げ、芽吹を見た。
後ろの窓から差し込む夕陽が逆光になり、しっかりと表情は見えなかったが、芽吹の顔はまだ赤かった。
「ハル、お前……、良いのかよ、俺男だぞ。お前男にキスされたんだぞ。気持ち悪くないのか!?」
「僕は女だよ。それに僕、秋人の彼女だもん。別に気持ち悪くないよ。ちょっと恥ずかしいけど」
そう言って、明るく微笑む芽吹の様子に、なぜか不安になる秋人。
「お前それ、冗談とか我慢とかじゃ……」
すると芽吹は突然秋人に抱き付いて来た。
「僕は秋人のこと好きだよ。秋人は僕じゃダメ?」
「いや、それは……」
「男の子だったこんな僕じゃ、やっぱりダメ。気持ち悪い?」
抱き付いた体勢から上目で見詰めてくる芽吹。
秋人は、自分の顔が見る見る熱くなるのが分かり、思考が停止寸前だった。
頬を染め、切なそうな潤んだ瞳で見詰めてくる芽吹。
その時、秋人の中で何かが崩れた。
今の、女の子としての芽吹への思いが溢れ出す。
秋人は、芽吹の小さな肩を掴むと、ベッドへと押し倒した。
(何やってんだ俺。止まれ。止めろ。ハルはすげぇ可愛いし、良いやつだし、めっちゃ好きだ。でも友達だ。こんな事しちゃダメだ。止まれ俺!)
今にも芽吹を抱こうとしている自分を、僅かな理性で止めようとしている秋人。
対する芽吹は、以前より伸びた銀色の髪をベッドの上に広げて、こっちを見上げる顔は、まるで酒に酔ったような、トロンと甘い表情をしていた。
その表情に、秋人の理性がまた揺らぐ。(くっそ……)
「ハル、俺はお前が……!」
そう言いかけた直後、
「チェストォォォォ!!」
バーーンッと部屋のドアが開き、凄まじい殺意の波動を放つ、兄筑紫が乱入して来た。
「兄貴?」
「げっっっっ!?」
芽吹はキョトンとしているが、秋人はこの瞬間、死を覚悟した。
「あぁきぃとぉぉぉ、己はぁぁぁぁ……」
まるで地獄の声。
「ちょっと待って、俺まだ何も……っ!」
「瞬獄殺!」
その瞬間、秋人の意識は途切れたのだった。
翌日。
秋人は寝坊をしてしまった。
急いで学校へ向かいながら、昨日のことを思い出す。しかしどうにも記憶が曖昧なことに、仕切りに首を傾げる秋人だった。
その翌日。
いつも通りの時間に芽吹の家の前を通ろうとしていた秋人。
(ハル、まだ休みかな?)
そう思っていると、
「じゃあ行って来まーす」
と、聞き慣れた明るく可愛い声と共に、玄関の扉が開いた。
芽吹である。
「あっ、秋人。おっはよう。ちょっと久し振りだね!」
「お、おう」
どうやら例の障害はとりあえず落ち着いたらしい。学校に着いても周りの男子が異常な行動をとる様子はなかった。
またいつも通りの日常に戻ったが、この間の記憶が何故か曖昧なことに、頭を掻く秋人。芽吹と何かあったよう、結構大事な何かがあったような。しかし、芽吹の方はそんな素振りも無く。
芽吹も秋人もあのキスのことは覚えておらず、坂口隼人も、あの後筑紫に制裁を喰らい。芽吹の異常なフェロモンの影響を受けた者は皆、記憶が曖昧になっていることが後々分かったのだった。
つまり、秋人が芽吹にしたキスの瞬間は、夕夏と八乙女さんだけが知る事実となったのだった。
続く…
恋愛色もっと勉強しま~っす!
坂口氏はギャグパートでたまに出すつもりですが、若干、出島と被るので、出演率は極少です。




